No.11 Burial ~痕跡を探して~
私は商店街に来ていた。
少し寂れているがシャッター街にはなっておらず、地元の人たちは個人経営店を利用している。
一時期は大型のショッピングセンターができるような話があったのだがいつの間にかそんな話は消えていた。
噂によると街の景観を壊さないようにということらしい。
個人的には少し残念でもある。
生活が便利になっていくことはいいことだ。
でも同時に、このままの雰囲気も悪くないとも思った。
この街が発展していっても廃れていっても結局は慣れてしまうのだろう。
人間とはそういう生き物だ。
環境に合わせて自分も変わっていく。
変わらないでいることは難しい。
かといって変わることも難しい。
人間は生きているだけで矛盾を孕む。
きっと行方不明の人が見つからなくてもそれに慣れてしまうだろう。
それは寂しいことだが大事なことでもある。
慣れるということは一種の自己防衛だ。
いつまでも引きずらない。
それは下手に知能をもってしまった人間という動物の本能なのかもしれない。
でもやっぱりそれは寂しいから私は行方不明の人たちを探す。
その状況を自分に置き換えてみるとぞっとしない。
土間さんは気丈に振る舞っていたが内心では不安だろう。
商店街に入ってすぐにある喫茶店、『Fla Bar』。
そこで堀峰さんはバイトをしていたらしい。
店内に入るとコーヒーのいい香りが鼻を刺激した。
客は二人、常連であることが伺えた。
「いらっしゃいませ」
心を落ち着かせるような優しい声が聞こえてきた。
流れているジャズの音楽と合間って心地よい感覚を感じる。
「お席へどうぞ」
髪を短く切り揃えた40歳前後の男性だった。
店員が他にいないことを考えるとこの人がマスターなのだろう。
「あの、突然すみません。ここで働いていた堀峰咲さんのことについて伺いたいのですが……」
「……咲ちゃんのことかい?」
「はい。その堀峰さんなんですが数日前から学園に来ていないそうなんです。何か心当たりはありませんか?」
「……君は」
いきなり切り出したものだから少し戸惑っているようだ。
「いきなりすみません。私は深山学園中等部三年の砂々森といいます。堀峰さんの友達の土間舞花さんに相談されて堀峰さんについて調べているんです」
「ああ、舞花ちゃんに」
少し驚いたような表情を見せたが、すぐにさっきの優しい顔に戻った。
どうやら土間さんとも面識があるようだ。
それなら話が早いかもしれない。
「僕はこの店のマスターの水上薫。僕でよければ何でも答えるよ」
マスターはさっきと同じ優しい表情で頷いてくれた。
「それで咲ちゃんが学園にいっていないというのは本当なのかい?」
「はい。それで手掛かりを探すためにここに来たんです」
「ご両親に連絡は?」
「土間さんがしたそうなんですが誰も電話に出なかったそうです」
マスターは顎に手を当て、考え込む。
「確か咲ちゃんのご両親は仕事で家を空けることが多いといっていたね。だから出なかったのかもしれない」
「でも、ご両親がいなかったとしても普通堀峰さんが電話を取りますよね」
「確かにそうだね」
「電話に誰もでないということは家に堀峰さんはいないということになります」
一旦、一息つく。
いっきに話しすぎたので私は息を整えることにした。
「……私は堀峰さんが何らかの事件に、巻き込まれたのだと思っています」
「警察には言ったのかい?」
「おそらく学園からすると思います」
私は嘘をつく。
魔法少女が関わっているので警察には相談できません、なんて言って信じてもらえるはずがない。
「あくまでも私が個人的に調べているだけです」
「そうか……。悪いね、なんでも答えると言ったのにこっちばかりが質問してしまって」
「いえ、大丈夫です。それで何か手がかりになるようなものはないですか?」
「そうだね……」
マスターは再び顎に手を当てて考え込んだ。
しばらく考え込んだあと何かを思い出したらしく、口を開いた。
「そういえばーー」
「何かありましたか?」
「うん。そういえば咲ちゃんは近々旅行に出かけると言っていたね。それでしばらくバイトを休みたいと」
「旅行、ですか。ちなみにどこへ行くかは?」
「それはちょっとわからないね」
マスターは申し訳なさそうに言った。
その後しばらく話したが特に手がかりになるような情報はなかった。
「今日はいきなり押し掛けてすみませんでした。質問に答えて頂きありがとうございます」
「いやいや、僕の方こそ大した情報がなくてすまないね」
仕事を邪魔してしまったというのにマスターは気にした様子はなかった。
「あ!」
失礼しました、と言って店を出ようとした時、マスターが何かを思い出したような声をあげた。
「そういえば彼も近々旅行に行くと言ってたかな」
「彼?」
「福祉原陽亮君だよ。彼女たちの友達の」
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堀峰咲と福祉原陽亮。
二人の人物が同時期に行方不明となり、しかもどちらも旅行に行くと言っていた。
普通ならば逢い引きとでも考えられるかもしれないがさすがに一週間近く休んでいるのは不自然だ。
マスターの話によれば失踪した前の日もいつもと変わらない様子だったという。
バイトを休む連絡がメールで来たことは少し疑問に思ったらしいがあまり気にしなかったそうだ。
なんとなく嫌な予感がする。
私の頭の片隅に埋葬事件がちらついたがすぐに頭を振って追い出す。
まだ、土間さんには言わない方がいいだろう。
無駄な心配をかけるのはよくない。
とりあえず、学園へ戻って月岡先輩に報告しよう。
私は商店街を後にし学園へと足を向けた。




