護送依頼とお家の事情
「初めまして、私はこの度こちらの総司様の従者になりました、リナと申します。この方の配下となりましたので、ファーストネームは控えさせてもらいます。そして、隣にいるのが腹違いの妹のレナと言います。以後お見知りおきを。」
そういって、アリー達にお辞儀して、自己紹介をするリナ。
あれから、バドとポチから降りてきた二人は一瞬だけ目を見開いた様子を見せたが、次の瞬間からはニッコリと微笑み、アリー達に勝ち誇ったような笑顔を向けている。(勿論、アリー達に関しては俺が状況説明はした)
そして、その表情に戸惑いと不満が残るのがアリーとコリスだ。
まー。話で聞いただけなら、アリー達とリナたちの家は同格の様だから(ファーストネームは言ってないので分からんだろうが)張り合ってると思われ、仕方ないのだが。
(まー、俺は先に聞くこと聞いとくか。)
「自己紹介も終わったことだし、気になることを聞くけど。リナ?」
「はい?なんでしょう。」
「忘れていたんだが、リナたちの目的はこの鍵でいいんだよな?」
そういって、俺は空間から黒ずくめから貰った鍵を渡す。(その際にはちゃんとあいつ等に説明されたことも伝えた。)
「はい、利用法からして間違いありません。しかし・・・この鍵がここにあって、邪神自体が復活してしまっているとなると、もう手遅れですね。願わくば、憑りついた者が女性の怠惰な方なのを祈るばかりです。」
・・・?どういうことだ?
「なあ、邪神って誰かに憑りついて復活するのか?」
ここで俺の質問に反応したのがアリーだ
「当たり前でしょ?神がまともにこの世界に顕現したら、世界のバランスが崩れるわ。幾ら邪神と言ってもね?そのために善神は、自分たちも同じ制約にして、邪神が邪な者に憑りついたときに、自分たちも善良な勇気ある者たちに憑依させて貰えるようにしたんじゃない。こんなの何処の家庭の者達でも手に入れられる位の小さな魔石で得られる知識よ?・・・もしかして、アンタ強い割にば・・」
アリーが俺に馬鹿と言う前にリナが魔剣を、レナが魔法剣(こんなことが出来るとは思わなかった)をアリーの首に添えた。
そして、リナが言う
「アリーさん。それ以上のこの方への暴言は慎んでください。貴女も助けられた見なら、この方の実力は分かるでしょう?その気になれば、このポチちゃん達と共に一国位潰すのは出来る位の力ですよ?階級で言うとアリーさんが幾つかは知りませんが、ポチちゃんが盗賊より小さい魔力と言っていたことから、多分私と変わらないレベル5有る無しだとは思いますが。同じ5の魔物ビッグホッグ相手に太刀打ち出来ない私が低い方だとすれば、この方はレベル10の魔物相手に互角の勝負をしましたから、その言葉の意味は分かるでしょう?」
リナの言葉に、アリーだけでなく他の女性も騒ぎ出した。
ザワザワ・・
「レベル10って言ったら、勇者様や英雄様と同じじゃない。・・・ホントなら凄いわよ?」
ザワザワ・・・
「いや、嘘でしょ?そんな人がこんな所で遊んでるわけ無いでしょう。」
ザワザワ・・・・
「でも、本当だったら直ぐにでも報告しないと、来るべき厄災の日って確か後10年でしょ?その為に皆色々と準備していて、戦争どころじゃない訳だし。」
うん、色々丸聞こえだけど。そのおかげで色々分かったな。
(しかし、勇者や英雄のレベルが10か~。リナの話では同じレベルでも格上や相性なんかも有りそうだから、1つや二つならやり方次第ではどうにでもなりそうだが、魔力はどういう基準なんだ?)
「あ、そういえば。リナ、レナ。覚えてるうちに聞いておくけど、勇者たちの治める土地のお偉いさんのレベルは幾つか解かる?」
「はい、4色天の方だけなら有名ですから。まずは・・・」
そして、判明した事実がこれ
赤天のヒルト・ルージュ レベル9の上 主に火力を専攻する家
青天のドルト・アズル レベル9の下 主に情報戦を専攻
黒天のアストロ・ネグロ レベル9の上 主に身体強化を専攻
白天のエリザ・ブランコ レベル9の上 主に治療を専攻
「この位ですね。魔道具関係もそれぞれの得意分野に関しては研究が盛んです。特に治療に関してはエリザ様の回復魔道具は、使い手によっては聖人アラン様に匹敵するだろうと言われて、そのお蔭で白天家は国を統括する魔道士クリム様の屋敷より魔石も多く、お城の様な所だそうです。」
そして、チラッとアリーを見て
「そして、情報戦に長けている筈の家の体たらくを見る限り、下に尻を叩かれて、やむ無く娘を使って名を上げようとの判断でしょうか?」
と、嘲るような微笑を向けた。
まー、こいつ等の張り合いより、他の興味のあることを聞くんだけど。
そういう事で、俺はリナの頭をコツンと叩きながら
「リナはそれ位にして、俺の聞きたいのは、戦争をやる暇がないほどに準備をするってのは何をしてるんだ?」
「それは、各領地の古代遺跡にある古代の魔道具を手に入れる事ですよ。それに古代遺跡は魔物が多く、それだけ多くの魔石を手に入れやすいですし、レベルの高い魔物の肉を摂取する事でより早くレベルが上がりますからね。バドちゃん達と一緒ですよ。しかし・・・」
それから、一呼吸置き
「今まで、遺跡の中を進んでの最高深度は5階までです。報告では・・・ですが。何でも、一階降りるごとにレベルが二つまで変わるんですから。更に、そこまで進んだ勇者のパーティーが言うには3階から次元が違うというので殆どの魔戦所からの挑戦者は安全な2階までで魔物の肉を摂取して、レベルが6位まで上がるとやっと挑戦するらしいです。」
「ふーん。遺跡は何階まであるの?」
「解かりません。確実に5階以上は有るらしいですが、それ以上は確かめた者は居ないそうです。」
ほー、これはポチたちと力試しに行くべきだな。
「で、リナたちの家にはその遺跡への扉は有るの?」
「いえ。私たちの家には有りませんが、領地内の町の魔戦所には有ります。一人当たり年間でこれ位の魔石で扉を潜れますから、後は実力次第で一財産築けますよ。それに・・」
そういいながら、拳大の白い魔石を見せてから、そこで一旦リナは俺に近寄り
「町で屋敷でも建てて、そこから遺跡に通った方が、私たちを抱いて下さったり、魔道具の研究をされたりするのに、都合がいいでしょう。魔戦所は各地の魔戦所との扉を常時開いてますから、依頼なども受けたりしたら気分転換になりますし。」
と囁いた。
そこで、一旦聞き辛いので距離を置き
「依頼て何?」
と聞くと
「ああ、言ってませんでしたね。依頼とは、なかなかレベルの上がらない人や急に魔物が来そうになっているから助けてくれと言った、主に魔物を退治してくれと言ったお頼み相談です。基本的に自分の事は自分でやらせる神様も、才能に関しては如何にもしてあげられないらしく、魔物によって滅ぼされる町や村も少なからず存在します。・・幾ら結界で囲まれていても、それは変わりません。幸い、避難は魔戦所で一瞬で出来るので、よっぽどの大群がイキナリでないと、滅ぼされるまではいきませんが。」
「ほー。だから、勇者が出張るくらいの時間を他の人員でカバーする時間があるわけか。」
「ええ。場合によれば、一日や二日籠りっぱなしの場合もありますから。あ、勘違いなさらないで欲しいのですが、遺跡内では途中には戻る扉は各階段の脇にある一個の扉しかありませんから、場合によっては強力なパーティーの全滅もおかしくありません。まー、私たちが行くのなら、4階まではポチちゃん達が要るので、何の障害も無いでしょうが。」
「だな。それじゃ、聞きたいことも大体聞いたし、ちゃっちゃと親に報告して、遺跡に潜る準備をしますか。」
「「はい」」
「ちょっと待ちなさい!」
と、ここでアリーが待ったを掛けた。
「なに?」
「私たちはどうなるの?」
「さー?俺はハッキリ言って、魔法の実験台に良いと思って盗賊を利用したから、アンタらはどうしようと自由だぞ?」
「なら、一緒に連れて行きなさい。魔戦所まででいいわ。・・・これを対価にするわ。」
そういって、何かの指輪を渡してきた。
「これは?」
「それは、知識の指輪と通信の指輪と言う魔道具よ。能力は知識の指輪は鑑定の魔道具と変わらない。だから、付けているだけで魔物の情報が解かりるし、大気の魔素を魔力に変換する魔法陣も非常に小さいけど、組み込まれている。通信の指輪は同じ町の中なら思い描いた相手と会話できるわ。だから、貴方の様に強い筈なのに魔力が無い人でも普通に扱えるわ。・・・どう?」
へー?魔力の無いのを馬鹿にしている様子はなしか。・・・良いだろう。
俺は少し考えるふりをして
「・・・通信の指輪をもう一個くれ、それでOKだ。そっちの連れもか?バドとポチはもう少し大きくできるぞ?」
「・・・ええ。それなら全員お願いするわ。対価は・・・」
「ああ、さっきので十分だ。これだけあれば全員分でいいぜ。」
後ろでリナたちが何か言いたげだが敢えて無視する。
「そう?なら有難いわ。・・・じゃー、皆。お礼を言ってから、乗せて貰いなさい?」
「「「「はーい。ありがとうございまーす。」」」」
こうして、人数の増えた一行は俺とレナとポチとアリー達のパーティーで町へ先に行くのと、バドとリナで家族への報告をしに行く者に分かれて行動する事になった。