操り人形の幸せ
存外、私の人生というものは幸せだったのかもしれない。
忌み嫌われるハーフとして生まれて、子供のころはこの姿に何度も気味悪がられて孤立していた。
教育施設に行っても、教育を受けるものはみな平等などという看板を下げながら私を避ける教師。
施設を卒業して仕事に就こうとも、この姿のせいか私を雇ってくるれる所はいない。
確かに、苦しくてきつくてこの世界が嫌いになりそうになるが、
ハーフとして嫌われながらも、私は愛されているのだと知っていた。
父と母は、ハーフとして生まれながらも、私を愛してくれた。兄は父の種族として生まれ、私のことをいつも気にしてくれていた。妹は母の種族だったらしい、小さいころは野花を摘んできては私にプレゼントしてくれたし、手が大きくなり裁縫ができるようになると、私に編み物をくれた。こんな姿だろうが関係ないといってくれた幼馴染がいた。この姿を素敵だといってくれた学友がいた。
そして……
「あぁ……存外……悪くない……人生だった……」
ベッドの上に横になり上を見ながら皺枯れた声でそうつぶやく私に、ぽつんとひとつの声が答える。
「そうですね、あなたの道は決してやさしいものではなかったけれど、それでも支えあいながらここまできたんですものね」そしてそっと私の手の甲に、声の主の手のひらが重なる。
「そうだな……最初は、幼馴染と冒険し始めたのがきっかけだったか…」私は声の主を誰かと確認ずそのまま思い出話へと移っていく。
冒険者となってからの日々、冒険者を引退し、孤児院を建ててすごした日々。色々な思い出を思い出しながらポツリポツリと語る。声の主そのひとつひとつを相槌を打ちながら聞いてくれた
「長く話をしすぎたな……少し、疲れた。そろそろ……休ませて、もらうよ……」
「えぇ、おやすみなさい。また羽ばたくために。より険しい道を越えられるように。私は、あなたの行く道を見守ります。」
私の手の甲に触れていた感触がふっとなくなり、声の主の気配もなくなった。
今度来たときは、どんな思い出を話そうかと思案しながら、私は眠りにつくのだった。
こうしてひとつの命のともし火が消えた。享年1024歳 その姿は何かを楽しみに待つ子供のような寝顔だったといわれている。
――――――
ピー――――ッ
「No.810の生命活動停止を確認。全実験の生命活動の停止が確認されたため、記録を停止します。」
ひとつの明りしかない暗い世界で、無機質で平坦な女性の声が聞こえた。
その声の後に、その最後の明りがふっ……と消えてなくなった。
明り消えた後に聞こえてきたのは、男女の会話だった。
「全実験体の中で、成功したのは1名か……1名しかいなかったことを嘆くべきか、それとも1名出たことを喜ぶべきか……」
出てきた結果に不満を持つ男性の声、その声に反論するかのように女性の声が聞こえてくる。
「1名出たことを喜ぶ出来なのでは?そもそも、生き残ること自体が稀の条件で行ったのですから。」
その女性の反論に納得したように男は答える。
「そうだな、1名でも成功したのは幸いだな。これで次の段階へ進めることができる。準備のほうはどうだ?」
「万事つつがなく終わってます。後はNo.810のサンプルを取り込みと微調整だけです」
「相変わらず準備がいいな。では、次の段階へ進むとしよう」
「はい、教授」
それ以降その空間は無音となった。
――――
何者に操られ、感情を思考を行動を操作されようとも、これだけは言える。
操り人形だとしても、作られた感情であったとしても、私は幸せだった。これだけは断言しよう
何者として生まれてきても、幸せになることはできると、そのための努力を怠ってはならないと