Yesロリータ GOタッチ
「ボワーッハッハッハッハ。
跪けっ!! 村人どもよ!! 泣き叫べっ!! 通行人共よ!!
我こそが魔王っ、ツリーベン様なるぞっ!!」
ここはとても平和な世界、その名はトリベルン。
今日も元気にトリベルンの片田舎、小さな農村の小さな入り口門の脇で、一人の男性が長くつややかな黒い長髪を風に揺らめかせ、かの令嬢ですら一目で惚れてしまうほどの甘いマスクを愉快に歪め、高笑いしつつブーメラン形の海パン一枚に赤いマント姿で仁王立ちをしていた。もちろん腹筋は六つに割れ、黄金色に輝く肌と雲のように真っ白な歯を輝かせて無駄に爽やかだ。
「黙れ魔王(笑)」
ぺちーんと小気味良い音を立て、通りすがりの少女が魔王の頭をはたく。
「くっ!! いきなり何をするか貴様っ!! 我を魔王ツリーベン様と知っての狼藉かっ」
「はいはい、邪神トリニッテ様に力を分けていただいた伝説の魔王(笑)様なんでしょ?
それはいいから、まずは今日の仕事をしましょうね~」
激昂する魔王(笑)様とは裏腹に、少女は冷ややかな視線のまま魔王(笑)様に近づく。
視線の意味に気づいた魔王(笑)様はごく自然に視線から顔を逸らしすと、先ほどまでの威厳は何処へといった感じでボソボソと呟いた。
「下僕共に施しは与えたし(家畜の餌やり)、国土は蹂躙し尽くした(畑の耕し)。文句を言われる筋合いなどない。
後はこの世界に我の名と邪神トリニッテ様のお名前を轟かせるだけが我の仕事だ」
よくよく見ると、魔王(笑)様のすぐ横にみえる広大な畑は十分に耕されており、すぐ近くには十数頭の家畜が美味しそうに牧草を食んでいた。
「うん、まぁ~、やることをしっかりやってるんなら口うるさくは言わないよ。
で・も・ね、なんでそんな格好で高笑いなんてしてるの?」
少女の問いに、魔王(笑)様はきっぱりはっきりかっちりと答える。
「それは我が魔王だからだっ」
"スパァンッ"
魔王(笑)が言い切る前に子気味良い音が頭部から鳴り響く。いつの間にか少女の手には長さ50cmのハリセンが握られていて、そのハリセンで魔王(笑)の頭をはたいたのが簡単に予想できる。
「はいはい、魔王(笑)は分かったから、もう少し恥ずかしくない格好をしようね、お兄ちゃん」
この少女、よくよく見ると魔王(笑)様と同じ艶やかな黒髪とサファイアのように澄んだ青い瞳を持っている。
顔形も整っており、アイドルとして売り出せばミリオンセラーも間違いないだろう程の美少女だ。惜しむべらくはそのえぐれた胸部にあり、そこさえもっと豊かなら神も手放しで彼女こそ魔王に抜擢したのだ「ていっ」——がブベラァッ!?
「今……、何を?」
「あ、ごめんごめん。ちょっとむかつく事を言われた気がしたから全力で投げ飛ばしただけ」
「投げ飛ばしたって……、あれ、村に伝わる聖剣だった気が……」
「うん、それが何か?」
「それがって……、なんで聖剣なんてもっているんだ?」
「魔王をとめるには聖剣でしょ?」
「……いや、まぁ、そうなんだが……。って言うか、聖剣は持ち主の命とリンクするんじゃなかったか?」
「うん? そうだよ」
「そうだよって簡単にっ……、いやっ、そもそもそんな大切なものをどっかに投げ飛ばすなよお前っ!?
しかもどこに放り投げたんだ? キラリンって光って姿形さえも見えなくなっちまったぞっ!?」
「仕方ないよ、あの剣じゃないと届かない気がしたんだから」
「あ、……そうなの? っていうか何に?」
「それに、どこへ消えようと望めば戻ってくるから大丈夫よ。こいっ!! ……ほらね?」
「ほう、飛んで行ったはずの聖剣が一瞬で手元に……、便利だなぁ……。じゃないっ!! っていうか刀身っ!? 刀身にべっとりと血がくっついてるんだがっ!!」
「うん、無事当たったみたいで良かったよ。あ、大丈夫だよ? 私が敵と認識した者以外は切らないように設定できるから。変なもの以外は切ってないし。
っと、少しばっちいからちょっと拭かせて」
「ちょっ!? 人のマントで何拭いてるのっ!! 血のシミって洗濯じゃ落ちづらいんだよっ?!」
「えー。どうせ真っ赤だしいいじゃん。
それにこのマントってば一着しかないのしってるから、これが使い物にならなければ暴走行為なんてしなくなるし、いいかなって思って」
「さらっと酷いな?! それに、あれは暴走じゃなくてトリニッテ様に頼まれた破壊行為であってだな……」
「まったまたぁ。いつものように五郎ちゃん(赤龍)や花ちゃん(黒龍)を呼んでお空を爆走するだけでしょ?」
「いや、あれは爆走してるんじゃなくてだな……」
「でもお父さんも言ってたよ?
ツリーベンがやってるのは暴走族って言うんだ、って。しきりに懐かしがってたなぁ。
あと、じきに嫁さんでも見つかって俺のように大人しくなるから安心しなさいって言ってた」
「……マジで?」
「うん」
「親父……、昔何やってたんだよ……?
っじゃないっ!? 何故だっ……、親父にはバレないよう隠れて破壊活動をしていたというのに……」
「……っえ!? あれで隠れてるつもりだったの」
「うむっ。完璧だろう? トリニッテ様から頂いたブーメランパンツと赤いマント。これさえ羽織っておけば、正体を見抜かれる心配などせずに破壊活動に専念できると伺ったんだ」
「……お兄ちゃん、それ騙されてるよ」
「っな!? なんてことを言うんだ!!
間違いなくこの格好をしてバレたことはないぞっ!? この前、お隣のゴンゾーさんやお向かいのヨネスケさんがこの格好の俺を見て、恐れおののいて視線をそらしながら足早に家に駆け込んで行ったんだぞっ!!
二人とも、必ず挨拶をしてくれるいい人なんだ。俺の正体がすぐに分かるんなら、あんな風に恐れおののかず、気さくに挨拶してくれるはずだっ!!」
「……お兄ちゃん、自分の格好を見ようよ。
ゴンゾーさんもヨネスケさんもかける言葉が見つからなかっただけだって。
二人からこっそりとお兄ちゃんを止めるように頼まれて、仕方なく聖剣と契約するはめになったんだからね?」
「……っな!?」
「しかもあれよ、何大声で自分の名前叫んでるの? 隠す気ゼロでしょ? 馬鹿なの? アホなの? 私、近所の晒し者なんだよ?」
「いやっ、それは魔王なんだから名乗るべきとトリニッテ様が……」
「人のせいにしないのっ!! 素顔丸出しの衣装な上、更に名乗れだなんて、どう考えても隠す気ゼロでしょ。そのくらい気づきなさいよっ!!
そもそもトリニッテ様って誰っ!?」
「トリニッテ様は邪神様で、何の力も無かった俺に闇の力と二匹のしもべを与えてくださった偉大なるお方だ。
そんなお方が嘘をおっしゃる筈がないっ!!」
「で! そんなお力を授かって破壊活動を強要された訳?」
「いいやっ、強要されたんじゃない。力の見返りにこの平和な世界に破滅と混乱を撒き散らしてくれと頼まれたのだっ!!」
「……で、頷いたの」
「うむっ!!」
「うむっ!! じゃなぁぁいっ!!
……ばぁっっっかじゃ無いの?」
「ひどいっ!?」
「酷くないっ!!
そもそもお兄ちゃん、いつもいつもいつもいつもお父さんから言われてるでしょ?
知らない人にお菓子を貰ったって、ついて行っちゃいけませんって?」
「ん? うむ、よく言われるな」
「うむ、よく言われるな。じゃな〜いっ!!」
「それがどうしたのだ?」
「どうしたって……、力を貰ったからってほいほい言うこと聞いてちゃダメじゃないっ!! あの注意は、本当にお菓子を指してるんじゃなくて、何かくれてもってことなんだよ?! そんな事もわかんないのっ?!」
「ほいほい聞いたわけじゃないぞっ!!」
「じゃっ、なんで言うこと聞いてるのよっ!!」
「力を授かったからだっ!!」
「それがものに釣られたって言ってんのよっ!! このばかっ!!」
「そうなのかっ!?」
「そうなのっ!!」
「だがトリニッテ様は知らない人じゃなく、由緒正しい邪神様で人じゃない、そりゃ名乗られるまでは知らなかったけど……」
「つまり、知らない神様だから言うことを聞いたと?」
「うむっ!!」
「うむじゃないっ!! "バキィッ"」
「いきなり殴るなんて酷いっ!! しかもグーでっ!!」
「酷くないっ!! むしろ酷いのはお兄ちゃんの頭の方よっ」
「馬鹿っていわれたっ!?」
「言ってるのよっ」
「酷いっ!!」
「酷くないっ!! お兄ちゃんのせいで私は聖剣なんかと契約しないといけなくなったんだからこのくらい言っても当然よっ!!
契約したせいで不老長寿になっちゃうし、多分封印解けたのがバレるから国から召喚状が来るだろうし……、もぅ……、どうしてくれるのよっ!!」
「どうしてくれるって……」
「とにかく謝りなさいよっ!!」
「えっ!? あっ、はい。ごめんなさい」
「よろしいっ!!
で、そのトリニッテ様だっけ? その人について行って変なこと吹き込まれたのね」
「変って……」
「変なのっ!!
そうね……、取り敢えずそのトリニッテ様とやらをここに呼びなさい。連絡ぐらいつけられるんでしょう?
私からも一言いってあげるからっ」
「え、つけられるけど……、えっと……、でも無理」
「でも無理じゃ無いっ!! いいから呼ぶっ!!」
「はいっ!! ……え~っと、トリニッテ様、トリニッテ様、聞こえたらちょっと降臨してくださ~い」
「……」
「トリニッテ様ぁ~」
「……」
「おかしいな、普段は呼びかければすぐに応えが帰ってくるんだけど……。トリニッテ様ぁあ~」
「……」
「何? そのかわいそうな人を見る目。
嘘じゃないよ? トリニッテ様は本当にいるんだからね? トリニッテ様ぁ~」
「……」
「うそじゃないからねっ!? やめてっ、白い目でみないでっ!? トリニッテ様っ? お願いだからおりてきてくださぁ~いっ!!」
「……お兄ちゃん。もういいわ」
「うそじゃっ——」
「大丈夫、トリニッテ様は本当にいるんだよね?」
「勿論だよっ!?」
「うん、私が見えないだけだよね。だからね? 病院……、行こ?」
「うわぁぁん!! 絶対信じてないっ!! トリニッテ様ぁ~」
……はっ。失礼、三途のリバーでうっかり遠泳を楽しんでしまった。
状況は……。
「とぉりぃにってさまぁあ~」
「お兄ちゃん、大丈夫。私は信じてる。信じているから大人しく病院に行こ、ね?」
涙と鼻水を盛大に撒き散らしながら大声で私の名を呼ぶ魔王(笑)と懸命に宥めようとする少女。
随分とカオスな状況に、いつの間に集まったのか遠巻きに二人の様子を眺める村人たちが輪を作っていた。
「とりにってさまぁ~。あなたのしもべ、ツリーベンの大ピンチですぅ~。
どうかっ!! どうか姿をお見せくださいっ。でないとただのキチ○イになってしまいますぅ~」
私が意識を飛ばしている間、何故、このような状況になっているかわからない。だが、唯一の可愛いしもべが呼んでいる以上、状況説明という与えられた役割を捨ててでも顕現するのが邪神としての責務だろう。
涙と鼻水でせっかくの甘いマスクが残念以下となっている魔王(笑)へと念話を送る。
『だが断る』
「えっ!? ちょっ!?」
感度は良好らしく、念話を受け取った魔王(笑)はあたふたとし始めた。
『なんてうっそ~♪』
内心あたふたする魔王(笑)に大爆笑しつつ、顕現するために大地に魔力を通し、二人の目の前へゆっくりと実体化を始める。
身長は3mオーバー、黒髪黒目でざんばら髮。後ろ背には6対12枚の漆黒の羽を広げる。それが私、トリニッテの姿だ。
「呼んだか、我が魔王よ」
更に声に威厳と魔力を込め、周囲の人間をまとめて威圧しながら地面に降り立つ。
ゆっくりと周囲を見回すと、集まっていた村人たちは一様に震えながら下へ俯いている。うむっ、いい気分だ。
"スパコォーンッ"
満足気に頷いた瞬間、後頭部から子気味良い音が鳴り響き、駆け抜けるように軽い衝撃が走った。
「呼んだか? じゃないっ!!
フル○ンで仁王立ちするなっ!! この変態っ!!」
少女が若干頰を赤らめながら、50cmはありそうな大きなハリセンを片手に声を荒げている。
「いきなり何をする?」
「何をする? じゃないっ!! いいからナニをしまえって言ってんのよっ!!」
「はっはっは、いきなりナニを言い出すかと思えば。私のナニがどうかしたのか?
……ふむ、私のナニを見てナニがナニしてナニコレしてしまったか?」
"スパコォーンッ"
「違うわっ!! っていうかナニナニ連呼するなっ恥ずかしいっ!!
んな気色の悪いもの見せんなって言ってるのっ!! 周りを良く見てみなさい周りを」
少女の言葉を受け、あたりを見回す。
男どもは震えた体で下を向きうずくまっている。女どもは顔を手で覆いながらしっかりと目の部分だけ隙間を作り、私のナニをガン見している。
小さな子供は大人に顔を隠されたまま「なにあれー?」と言って「見ちゃいけません」と言われている……。ふむ?
「女どもが喜んで見ているが?」
素直に答えると、少女は半眼のまま周囲を睨む。
少女の視線を受けると、先ほどまでガン見していた女達が気まずそうな顔をして子供の手を取り、そそくさと立ち去って行った。私に恐れをなしたであろう残った村人達も肩を震わせつつ、嗚咽を防ぐためであろう、口に手を当てたまま足早に去っていった。漏れ聞こえる「ぶふっ」や「ぶははっ」という声は恐ろしさのあまり気が触れてしまったのだろう。
「とりにってさまぁぁーっ!!」
周囲から村人が消え、私と少女と魔王(笑)の三人になってすぐ、やっと我を取り戻したのだろう。魔王(笑)が涙と鼻水をちょちょぎらせながら足元へと縋り付いてきた。
「きでっ、きでぐれだんでずねぇ~!!
よがっだ、いぼーどにぎぢが○どおぼわれだぐっでよがっだ。
だがこどわるっでいわれだどぎばどーじようがどー」
ふくらはぎのあたりに顔を擦り付け、離すものかとばかりに両手でしっかりとホールドして涙と鼻水をこすりつけてきた。
正直汚い。これが妙齢の美女であれば手を取って立ち上がらせ、「涙をお拭き」と言ってハンカチを差し出すのだが……。少なくともえぐれた少女では——。
「……」
"ゾクッ"
なんだ!? 急激に鳥肌が立ち、辺りを見渡す。
魔王(笑)を未だに聞き取りづらい声で何か言っているが、何を言っているかよく聞き取れない。鳥肌の元はその先にいる少女のもので聖剣を振りかぶってこっちを睨んでいた。
ヤ・バ・イ
取り敢えず今の状態では身動きが取れないため、魔王(笑)の手から足を引き抜こうとする。魔王(笑)はイヤイヤと首を振りながらすがりついてくるので、魔王(笑)ごと持ち上げると勢いよく足を振ってみた。
「ぺぎゅっ!?」
「お兄ちゃん!?」
少し勢いがつき過ぎたのか、吹き飛ばされた魔王(笑)は門に勢いよくぶつかり、蛙が潰されたような声を出すとそのまま地面に突っ伏してピクリとも動かなくなった。
それと同時に感じていたヤバさがどこかへ消え去る。
助かったという安堵感で心の中でため息をつくと、すぐにヒキガエルとなった魔王(笑)が目に入った。
「しまった、お気に入りのオモチャだったのだが壊れていないだろうか……」
慌てて様子を見に行くと、魔王(笑)は無事だったが後ろから先程よりも膨大な殺気が膨れ上がった。
「……オモチャ?」
少女の低い声に内心、やっちまったと舌打ちをする。
勿論おくびにも出さずに魔王(笑)に向けて手を差し出しながら誤魔化すように優しく声をかける。
「魔王よ、遅れてすまないな。
少々謎の攻撃で滅ぼされかかっていた為、お前の呼びかけに応じることができなかった、許せ」
後ろから感じていた殺気が更に膨れ上がる。何故だ?
「やっぱりあれはあんただったのね……」
死刑宣告のような言葉が聞こえるが振り向いてはならない。振り向いたら多分終わりな気がする……。
「じゃじんざばぁ~っ」
意識を魔王へ戻すと、魔王(笑)が涙と鼻水をそのままに、勢いよく抱きついて来ようとしたので反射的に避ける。
「ぶべっ!?」
勿論抱きつく対象を見失った魔王(笑)は、そのまま地面とキスをする。
「すまん……、あまりにもキモくて……」
つい正直に謝ると魔王(笑)は女の子座りでめそめそ泣き始めてしまった。
「邪神様ひ~ど~い~」
「あーぁ……」
イケメンの青年男子が海パン一丁に赤いマントを羽織り、女の子座りで人目もはばからずに大泣きする……。
若干引きながらも、どうやって言葉巧みに丸め込もうかと考えていると、後ろから怒気と言うには生ぬるすぎ、殺気と言うにも言葉不足なほどの恐ろしい気が揺らめきながら近づいてきた。
「あんたがトリニッテ?」
後ろから静かで澄んだ声が響く。その声音には怒りも恐れもなく、ただ、純粋に耳に心地よい響きのみがこもっていた。そう、まるで罪人へかける最後の慈悲のように。
——こりゃあかん。……息を飲みながらゆっくりと振り返ると、……そこに聖女(怒)がいた。
「……いかにも」
その少女は美しく微笑んでいた。だが同時に戦慄がみぞおちのあたりをキュッと締める。
元はすっとおさろされていたであろうストレートの髪は立ち上る闘気で揺らめくように踊っている。浮かんでいる微笑は笑顔のはずなのに受ける印象は酷薄。その手に握られたハリセンはまるで聖剣のような輝きを放ち、ゆっくりと振り上げられていく。そして何故か聖剣からは神々しい気が全くなくなっている。
まるで破壊神と慈愛神が同居して慈愛神のみが般若に取って代わったような少女はその抉れた胸を誇らしげに張ると、ニコッと艶やかに笑った。
「って危なっ!!」
気が付くと眼前には振り下ろされたハリセンから聖剣の十倍以上の危ない気配——滅神の輝きをもって迫っていた。
間一髪でさけるも余波だけで左手が吹き飛ぶ。
「だぁれが貧乳だってぇ?」
そして理解した。先ほど私を死の淵に立ったのは紛れもなく彼女が次元を超え、私の何かに干渉したのだと。
「貧乳など言ってはいない。心の中で抉れた胸と認識し——ヒッ!?」
再度、ハリセンがうなりをあげて目の前を横切って行った。
「私の無い乳がなんだってぇ~?」
これ以上胸に関して考えるのはやめよう。割と本気で命がヤバイ。
「いいえっ、何でもありません」
「そう。命が惜しかったら二度と胸について考えるのはやめなさい」
「……はい」
カクカクと頷くと、少女は「あと三年もすればお母さんみたいにバインバインになるんだから……」と言いながら手に持っていたハリセンから滅神の光が消え、聖剣に光が戻ってきた。
「で、少し話がそれたけどあんたがトリニッテって人でいいのね?」
「うむ、我こそが邪神トリニッテだ」
虚勢をはるが足元はガクガクと震える。うむ、これは仕方ない。
「で、兄ちゃんを魔王にしたのも?」
「もちろん私だ」
少女の瞳に剣呑な光がともってきたが答えないわけにはいかない。——正直帰りたい。
「盛大に嘘偽りを吹き込んで裏で笑い転げてたのも?」
「もちろんわた——うぎゃわっっ!?」
頷こうとしたら一瞬にしてハリセンが滅神の光を放って襲い掛かってきた為に慌ててよける。
「ほ~う、認めるんだ?」
怖いっ!! 人間の癖にすっげー怖いっ!! 創造神に「ハゲオヤジ」っと言ってぶっ飛ばされた時以来の恐怖だ。
「わっ……私は落ちぶれても邪神、人間相手に嘘などつかぬわ……わけっ……訳がないっっ!!」
「ここは褒めるところなのか、それとも頭を押さえるところなのか……、あんたも邪神ならもっとシャンとしなさいよ」
少女は頭を押さえると深いため息をつく。シャンとしたいが怖いものは怖い……。どう見ても13歳ぐらいの少女にしか見えないのになんだこの恐怖は。
「っはぁー……、とりあえず兄ちゃんに謝れっ!!」
何故しもべに謝らなければならないっ!! と言いたいが、少女が恐ろしいので仕方なく謝ることにする。
「すまなかったな、しもべよ」
"スパァンッ"
「偉そうっ!! 謝る時は頭を下げるのが礼儀よっ!!」
大人しく言う通り謝ったというのにこの娘はぁぁ……。まぁ、ただのハリセンで助かったが……。
どうにか隙をついて、少女を亡き者に出来ないか画策しようとすると、魔王(笑)が滑り込んできた。
「邪神様っ!! どうか妹を許してやってください」
魔王(笑)は少女を後ろ手に隠し、助命を嘆願してきた。少女の姿が見えなくなったことで私の中にも余裕が生まれる。
私に意見をするとは珍しい。——馬鹿の一つ覚えのように、盲目的に従ってきた男が初めて見せた反論に興味が湧く。僅かにできた心の余裕も合わさって少女への殺意が吹き飛ぶほどに。
「そして妹の言う通り、頭を下げて謝ってください。
妹の機嫌が悪いと夕飯のおかずがタクアンだけになってしまいます!!」
「……っえ?」
続けて言われた言葉に思わず間抜けた声が漏れてしまった。
——少し待て。今なんと言った?
「ですので、妹の機嫌が悪いと夕飯のおかずがタクアンだけに……」
タクアンとはあれか? 糠床へ縦に割ったダイコンを漬け込み、十分に熟成されたところで取り出した後、丹念に周りの糠を洗い落としてから5mm幅に切りそろえ、白米と一緒に頬張ると塩っけと中から溢れ出す旨み成分、更にコリコリとした食感で脳も心も満足すると言う最高のご馳走の事かっ?
言葉の意味を理解すると共にふつふつと先ほどまでとは全く違った怒りがこみあげてくる。
「きぃさまぁっ!! しもべの癖にそんなぜいたくな飯を食っておったのかぁっ!!」
「ぜっ!? ぜいたくっ!?」
しもべの顔が驚愕に染まる。
それもそうだろう。私ですら年に一回も出来ない贅沢をしていることがばれたのだからな。私の怒りはもはや止まらない。
「私なんかなぁ!! ……私なんかナァッ!!
こんな平和な世界では邪神を崇める者なぞおらんし、私の管理する土地はやせ細ったものしか与えられんかったから作物すら育たん始末。食うものなぞ木の根くらしいか残っておらんのだぞぉっ!!」
私の魂の叫びが響き渡ると、世界に静寂が訪れる。
「……えっと」
「……その」
魔王は気まずそうな顔をして、後ろを振り返る。恐らく少女に助けを求めているのだろう。
だが火のついた私の魂は留まることを知らない。次から次へと言葉があふれ出してくる。
「私だって出来ることなら邪神なんぞやりたくなかったんだっ!!
それが何だ? 創造神様が世界の管理人として神を作った際、考え無しに作ったもんで神の座が余ってしまった? しょうがないからって適当に役割を与えてたら、平和でのどかに設定したこの世界へ邪神なんて肩書を付けられた?
おまけに不老不死なのに腹が減るように作られたから、信者を作って供物を奉納してもらわなきゃひもじさに我慢しなきゃならない?
チックショー!!
こんな平和な世界で邪神を崇拝する人間なんているわけねぇだろっ!! あのハゲオヤジッ!!
しかも崇拝する人間の数によって管理する土地が豊かになるから頑張れ? 崇拝者の全くいない私の管理する土地は荒れ果てた土地のまま? どないせいっちゅ~ねんっ!!
せめて邪神の権限で魔王を作り上げ、面白おかしい存在に育て上げるしか楽しみは残されてないじゃないかぁ~っ!!
っはぁ~、はぁ~、はぁ~」
溜め込んだ想いを言葉にして吐き出す。さすがに息が切れたがちょっとだけ気分がすっとした。こんなに清々しい気分になったのは何百年振りだろう。
"スパァンッ!!"
「ちょっと待ちなさいっ、そこの馬鹿邪神っ!!」
心地よい疲労に身を任せ天を見上げる。視界いっぱいにハリセンが飛び込んできたかと思うと、小気味いい音と共に目に激痛が走る。
「目がっ!! 目があぁぁっ!?」
思わず地面に倒れると、そのまま痛みに呻きながら地面をゴロゴロと転がる。
「グエッ!?」
背中に強い衝撃を受け、思わず内臓を吐きそうになった。身体が地面に固定されたように動かなくなる。
「なんでそこでお兄ちゃんに白羽の矢を立てるのよっ!!
もっと頭を使いなさいっ!!」
頭上から響いてくる声に顔を上げると、視界にはピンクのウサギが飛び込んできた。
「……ピンクのウサギ?」
「見るなっ!!」
「グエッ!?」
「トリニッテさまぁっ!?」
思わず呟くと背中の重しがなくなって顔をけられた。わけがわからない衝撃が続く中、魔王(笑)の情けない声だけが耳に響く。
「起きなさいっ!!」
すぐ後に首根を掴まれたと思うと問答無用で立たされた。
目の前では少女が顔を赤くしたまま目を釣り上げている。
「え?」
事態が把握できない中、聖剣でもハリセンでもなく、鉄拳がうなりをあげて右頬に食い込んできた。
「そもそもねぇ、なんで信者を増やす努力もしないで、しもべを作って面白おかしい存在にしようとしてるのよっ!!」
聖剣でもない少女の一撃など蚤に刺された程度の痛みしかない。はずなのだが、妙に重いその一撃で10Mほど吹き飛ばされ、魔王(笑)を巻き込んで地面をゴロゴロと転がる。
何事もなかった風を装い、笑う膝を少女から見えないよう工夫して立ち上がる。
「じゃぁ、どうしろというんだっ!!」
流石に涙目まで隠すことはできなかったが、精一杯の虚勢を張って情けなく見えないように反論する。
「邪神だからって悪いことをしなきゃいけないわけじゃないんでしょっ!! 普通に加護か何かを与えて信者を集めればいいじゃないっ!!」
「……おぉ」
少女の言葉に目からうろこが落ちた。
そういえば創造神に邪神の役割を説明されたとき、しもべとして己の力を分け与えた魔王を作ることができるという以外特に何も言われなかったのを思い出す。というかあのハゲオヤジ、鼻くそほじりながら「死ななきゃ何やってもいいよ」としか言ってこなかったな。
邪神というイメージから悪いことをしなくちゃって気になっていたが……、ここはのどかで平和な世界という設定で作られている。
もしかして……、単に余っていた名称の一つを与えられただけで悪いことしなくても良いのか?
そもそも、毎日ダラダラと木の根をかじってはふて寝する日々を送っていただけなのでどんな力を振るうことができるのか調べたことすらない。
試しにどんな力が使え、——たとえば、そう、例えば魔王(笑)が耕していた土地へ祝福を与える力が無いか検索してみる。
祝福祝福っと……。ないな……。
脳裏に浮かんでくる自分に許された権限に検索をかけるが、祝福や恩恵と言った文字列の含まれる力は一向にヒットしない。
祝福に限定するからいけないのか? ならば農作業に関してふるえる力は……と。
改めて検索するとかなりの数の権能がヒットした。
《大飢饉の呪い》——どんなに肥沃な大地であろうとも、この呪いがかかると向こう三ヶ月は作物が卑猥な形に育ったり、味が全てメロンになる。ただしこの呪いの発動中は他の行動を取ることができなくなる。
効果しょぼっ!? っていうか大飢饉関係なくないっ!? ……他の力はどうなんだ?
《自販機の下に500円を落とす呪い》——呪いか? 《京風の呪い》——字面がおかしい、《大吉が出ない呪い》、《尻尾が生える呪い》、《ゴスロリしか着れなくなる呪い》
……これはなんのいじめだ?
ん? ——あった。
《絶対豊作の呪い》——どんなに下手な耕し方であろうと、たとえ干ばつが起ろうとも撒かれた種は実を結び、100%豊作になる呪い。この呪いをかけることで農産者は楽することを覚え、段々と堕落していく恐ろしい呪い。ただしこの呪いの発動中は語尾にデスがつく。
……大飢饉に比べて効果が高く、リスク低過ぎないか? 他には……。
《急速成長の呪い》——どんな物でも成長速度を5倍~100倍に変えることができる呪い。世のロリ○ン達の目の前で幼女が少女へ、少女が成人女性へと、急速成長することで楽しみをぶっ潰すことができる最低最悪の呪い。ただし呪いの発動中はロリコンになる。
……ええと。
頭を抱え、コメカミを揉みほぐしながら試しに魔王(笑)の耕した土地へ《絶対豊作の呪い》をかけてみる。
「なぁ、あの土地に絶対豊作の呪いってのをかけてみたから適当に作物の種を植えてみてもらえないか? デス」
少女へ声をかけると、
「は? いきなり何言い出すの? 絶対豊作の呪い? なにそれ?
……まぁ、奇妙に踊りくねって気持ち悪く苦悩して出した結論みたいだから? やってみてもいいけど。って言うか、なにその無理やり丁寧に話そうとして失敗してる感満載の語尾?」
と言って、一緒に地面に叩きつけられてから未だに意識を取り戻していない魔王(笑)へと駆け寄り、頬を叩きながら声をかけ始めた。
「お兄ちゃん!! いつまでも寝てないで目を覚ましなさいっ!!
あんたの邪神様からの命令よ。すぐに耕した畑に種をまきなさいって」
「はっ!? 邪神様からの命令っ!?
ははっ!! 邪神トリニッテ様、このツリーベンめが今すぐに悪の息吹(種)を土地に根付かせに行ってまいりますっ!!」
魔王(笑)は我に返ると慌てて敬礼を行い、恐るべき速さで家に戻ると何かの種が入った袋を持ち出してきて、神速のごときスピードで畑に種を撒いていった。
「ねぇ、邪神」
「何だ? デス」
「お兄ちゃん、ある日を境にいきなり農作業が凄く上手になったんだけど……、アレってあんたのせい?」
「ハッハッハッハッ。
さすが私の力を受け入れた魔王、それだけの才能があったということだな。デス。」
「才能?」
「うむ、私の力を受け入れ、魔王と化したものはその才能を開花させ、私の為に破壊の限りを尽くす事が可能になるっ。デス」
「……つまり?」
「農作業の恐るべき才能を持っていたことになる。デス。
その力で破壊と混乱の限りを尽くし、私の信者を増やすのが奴に与えた使命だっ!! デス」
「……農作業の力でどうやって?」
「し……、自然破壊……、とか? デス」
「邪神がそこでどもってどうするのよ……」
「……ぐぅ……」
時間にして1時間。面積にして述べ100ヘクタール(東京ドーム21個分)の種まきを終わらせるとマントで汗を拭きながら戻ってきた。
「トリニッテ様っ!!
このツリーベンめ、与えられた使命を全うしてきましたっ!!」
さすがこの私が力を分け与えた魔王。これだけの仕事を短時間でこなすとは力を与えた私も鼻が高い。少し頭が弱いのが難点ではあるが。
問題はこの力でどうやって信者を増やすか……、か。
「うむっ、ご苦労。デス」
魔王(笑)を一瞥すると、少女のジト目から逃れるように畑に向かって《急速成長の呪い》を掛ける。もちろん効果の検証を行うために、成長速度は最大の100倍にする。
私の力が大地に浸透すると、みるみるうちに地面から芽が生え、成長して花を咲かせ、実をつけてゆく。瞬く間に耕したばかりだった畑には一面のカボチャが咲き乱れた。ってカボチャッ!?
「何故……、全てカボチャなのだ? デス」
「はっ!! 我の大好物ですっ!!」
良い顔で返事する魔王(笑)。
……取り敢えず死なない程度にどついておいた。魔王(笑)はすぐに復活すると嬉しそうにカボチャへ駆け寄っていき、一心不乱に収穫を始めた。
「凄い……、これが邪神の力」
惚けたような声が後ろから聞こえる。
さすがにこの力には小娘も驚いたに違いない。何しろ私が一番驚いているのだからなっ!! カボチャだけど。
散々しばかれた腹いせとばかりに、嘲りと嘲笑を目に浮かべ尊大に邪神の格という物を見せつけてやろうと振り向くと……、女神がいた。
「……おっふ……、デス」
先ほどのように比喩やからかいで言っているわけではない。間違いなく美の化身、私だけの女神がそこに居た。
サファイアを思わせるその瞳は一点の曇りも無く透き通り、サンゴを思わせる小さくて艶やかな唇はその造形美に感服させられる。その唇からこぼれ落ちる声は神の音楽を奏でているのかと錯覚させるようで、漆黒の絹とも言うべきその髪は風を受けてサラサラとなびいていた。一見華奢なように見える手足は無駄のない引き締まり方をしており、まるで神ですら足元にも及ばない黄金のバランスの上に成り立っている。
そして何よりもその草原を思わせるなだらかな双丘。その全てが今まで見た女神たちの誰よりも美しく、私を惹きつけて離すことがない。
「ちょっと……、何気持ち悪い目で見てるのよ……」
彼女は一歩後ずさると、まるで私を汚物を見るような目で見てその素晴らしい唇をへの字に曲げて仰った。
その蔑むような瞳もまた美しく、後ずさる際に下がった眉も何よりも愛おしい。
「すまない、君の美しさに声が出なかっただけデス」
ここは誰よりも紳士的に対応しなければならない。何故ならっ!! もしもこの女神に嫌われでもしたら、私の全てが終わってしまうと、私の邪神としての全てが訴えかけてくるからだ。
「ヒッ……」
女神はひきつるような声を出してさらに一歩下がる。だがそれもまた美しい。
——そうだな、まずは今までの非礼を詫びなければならない。
「今までの私は本当にバカだった。こんな素晴らしい力があったことに気づかず、今までただ痩せ衰えた大地にしがみついていただけだったデス。
だがっ!! 君という女神が私の力の素晴らしさを教えてくれたのデス。
君という女神がいたから、邪神という名に縛られた偏った考えから解放されたのデス。
私は君にお礼が言いたい。言葉に言い表せないほどの感謝を貴女へと伝えたいデス。
私は貴女へ恩返しをしなければならない。何故なら私の土地に住む全てのものが貴女へ恩義を感じているからデス」
私が言葉を紡ぐたび、女神は引きつった表情をやわらげ、少しづつ私を心配してくれる表情へと変わっていった。
「あんた……、変な力使って頭がコレしちゃった?」
女神は頭の横で握った拳を開いたように見せてくれる。
至高っ!! 女神が私に優しいお言葉を下さったっ!! 行動の意味は分からないが私のことを思ってくださる事がありありと分かる。
「いいえ、そんなことはないのデス。
ただ……、貴女の素晴らしさに遅ればせながら気付いただけなのデス」
「いや、だっていきなり語尾にデスとか付けるし、私への態度とか180度変わってるし……、何よりキショいしっ」
女神はゆっくりと近づいてくると私の額へと手のひらを当ててくれた。
もしかしてっ、求められてるっ!?
「もしかして熱でも出たんじゃない? きゃっ!?」
想いには精一杯応えなくてはならない。それが美の化身たるこの女神なら尚更だ。
私はその手のひらをそっと両手で包むと、私の胸に押し当てて真剣にその瞳を見つめる。
「それは今までの私が馬鹿で話をきちんと聞いていなかっただけなのデス。
今の私は自分の力に気づきました、真実の愛にも目覚めました!! どうか私の愛を受け取ってほしいのデス」
「えっ!? ちょっ!? なにっ!? なんなのっ!?」
「幸い貴女は聖剣と契約した身、すでにその身は半神半人となっているのデス。ならば邪神とは言え、神でもある私の愛を受け取る資格をようしているはずっ!! どうか私の愛を受け取って欲しいのデス」
「えっ!? ちょっ!? 不老長寿じゃなくて半神半人? あんたの愛を受け取るぅっ!? 待って!? 何がどうなってるのっ!? ちょっと待ってぇっ!!」
女神は慌てて手を引っ込めると、その手をグーにして私の右頬に腰の乗った素敵な右フックを決めてくれた。
——そうかっ、これは彼女なりの照れ隠しだったのだな? そうと分かると彼女の拳も愛あるものとして嬉しく受け入れることができる。
「ぶげはぁっ!?」
ただ、威力を抑えきれなかったか3Mほど吹き飛ばされる。
「ふふふ、照れ隠しと判ればとても愛いデス……、ふふふ」
「ひっ!? 寄るなっ。さっきまでとは違った身の危険を感じるっ!?」
女神は慌てて両手を降り、何かを叫んでいるが、私を拒むそぶりは全く見せない。
つまり、そういうことだ。
「うむ、ちょっとまったので契りを交わそうぞデス」
尚も私から恥ずかしがって距離を取ろうとする女神へそう伝えると、少しだけ本気を出して二人の距離を瞬時に縮め、そっとそのサンゴのように芸術的な唇へ自分の唇を押し当てる。そのまま創造神様へ婚姻の報告をすると彼女は唯一無二の邪神の妃となった。
「これで誓いは成立だ。これからは共に夫婦神として痩せ衰えた大地を肥沃な大地へと変えようぞ、我が女神よ。デス」
「ちょっ!? 何っ!? 何キスしてくれてんのよおっ!? しかも何っ!? 今ので私ってば邪神と結婚しちゃった訳? 頭の中に流れるこのファンファーレは一体なんなのよーっ!!」
「邪神様ぁ〜っ!! 見てくださいっ、こんなにカボチャがっ!!
村の食料10年分はありますよ〜っ!!」
ここは平和な世界トリベルン。
世にも珍しい豊穣を司る邪神と聖剣を持つ幼いその妻、働き者の魔王が仲良く暮らす世界。
《豊作の呪い》と《成長促進の呪い》を解いた邪神が早まったと泣き崩れるのも、不老長寿なので三年どころか十年二十年経ってもえぐれた胸が膨らまずに少女が泣き崩れるのも、邪神の手先となった魔王(笑)が高笑いをしながら一万ヘクタール(東京ドーム2130個分)もの土地を3日で開墾するのもまた別のお話である。
教訓はただ一つ。
Yesロリータ、GOタッチ