遺跡3階
2階に降りてきた俺達を待っていたのは、少しだけ広くは成っていたが、一階と同じような石造りの通路だった。
そして、召喚獣に調べさせても、数も質も上がってはいるが、特に危険もない、肉を摂取した所で大して、強くなれそうにない(リナとレナにしても)魔物ばかりなので、一階と同じくポチとバドに任せて、今度は俺、リナ、バドとレナ、ポチのペアで遺跡を探索する事にした。
「・・・ホント、目新しい物が無いな。遺跡と言うから期待した魔道具も今の処ないし。もうさっさと3階に行くか?階段も見つけたんだろ?」
「はい、丁度この先にありました。もう行きますか?」
「応!」
「では、こっちです。」
そうして、お楽しみの3階に早々行くことになった。
「こりゃーまた派手に変わるねー。上とは何もかも違うじゃん。って言うより、同じ遺跡内かどうかも怪しいんだけど?」
「ええ、実は私もココに降りるのは初めてです。流石に、この階から下は話の限りでも、普通とは違うので、情報も少ないですし、用心していきましょう。」
確かに。
辺り一面森が広がり、魔道具と思われる人工太陽が照らし出す大地は、さながら大自然のアマゾンだ。
河が有り、滝が有り、谷まで存在している。
ここで、三階なのだから、これより下はどうなってるのか、少し興味が出てきた。
「じゃ、行くか。ここではあまりに広すぎて、さっきの召喚獣では無理だから、ポチの力を借りよう。・・・ポチ?」
「なーに?ご主人様。」
「お前のレベルなら問題ない筈だから今から作る魔道具をこの階層に飛んでいる魔物と協力して、この階層の四隅と大体500メートル置きに埋めて来てくれ。」
「うん、分かった。」
ポチの返事で早速開発に移る。
開発する魔道具は大規模周辺地図マップ。
縮尺を原寸大から1000万分の一のサイズまで変えられるスクリーン投影型の地図だ。
用意するのは端末の魔力探知装置の魔法陣を刻んだ鉄板。(これは多めに用意)
召喚魔法に使った箱と同じサイズの物。(大気中の魔素を変換する魔法陣とアンテナからの魔力を地図として投影し、この階層の立体的なホログラムを表示できるようにする。)
魔力の流れを感知するアンテナ(これは鉄の棒に鑑定の魔法陣を刻めばいい)
後は鉄板にレナに魔法陣を刻んでもらえばいい。
「レナ、この鉄板に魔力探知装置の魔法陣を表に、裏に地中に埋まっている魔素を魔力に変換できる魔法陣を刻んでくれ。」
そういうとレナは苦笑し
「魔力探知の魔法陣は載っていますが、地中の魔素を魔力に変換する魔法陣は、まだ開発されてないんです。だから、また開発しないといけないんです。」
・・・な、なんと!・・・こんなことも思いつかなかったのか、今までのこの世界の住人は。
「仕方ない。これからも使うだろうし、解かり易い奴で行くか。」
そういうと俺は、円に真ん中で線を引き、地面からアンテナが突き出た絵を描いた。(こんな物でも認められるのだから不思議だ。
見れば、横のレナも苦笑している。
「とりあえずはこれでいいか。では、ポチ。この鉄板を頼む。」
「はーい」
そう言い残し、ポチは飛んで行った。
あれから30分、ポチが出て行ってから偶に襲って来た魔物を倒し、鑑定で特に良い魔法を持ってない魔物ばかりだったので、リナとレナと三人で食べ、バドには適当に狩りをして来いと言って行かせてしばらく経った頃。
「ごっしゅっじっんっさまー、埋めてきたよー?」
そういいながら頭を出してくるので撫でてやりながら。
「よし、いい子だ。じゃ、地図の確認をしますか。」
そう切りだし、魔道具のスイッチを入れた。(召喚魔法ではないのでスイッチ式にした、手形なのは変わらないが・・・。)
ヴーン!
「・・・・おー、こんなにも広くて魔物が居るのか。とてもじゃないが、今日中には調べ尽くせないな。今日の処は、魔力の比較的大きい奴から魔石を摂って、良い魔法があればバドに喰わせよう。ポチは悪いが当分は魔石は無いから、その分バドに必要ない肉を喰わせてやる。」
「はーい」
「バドも、食ったことある肉ならポチに譲ってやれ、いい子だから出来るな?」
「解ったー」
「よし、では出発!」
「「おー」」
「「はい」」
「今だ、掛かれー!」
そういいながら突進してくるのは、いつかの魔物と同じプロンだ。
今俺たちは、離れた所からプロンをおびき寄せ、魔道具の実験台にしている。
その魔道具とは、所謂蟻地獄。
地面に先ほど開発した魔法陣と、その効果を使った魔力吸収陣で、上手く行けばこの階層にリナとレナ専用の召喚獣を配置できる。(しかもコスト無し、襲われて、召喚獣に喰われた人間や魔物の魔力をリナとレナに供給できるシステムだから、勝手に二人のレベルが上がる。・・少しずつではあるが。)
これはその準備段階。
そして、飛んで(突進して)火にいる(魔法陣に入る)モンスター。
「ギャオーーーン!」
「ギシャーー!」
プロンに指揮されて、数体の魔物が先ず蟻地獄(罠の魔力吸収魔法陣)に掛かる。
魔力を吸収されて、その近くの大気から魔素を少しでもかき集め、魔力を回復させようとする魔物。
しかし、この魔力吸収魔法陣はもがいて、回復させればさせるほど、貪欲に魔力を吸収し、その魔物の魔力を奪う。
脱出の方法は二つ。
一つは魔法陣を削り、その効果を無くすこと。
もう一つは、限界まで魔力を抑えて、陣に吸収させる魔力が無いと錯覚させる事。
今までの開発で分かったことは、一つの魔法陣で出来る効果には限度があり、簡単な制約の物なら簡単な魔法陣。大きい威力の魔法なら、複雑な魔法陣が必要なことが分かった。(実は一度大規模破壊の魔法を、へのへのもへじで描こうとして描けなかったので、この世界にもあるのかと思ったら、魔力吸収陣では描けたので、そういうのもあると再認識した。)
{あ、今全部入りました。}
プロンには見えない位置(鑑定で魔力探知が無いのは確認済み)から確認したレナから連絡が入った。
配下が全て魔法陣に入り、苦しんでいるのに気付いたプロンが訝しげに聞いてきた。
「うん?人間如きが何をしたのか知らんが、手下が苦しそうなのを見ると魔法か何かか?くだらんな・・・・。そのような物俺様が直々に壊してくれるわ!」
そういって、馬鹿が一匹蟻地獄に入ってくる。
それを見ながら
「お馬鹿さん一匹ごあんなーい♪」
と呟く俺だった。
直後。
「・・・ぐ・・・あ・・あ・・な、なに・・を・・し・た・・ニン・・ゲ・・ン・・」
そういって、俺が答える間もなく、全ての魔物が魔法陣に取り込まれた。
「これで、第一段階終了だな。」
さて、別行動のポチに連絡を取るか。
{あー、ポチ?そっちは見つかったか?}{うん!そこそこ目立つ奴が奥でどっしりと構えてるよ。威圧で連れて行こうか?}
{ああ、頼む。血の契約自体はレナとリナの両方にさせるから。威圧したままで頼む。}{はーい。}
「よし、リナ、レナ。今からこの吸収陣に血の契約用の魔法陣を足した奴を用意するから、取りあえず今の魔法陣2つを何処かにメモしといて。上でも、使えれば使いたい魔法陣だから。」
「解かりました。」
そういって、メモを取って自分のバックに入れる二人。
そんなこんなをしてるうちにお目当ての、この階層の主と思われる、一際異彩を放つ魔物が現れた。
しかし、ポチに威圧で自由を奪われた様子は実に哀れだ。
レイロン
魔法 催眠 振動 風 無 地
魔力 14万
階級 レベル8
属性 風
種族体質 気流操作
特異体質 下位モンスター指揮
備考 遺跡内でのプロンの突然変異型。しばらくの間討伐されなかったため、階層の割にレベルが高くなり、魔力も高い。
既にこの2年余りここハイドル遺跡の三階層の番人になっている。
・・・三階層から別次元になってるって、こいつが原因じゃないのか?
「なー、レナ。ここの遺跡が三階層から別次元ってのはどういう理由からだ?」
「え?あー、何でも2階層までとは雑魚のレベルも違いますが、一番の原因は迷いこんだ人を一瞬で殺す魔物がいて、しかも何処に現れるのか分からないからだとか。・・・けど、それは全ての遺跡に同様にいえる事です。何故か、雑魚のレベルの高い階層からそこを仕切る魔物が出るらしいです。」
ふーん。なら、このハイドル遺跡の三階層のボスは、このレイロンって事だな。
しかも、今の理屈で行くと、他の階層も同じようなボスみたいな奴が居るって事か。
4階層で少し二人の底上げと魔道具の装備の充実化を図らんといかんな。
「分かった。取りあえず、ポチ、そいつにこのレナとリナの契約召喚獣になるように言ってくれ。」
「はーい。」
「%$#&%$”#%&」
「&#$”&”’%#$、$&#’%$#’#。」
「どうだ?」
「仕方ない。嫌だが、アンタには逆らえないだって。」
今の会話を聞いて解かるように、魔物同士の言語もちゃんと存在する事が分かったのが、この遺跡に来てからの一番の収穫だ。(因みに、この言語だけは特別扱いらしく、魔石を消費しようとしても受付られなかった。)
「ならよし。じゃ、三人?とも陣に入って、血の契約だ。召喚時の魔力はそこの吸収陣から供給されることになるから、その陣を加えた形の大きな召喚陣になる。二人は只の契約用の魔法陣の上。レイロンは全ての魔法陣が同時に機能する場所に立つ。後は血を垂らすだけだ。・・・分かった?」
一応色々と言ったが、分かっただろうか。
三人とも頷いている限り大丈夫の様だ。
「よし、では始めるよ?」
それから、数分後。無事契約は完了し、レイロンは引き続きこの階層に留まり、魔力の供給源になることとなった。序に魔石の回収も頼んだ。
俺たちは、別にバドに探させていた4階層に降りる階段の入り口に着いた所で、一旦地上に戻るために、魔法陣を壁に刻み、レナに水晶から4人分出して貰った大きめのフードつきのマントのえ裏側に、魔力隠蔽用の魔法陣(円に人の手の形でゼロと見えるようなアホらしい模様)を魔力出力の指輪で描いてそれを愛用する様にして、地上に戻った。
そして、魔戦所へと戻った俺達を待っていたのは、何処からやってきたのか分からない死霊使いの率いる1万からのゾンビの軍勢だった。