各務総司による現代知識講座
「とうちゃーく!・・・って酷ぇなこれは、暑くて敵わん。ポチ?悪いけどここいら一帯のマグマを凍らせて?・・あ、変に一気にやると水蒸気爆発が起こる可能性があるから、徐々に冷やす方向で。」
「はーい。」
この会話から分かるように、俺たちはリーゼに場所を聞いて魔戦所の戦闘員が戦っているであろう場所に、要塞の扉から直接現場に来ていた。
そしたらこの状況。
よく見たら前方の方でまだゾンビ共と戦闘員が戦っているようだ。
「バドはちょっと向こうの戦闘エリアまで行って、加勢が居るか聞いてきて?生き残りが殆どいなくて、ゾンビだけを如何にかしたらいいってんなら秘密兵器があるから背中に乗ってこっちに避難しろって言ってな?・・・一応見た感じだと10人いない位の戦闘員の数だから、バドの背中に十分乗れるだろ?」
「分かった、パパ。行ってきまーす。」
俺の指示を受けたバドが少し大きな形状に成ると、すぐさま前方へと向かって行った。
その間にポチの水と風の魔法によって穏やかに冷やされたマグマの海が普通の澄んだ水たまりに成って涼しい風を齎してくれている。
「ふ~、ありがと、ポチ。涼しくなったよ。」
そう言いながら俺は、スッと出してきたポチの頭を撫でながら、レナを呼んである指示を出す。
「リナにレナ。恐らくさっきみたいに成った状況だと普通に粉々にしたんじゃー駄目だったんだと思うから、レナは予定通りに召喚準備。リナは今から書く絵の通りの箱を水晶から出して。少し大きいけど、それ自体には威力も何もないから普通の魔石で大丈夫だと思う。その箱に三種類の魔法陣を描くから、覚えてくれる?恐らくこの世界の人には反則の様な使い方だと思うから、後で便利になるよ。」
「はい。解かりました。」
そう言って、俺は拡声器の大きい感じのラッパの様な絵とその隣に魔力増幅用の魔法陣を描く予定の箱を描いて、リナに指示した。
「こんな感じでお願い。」
「解かりました。・・・けど、変な形ですね。こんなの見たこと無いです、服なんかではよくありますが・・・。」
・・・へー、ラッパのタイプの服がこの世界にもあるのか。興味あるな。
ま、それよりも、準備だな。
「・・・はい、出ました。大きいですよ?」
ドン!!!
おお!!凄い重そうな音だな。・・・これなら反動でひっくり返ったりせんだろう。
取りあえず、この箱に魔力増幅の魔法陣を描いてっと・・・よし、序に範囲増大の・・・これはあるのか?
「リナ、範囲増大の魔法陣は有ったか?」
「ええ、・・・ここです。」
俺の質問に、辞典を捲って魔法陣の描かれた箇所を開いて渡してくる。
そして、示されたページの模様は複雑すぎて理解不能・・・。由って、例の如くリナに任す。
「・・・頼む。」
「はい、お任せください!」
なんか、やけに嬉しそうなんだが?俺に分かんない物があることがそんなに嬉しいのか?
ま、それは置いといて、後は威力を行使する者の魔力に依存する代償に、何処までも威力が上がるような魔法陣があるか見るか。
そう思って、先ほどの陣を描き終えたリナから辞典を借りて、探すのだが・・・。
「リナ?もしかして、何かを対価にして増幅するような魔法陣ってないの?」
「?そりゃーありませんよ。第一、そこまでの威力を出せる魔力の人が殆どいませんから。可能性のある人で、勇者や英雄の方々でしょうか?ですが、その方々は初めから、そんな魔法陣には頼りませんがね?そんな物に頼るなら、何処までも自分の力を伸ばす方へと努力する人達ですから。」
むぅ・・・。なら、今後の為にも今からゾンビを一掃するためにも、新しく作りますか?
・・・まあ、適当な絵を描くだけなんだけどね。
まず、円を描いて、何かに四角で箱を表してから、そこに手を触れる人の絵を描いてッと。
そんでもってこの三種類の魔法陣を一度に発動できるようにこの箱全体を丸で囲んでラッパの先端から一気に発射するようにする。・・・よし、出来た。
・・・お、丁度いいとこにバドが何人かを乗せて帰ってきた。
「パパー!避難させて来たよー?」
褒めて褒めてと言う様に頭を出してきたので、ポチの時の様に頭を撫でてやる。
「えへへー。」
俺らのそんな光景が奇妙に映ったのか、連れてこられた者たちの代表みたいな奴が訪ねてきた。
「悪いが、アンタは何もんだ?さっきの話すデカい鳥と言い、ここら一帯のマグマを簡単に水たまりにしやがったあそこの狼といい。そんでもってそこにある変な箱と服のデカい袖口みたいなのは何だ?訳解ら成過ぎだぞ?」
「まー、詳しくは雑魚のゾンビを溶かして終わってからにしようか?アンタらが戦ってた奴はどうした?まだ倒せてないんだろ?」
俺の質問に苦笑しながらそう言えばと、自己紹介がてら説明をしてきた。
「俺らも一応遊んでた訳じゃない事は、後で俺らが相手してた奴に聞いてくれ。 それと、改めて。俺らは魔戦所の中でも遺跡の探索者をやってるチーム<風の牙>だ。俺がリーダーのシン。今回の騒動は俺らが白天家の領地に有る遺跡の三階から出てきた時に都合が良いのか悪いのか、出くわせて参加する事になった。そんで、俺らが敵の厄介なゾンビを倒した所で、あそこの死霊術師が出て来て、粉々にしてやったゾンビ共を蘇らせて仕切り直しに成った所にアンタらが来たんだ。・・・あんた等は?」
質問されたので適当にこの戦いに参加する事になった経緯を話した。・・すると。
「・・・確かに、そんな馬鹿どもに会ってりゃー、参加する気も失せるわな。・・心配スンナ、俺らはアンタが侍らせてるそこの嬢ちゃん達には少し見覚えがあるし、何よりそこの2匹を従わせてる時点で、実力は十分だと認めてるからな。・・・ま、話はあとして、さっさと片してくれ。」
短気なのか知らんが、早うやれと催促されてしまった。・・では、やりますか。
「Ok!では、バド。ありったけの魔力を乗せた振動魔法をこの箱に注いでくれ。ポチはバドの後に死霊術師が変な事をしない内に闇の魔法で全ての死体の元を回収。序に死霊術師が範囲内に入ってくれれば儲けもんだが、期待は出来んからな、予防策は講じとかんと二度手間だ。」
「「はーい」」
二人仲良く返事をしてから、準備完了すると、遠くにいた死霊術師が近くに様子を見に来ていて・・
「何するのか知らんが、精々楽しませてくれよ?ニンゲン?」
その挑発の言葉を利用する事にした俺は、目の前の魔物に言ってやった。
「そんなに自信があるなら、そこで見ててくれよ。面白いことになるから。」
その言葉に乗ってきた馬鹿が
「良いだろう。その誘い、乗ってやろうじゃないか!マグリノ様に捧げる笑い話に花を咲かせる材料にしてくれるわ。」
おっしゃー、計算通り!それではこの世界の魔法の可能性と地球人ならではの科学知識を使った前方放射式振動波のお披露目だ!
「では、バド!やっちゃいなさい・・・バイブレーションウェーブ<振動波>発射!」
「えい♪」
バドの楽しげな魔法の行使によって魔法が解放された。
箱の中の陣に入ったその魔法は威力の増幅と範囲の拡大を重ね掛けされ、指向性を持って目の前の魔物とゾンビ軍団に向かって放射された・・・。
ヴーーーーーーーーン・・・・!!
「あ、言うの忘れてた!皆ポチに飛び乗って耳を塞げ!」
「え?・・・うわ!頭が・・糞が、早く言え!」
俺の言葉に少し遅れて気付いたシンが仲間に指示を出している。
幸い、リナとレナは初めからポチの隣にいたので、溢れ出す魔力の障壁で何とかなっている。
そして、流石の俺もここまで増幅した振動の波はヤバいので、二人に従てポチの上に避難する。
それから前方を見るとゾンビ共は見る見るうちに骨が崩壊していき、液体化した地面に飲まれていった。後に残ったのは液状化してドロドロになった大地のみ。
「・・・うわーお・・。ここまで来ると壮観だな。」
「・・・何を如何すればこんな風に出来るんですか?総司様・・・。」
「・・俺も聞きてえ、まだ続いてるこの耳鳴りとも関係があるのか?」
俺が、振動によって液状化した大地をボー然と眺めていると(因みに先の魔物は真っ先に分子崩壊して跡形も残ってない、魔石すらも溶けて無くなってしまった。)この状況の説明を求めてきた。
「・・・お前らは地震って知ってるか?」
「ビッグタートルの地面割りの時に揺れる奴か?」
「ビッグタートルって奴がどんなのかは知らんけど、恐らくそれで合ってる。様は大きな揺れだな。」
「揺れた位でこんな事には成らんぞ?・・・お、収まった。ふー、やけに空気が美味く感じるな。」
「普通に揺れるだけならそりゃーここまでには成らんさ。しかし、目に見えない位、体に感じない位の細かい揺れがずーっと続くことによって、物体はその形を保つ接合面が分解されて、崩壊しだすんだ。お前らも鉄の素材を使った武器や防具を手に持ったことは有るだろ?」
「ああ、それがどうした?」
「その強度を確かめるためにはお前らはどうしてる?」
「そんなの、コンコン叩いて調べるに決まってるでしょ。鑑定の魔道具もあるけど、最後は自分の目や耳で判断しなきゃ!」
俺とシンの話を近くで聞いていた女性が答える。
「そう、叩く事でその素材の硬さを音で判断するんだ。物が詰まっているなら殆ど鈍い音がせずにその物自体が揺れる音がするが、詰まって無い物なら中で鈍い音が反響する音が聞こえる。・・・これと同じ事を人間の頭でやるとどうなる?勿論、叩くのを持って揺らすに替えるんだがな?」
「頭が揺れたら、吐き気がする?」
「平衡感覚を失って立ってられなくなるな。」
お!そう言う事が分かってんなら話が早いぞ。
「そうだ!そして、その原因は全て揺れ、即ち振動にある。・・・ここで初めに戻すが、この大気中にその振動を広範囲に物凄い細かくした物を流したら、どうなる?」
「・・・さっきみたいな耳鳴りや吐き気がするわな。」
「さっきの話の通りだと、その揺れに触れた物は形を保てなくなって、溶けて消えるわね・・・。」
「分かってくれたようで何よりだ。」
俺は、そう晴れやかな笑顔で気分爽快に言った。
しかし、それにしてもこの光景は少し想像を絶する物らしく、戦々恐々と辺りを見回して、女性が言った。
「ま、こいつの可笑しな部分は帰って魔戦所の受付嬢にでもいって、教官たちにも伝えて貰うとして、一旦、どっかの都市に帰りましょうよ。・・・アンタは何処の扉から来たの?」
「?俺らはルーベルスって町だ。そこに今回家を買って、遺跡を潜って魔石をがっぽり儲ける心算だ。」
「じゃ、私らもルーベルスで宿を取ってから、こいつ等と一緒に潜りましょうよ。まだこいつから色々と知識を絞り取れそうだし。・・いいわよね?シン。」
「ああ、OKだ。」
「解かりました。」
「はい。」
そう言う事で、俺たちは皆で一旦町に戻ることにしたのだった。