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冬の終わりに

作者: でんでろ3

 安アパートの一室に、コタツが一つ。差し向かいに父と息子が入っている。二人とも、深々とコタツ布団をかぶり、腕までコタツに突っ込んで、背中を丸めている。

「父ちゃん、寒いよ」

「いや、それほどでもない」

「寒いよぉ」

「よく思い出せ、本当の真冬の寒さを。今は、冬の終わりだ。あのころに比べれば、寒くない」

「比べて、どう、とかじゃなくて、今、寒いんだよぅ」

「よく考えろ、ここは、関東だ。北海道に比べれば、暖かいぞ」

「僕、聞いたことあるんだけど、北海道の人は、家の中は、暖房ガンガンで、Tシャツ一枚で過ごしてるんだってよ」

「父ちゃんは、地球に優しいんだ」

「僕にも優しくしておくれよぅ」

「甘やかしてばかりではいかんのだ」

「あんまり甘やかされた記憶がないんだけど……」

「大人になれば分かる」

「また、それ?」

「そんなことより、今は、冬の終わりだ。それがどういうことだか分かるか?」

「もうすぐ冬が終わるっていうこと?」

「だから、お前は、あかさたなだって言うんだ」

「『浅はか』って言いたいの?」

「……そうとも言うな。つまりだな、冬が終わるという事は、春がやってくるんだよ」

「春が!」

「そう! 春だ!」

「じゃあ、もう、夜が明けたら、僕や父ちゃんが凍死してないか、心配しなくていいんだね?」

「そうだ!」

「寒すぎる夜に、ドンキホーテに行って、ブラブラしなくていいんだね?」

「そうだ!」

「寒さしのぎに、資源ごみから、古新聞を盗んでこなくていいんだね?」

「そうだ!」

「暖まるために、むやみやたらとお湯を沸かして飲まなくてもいいんだね?」

「そうだ!」

「父ちゃんと、年がら年中、くっついてなくていいんだね?」

「そうだ!」

「コンビニに行って、おでんの匂いをかいで、思わず涙ぐまなくていいんだね?」

「そうだ!」

「自動販売機の前を通る度に、つり銭の取り忘れがないか確かめなくてもいいんだね?」

「それは、許さん」

「ちっ!」

「まぁ、それはさておき、春になれば、多くの問題が解決するぞ」

「そうかぁ、早く春にならないかなぁ」

「春になったら何がしたい?」

「父ちゃんとキャッチボールがしたい」

「はっはっはっ、グラブはおろか、ボールすらないぞ」

「じゃあ、縄跳び」

「はっはっはっ、首をくくる縄すらないから、生きていられるんだぞ」

 その瞬間、室内の照明とコタツが同時に消えた。

「父ちゃん、電気代、ちゃんと払ってる?」

「はっはっはっ、ちょーっくら働いてくらぁ」

「いつも、そうしろ」

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