落ちて来ました異世界へ
草原の見える空間に飛び込んだ俺を待ち受けていたのは、何かの儀式をしていた怪しい集団だった。
何が怪しいのかといえば、その服装。
全身黒づくめにして、仮面で顔を覆っている。
しかも、俺のいるのがちょうど怪しい儀式の中心(前にやったゲームの中の魔法陣に似ている)で、そのおれの前で一際怪しい黒づくめの男が話しかけてきたのだが・・・
「@:;¥。#$&&%$、+*‘?」
・・さっぱり意味が分からん。
そして、俺のそのリアクションに相手も、俺にどうやら言葉が通じないのを理解したのか、横を向き
「#$?&。+‘&%$#」
といった。その声を聴いて、一人の黒づくめが俺に近づき、丸い丸薬のような物を渡す。
それを渡してきた奴が、手を口に持って行き飲めという感じのジェスチャーをするので、いわれる?ままに口に含み飲むと
「どうだ、小僧。言ってる言葉が分かるか?」
と、聞いてきた。ので、
「ああ、分かるようになった。」
といった。・・・そして、次の瞬間よく解らないことをのたまった。
「なら、話は簡単だ。どうやら浮遊大陸に封印された邪神が復活したようなので、迎えに行け。・・・これは転移部屋のカギだ。これがあれば浮遊大陸の転移部屋へ行ける。地上の転移部屋は何処にでもあるから聞けば分かるだろう。・・・では、我々はここで待つ。出来れば一週間以内に連れてこい。我らの食料が持たない。」
そういうと、黒づくめの男たちは、近くにあったテントの中に入って行った。
その光景を見ながら達した俺の結論は。
「よし、取りあえず。金目の物を奪おう。」
だった。
この考えを聞いた者は「入れる物を誰も持ってなかったらどうすんだ?」というだろうが、その心配はない。
俺の力は謂わば自然の力全て。
なので、俺の意識がハッキリしている内は空間を歪ませ、歪曲空間に物を出し入れすることが出来るのだ。・・・物凄い疲れるが・・・。
よって、気にせずにテントの男たちに歩み寄り
「ちょっとごめんよー?」
といって、顔の周りの空気を無くし、窒息死(幾ら人を殺したくないとはいえ、会って早々人に命令をする輩にそんな感情は持てない)させた後荷物を物色するのだが・・・。
「・・・なんで、変な色の石しかないんだ?こいつは宝石強盗か、宝石商か?」
そうして、一通り荷物を物色して危ない物(爆弾の類)がないのを見て、歪曲空間に全て放り込むと、次の奴を物色する。
「・・・こいつもか。・・・まーいいか、他に目新しい物は無いし、全部空間に突っ込むか。」
そういいながら、約30人からなるこの集団の荷物を調べたが、金と思われる物は一切なく、宝石や何かの道具と中身のない鞄のみだった。
食料すらない。こいつら、確かに食料が持たないと言ったんだから、少しは肉や野菜があると期待したんだが・・・。
どう思ってこいつ等に聞こうとしたのだが。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・しまったーーーーーーーーーーーーーーー!!
気付けばそこーのー♪
ひとをーぜんーぶー♪
ころしーていーたーのさー♪
あーっけーなーいー♪
って、歌唄っている場合じゃないな。
何処かに水場かなんかないか?
取りあえずは水でやり繰りしないとこのままでは栄養失調で死んじまう。
俺の力はあくまで自然の力であって材料が無いと何にもできないのだ。
こういう時はテレビや漫画の様な魔法が羨ましい。
人体なんかに作用できないまでも、水やら煮沸やらは簡単にできるんだからな。・・・煮沸は別にいらないが。
そんな感じで考えている内に辺りが暗くなってきて、獣の気配がし始めた。
気付いた頃には周りを大型の肉食獣の様な動物に囲まれていた。
その数凡そ30匹
その時おれが思った感想は
(よっしゃー!カモが肉しょって来たー!)
だった。
一方動物は
「グルルルルル・・・」
「ガルルルルル・・・」
と唸り声を上げてこちらを見ている。
俺はその集団に向けて、透視を発動した。
この透視と、他の4種類の異能は条件付きの異能な為普段はあまり使わない。
この透視も主な使い道は玩具のレアグッズや漫画の立ち読み、女の子の裸の覗き見などしょーもない事にしか使えない。
だが、未知の生物に関しての場合は驚くべき性能を発揮する。
それが鑑定の能力だ。
その鑑定で動物を見ると
魔物 ハウンドウルフ
狼型
階級 レベル1
魔力 100
群れで行動する野生の魔物。吐き出す魔石はレア度1。
主に一般人が食用に求める肉を持つ。
しかし、群れでの行動が殆どの為実際の階級はレベル2。
魔法も使用しない為、魔戦所の学生の教材によく使われる。
・・・・・・。
色々と突っ込みどころの多かったこの異能だが、それもココに極まれり、だな。まあいいか。ゲームみたいだけど、取りあえずはこれで飯にあり付けるからいいか。調理用の器具は空間の中にたんまりあるし。
そういう事で、気を取り直して動物改めハウンドウルフに体を追い風によって加速させて、いきなり目の前に現れるとハウンドウルフが
「キャイン!?」
という可愛い声で鳴いて後ろに飛び退いた。
そして、逃げ遅れた子狼に右手を翳し、その周囲の空気を無くして黒ずくめ達と同じように窒息死させる。すると、書いてあった魔石なる石が転がり出てきたので、それも回収する。
・・・さて、ここからが問題だ。
なんせ、俺の操る自然の力はまだ修練不足の為か火を起したり、風で相手の首を落とすといった、遠距離攻撃が出来ない。
その為、一対一なら奇襲でいけるが、集団の場合、警戒された後の攻撃手段が極端に狭まる。
(とはいっても、防御に関しては完璧だから焦らずに一匹ずつ仕留めればいいんだけどな?)
そう思い静かに狼集団に近づく俺。
それからは地味な戦いだった。
近づく俺に、恐怖により後ずさる狼。
その中の一匹が俺に向かってきては風の障壁でガードして、倒れた所を顔を無酸素状態の空間で包み窒息死させる。
・・・なんと、この方法で実に20匹分の魔石と肉と毛皮が手に入った。
・・・この狼共の知能の低さに感謝しつつ、もうどうでも良いと思ってあっち行けと、逃げるように促すが狼共は首を振った。横に。
不思議になって理由を聞く(言葉が分かるかどうかは知らないが)
「なあ、敵わないのは分かっただろ?俺も幾ら弱肉強食とはいえ、無駄な殺しはしたくないんだよ。もう必要な分は十分手に入ったから、お前らは他の獲物を探せ。」
と言ってやるのだが
「クゥーン・・」
と可愛い声で鳴いて俺の背後に顔を向ける。
・・・・ん?背後・・・あ!男共の死体か!なーんだ。それならそうと早く言えばいいだろうに(言葉が喋れないから言えないのだが)
「ああ、あいつ等ならお前らにやるよ。俺はお前らの同族を。お前らは俺の同族を喰らう。それでイーブンだ。既に全員死んでるし、人数もお前らより数が多いから、取り分は多い筈だ。・・・俺はここらで夜を明かすから、飯が済めば帰れよ?じゃな?」
そういって、俺は歪曲空間から自前のキャンプ道具を取り出して、LED式のランタンで明かりをつけてから周りを熱と冷気の温度差で作り上げた蜃気楼で見えなくした後、使い慣れたサバイバルナイフで狼の体を捌き、内臓は専用の加工道具にて、干物にして、牙や毛皮は別の袋に入れてから再度空間に放り込んだ。肉自体は天然の竃(そこらの岩を二つ用意して、その上に鉄の棒を置き、そこに土鍋を置くと言ったシンプルな構造だ)で煮込んだシチューにして頂いた。水は仕方ないので自前のペットボトルに入った水を使用。水も修練すれば大気中の水素を水に変換できるようになるだろうとの展望からだ。
腹が膨れた所で就寝した。
こうやって訓練を重ねていればいつの間にかある程度は自由に自然を操れるようになったんだ。
夜が明けて、蜃気楼を解除して周りを見ると、男共のテントは切り裂かれ、男共の体は骨すら残っていなかった。
そして、俺もそろそろ何処かへ行こうとしたとき、足元に子供の狼がすり寄ってきて、まとわりついてきた。
「なんだ?集団とはぐれたのか?仕方ない奴だな・・・。だが、弱肉強食の世界ではぐれたのは運命だ。それも自分の力の無さだからな。俺はまだこの世界に来て間が無いんだ。だから面倒は見れない、それじゃーな?」
そういいながら
「クゥ~ン・・・」
という鳴き声で、俺の後についてくる子狼をあしらいつつ、俺は旅に出た。