No.3 放課後Working
いつの間にか指にはまってあった指輪はなぜか外れなかった。
サイズが小さいからかなのか指と指輪の隙間に油を流し込んでも洗剤を流し込んでも全くといっていいほどに外れない。
まるで体の一部のように指にフィットしていた。
買った覚えも貰った覚えもないその指輪は不気味だったが外れないのでどうしようもできない。
私にできることは気にしないようにすることだけだ。
しかし問題が1つある。
校則の1つである学内への不要物の持ち込みの禁止だ。
包帯を巻いて怪我をした風を装うことを考えたが怪我はいずれ治るのでこの手を使うのにも限度がある。
手袋で隠す手もあるが今までしていなかったものを付けていたら目立つし何より暑さに耐えきれない。
そんな訳で開き直り、見つかったら祖母の形見とでも言おうとしていたのだがあれから1週間、運良くバレずに済んでいる。
1週間もバレずに済んでいるなんて有り得ないと思うが、生活指導が入らないのでこちらとしてはありがたい。
このまま外れるまでバレずに済んで欲しいものだ。
心のなかで祈りながら私は学校の廊下を歩いている。
普段より人気がない廊下を歩く。
目的地へと歩みを進める。
今日の授業はもう終わっている。
では何故にまだ学校に残っているのか。
勉強と言う名の鎖で私たちを縛り付け、苦行を強いてただ精神を磨耗させるだけの悪の施設である学校に何故残っているか。
それは決まっている。
学生が学校に行く意味。
それは部活をするためである。
この学校において問題児とされている私だが一応部活はしている。
人数が少ないため部活というより同好会なのだが。
特別棟の2階にある音楽室の隣の空き部屋。
それが私たちボランティア部の部室である。
ーーーーーーーーーー
「お疲れ諸君!」
ドアを勢い良く開く。
そこにはボランティア部お馴染みの顔ぶれが揃っていた。
「あ、らきちゃんだー」
「アラキ先輩ちーっす!」
「……こんにちは」
ボランティア部のメンバーは四人。
中等部3年生にして部長である私、砂々森荒木。
同じく3年生で副部長の各務唯。
八重歯が似合う爽やかな2年生、我妻蓮。
同じく2年生で大人しい清楚な少女、鹿ノ坂夜実。
このメンバーで社会貢献ならぬ学園貢献を日々行っている。
活動内容はグラウンドの草むしりから学園長のカツラの捜索までと幅広い。
設立した当初は内申点のために行っていたが後輩もでき、依頼者からの感謝の言葉を聞いていくうちにこの活動が好きになっていた。
「皆集まってるね。それじゃあ今日もがんばろう」
おー、と皆が声を揃えて気合いを入れる。
笑顔で元気良く、それが我が部のモットーだ。
今日の依頼内容を確認する。
グラウンドの草むしりと美術部の備品の買い出しの二件。
二手に別れた方がいいだろう。
「じゃあ、唯ちゃんと夜実ちゃんは買い出しをお願い」
「うん、わかったよー」
「……はい」
「蓮君は私と草むしりね」
「了解っす」
それぞれが目的に向かって動き出す。
今日もいつもと何ら変わりない日常が始まる。
草むしりの最中、今日クラスで起こった事件を蓮君が面白おかしく話していた。
その話は途切れることなく草むしりが終わるまで続けられた。
ーーーーーーーーーー
私たちが部室に戻ると唯ちゃんたちはもう帰ってきていてお茶を出してくれた。
肉体労働をして乾いた体に染み渡り、極上の瞬間だった。
仕事が滞りなく終わったためお開きとなったのだが結局皆で駄弁りながら時間を過ごし、下校時間まで学校に残っていた。
お兄さんを待つために部室に残った唯ちゃんと別れ、昇降口で家の方向が違う蓮君と夜実ちゃんと別れて私は今一人薄暗い道を歩いている。
辺りに人の気配はなく、遠くに聴こえるひぐらしの鳴き声がとても耳に心地よかった。
昼間の絡み付くような気持ちの悪い空気はなくなり、涼しい風が肌を撫でる。
皆といるのは楽しくて好きだけど一人でいるときの静けさも好きだ。
まるでこの世界で自分しかいないような、そんな非日常な感覚。
もちろんそんな訳はないけれど思春期だから非日常なことを想像してしまう。
難病にかかっても自分は死なないとか、不良に絡まれても返り討ちにできるとか、今世界が滅んでも自分だけは生き残るとか。
ありえないことを妄想してしまう。
たとえば目の前にあるあの人影がいきなり襲いかかってくるとか。
…………人影?
なんで人影があるんだろう。
さっき人の気配がないといったのは私自身だ。
目で見える範囲に人はいない。
影の上にはなにもない、ただ地面に影が伸びているだけだ。
濡れた地面がたまたま人の形に見えている可能性もあるが昨日も今日も雨は降っていないし昼間は晴天だった。
ごちゃごちゃと考えている内にも影は少しずつ迫ってくる。
頭が混乱する。
非日常なことが起こったとき自分ならいつも通りに行動できるだろうと思っていたけどそんなことはなかった。
私はただの中学生にすぎなくて特別な存在などでは決してない。
混乱して、怖くて、訳がわからなくて動けない。
目の前の人影は伸びている私の影に手を伸ばす。
太陽の光に逆らって伸びているその影はただただ不気味で怖かった。
怖いから目を瞑る。
開けたら何もなかったかのようにいつも通りの世界が広がっている。
そんなことを願って目を瞑る。
「なにしてるんですかー」
誰かの声が聴こえた。
「なんで魔法使わないんですかー」
声が目の前から聴こえる。
目を開けるとさっきまであった影はなくなっていて変わりに大剣が刺さっていた。
そしてその上に少女が立っている。
「あ、もしかして縛りプレイですか?いいですよねー、縛りプレイ。凡人にはできないところがグッドです」
突如現れたその少女は漫画やアニメに出てくるようなふわふわした服に身を包んでいる。
いわゆる魔法少女服というものだ。
不思議とコスプレの様な痛々しさは感じられなかった。
「そういえば聞かないといけないことがあったんでした」
大剣の上から見下ろす彼女は至って普通の表情で普通じゃない質問を私にした。
「あなた魔法少女ですよね?」
その問いに思わず、はいと答えてしまった。
……………………え?魔法少女?




