No.19 Burial ~愛地獄~
千藤さんは空いている脇腹に向けて蹴りを放った。
「っ!かはっ」
予想外のことだったようだ。
土間さんは苦しそうに息を吐いてよろける。
「ふーっ。間に合ったっすね、よかったよかった」
シニカルな笑みのまま倒れている私を見下ろしている。
「もう少しで先輩、肥料になってましたよ。感謝してくださいねー」
「……」
ありがとうと言おうとしたが、思うように声が出なかった。
千藤さんが来てくれた安心感からなのかどこか身体機能がおかしくなっているからなのかはわからない。
ちゃんと私の魔法は届いていたようだ。
日頃の行いの賜物だろう。
頭の片隅に氷柱のバカを見るような目が思い浮かんだ。
どうやらふざけた思考ができるようには余裕が出てきたらしい。
これも助けに来てくれた千藤さんのお陰だ。
「ちゃんとしてくださいね。大変なのは周りなんですからっ!」
そう言いつつ、後ろから土間さんが降り下ろしてきたスコップを避けた。
「避けないでよ。なに?あなたも私を捕まえにきたの?」
「だったらなんです?」
「埋めるだけ。一人も二人も変わらないもの」
「さいですか」
土間さんが叫びながらスコップを振り回す。
冷静ではないからなのか掠りもせず、千藤さんは余裕の表情で全て避けている。
「ところで、さっきの話だと福祉原陽亮と堀峰咲を殺っちゃったそうですけど、本当ですか?」
スコップを振り回すのを一端やめた土間さんがなんでもないような様子で答える。
「そうだけど」
「親友だったんじゃないんですか?」
「そう思ってたよ」
そう答える土間さんは肩で息をしていて疲れた様子だった。
流石に中学生の女の子があんなに動いていたら体力もなくなるだろう。
「私は悪くない。悪いのはあの女。自分の犯した罪に最後まで気づいてないようだったし。最後に言った言葉わかる?『何でこんなことするの?』だよ?もう救いようがないよね」
裏切ったのにね、とそう言った。
失望や怒り、呆れ。
そんな様々な感情が入り交じったような表情だ。
「隠し事されたくらいで親友じゃなくなるんですか?人を殺すんですか?それにーー」
「……」
「裏切りならあなたもそうじゃないっすか?」
「裏切り?私が?」
不思議そうに顔を傾ける。
「ここに倒れてるボコボコにされてる先輩ですよ。あんなにあなたの為に頑張ってたのに、可哀想な先輩」
芝居がかった皮肉を込めた口調だ。
「自分のことは棚に上げて他人を責めるのって楽しいです?悲劇のヒロインなら何してもいいんですかね?自分は酷い目にあってきたから?自分に酔うのもいい加減にしたらどうですか?」
いい迷惑ですよ、と言った。
「……」
沈黙が流れる。
「はぁ、もういいよ」
しばらくの沈黙の末、最初に口を開いたのは土間さんだった。
大きなため息をついた。
「他の人に理解してもらおうなんて思ってないよ。他の人が理解できるなんて思ってない。私のことをわかるのは私だけ」
表情が消える。
なんの感情も感じられなくなった。
「ねぇ、わかる?人を本当に愛する気持ち。わかんないよね。こんなにこんなにこんなにこんなに、好きな気持ち。苦しいんだよ、わかる?
「愛って苦しいんだよ。ほんとは陽君のこと許そうと思ったんだよ。咲のことも。二人のことは大好きだと思ってるし、いっぱい感謝してる。でも、駄目だったの。苦しくて苦しくて堪らなかったの」
土間さんが地面に沈んでいく。
気づくと土間さんだけじゃなく、周りも少しずつ沈んでいっている。
土間さんを中心にすり鉢状に地面がうねっていた。
「愛ってね、地獄だよ。苦しいのが無限に続く無限地獄。結局私って愛とは縁がなかったみたい。もう、疲れちゃったし陽君のところに逝こうかな。やっぱり寂しいもん」
そう言った彼女の顔は晴れやかで、人殺しには見えない只のあどけない少女だった。
「これが私が願った愛の形。これが私の魔法、『愛地獄』」




