遺跡一階
入った先は石に囲まれた迷路だった。
暗い通路を照らす燭台に灯された明かり(恐らく魔道具)が均等な間隔で配置され、どうにか道が分かる程度だ。
「レナ、迷宮探索用の小型発信器付きの魔道具ってある?」
「・・・いえ・・。この世界はどちらかというと神の考え方と似てまして、便利機能より強力な機能優先ですから、そこら辺の魔道具は開発されてませんね。」
ふーん?なら、本体だけ出して貰ってから、それに魔道具の性能を付けてもいいかな?
「んじゃ、水晶でこの位の金属の箱で、上蓋の開け閉め出来る奴とこの位の鉄板出して?」
俺は50センチ四方の物と掌サイズの物を石の壁に魔力で刻みながら説明した。
「解かりました。・・・はい、これが箱ですね。」
ドスン! と結構な重量の音がした。
「それから、・・・はい、これが鉄板です。」
カランカラン・・・
と今度は乾いた音が辺りに響いた。
「ありがと。それから、大気中の魔素を魔力に変換できる魔法陣を教えて?」
「?はい、こんな感じです。」
・・・何とも幾何学模様な、覚えにくい模様だ・・。
面倒だな・・。
「この場で覚えられそうにないから、この場はレナが描いてくれ、レナなら魔力ペン無しで描けるだろ?」
「ええ、勿論です。」
俺が聞くと、胸を逸らして自慢げにいった。(生憎胸は揺れなかったが)
「じゃ、この箱の、一番下面に描いて?」
「はい。」
そして、レナが箱の上蓋を開けて、魔法陣を描き始め、数秒後魔法陣は出来た。
「それから、今描いた魔法陣が使い回せる位の、ごく小さいサイズの魔物の召喚陣は知ってる?知ってたらお願い。これは箱の横側ね?」
「解かりました。」
そして、再び数秒後、魔法陣は完成した。
後は・・・
「んじゃー、こっからは俺の出番だな。そんじゃー、早速・・・」
と、俺は箱の内面の横側に、魔力ペンで三種類の魔法陣を描いた。
一つは召喚生物の増殖の魔法陣。こういう純粋な力でない場合はこの世界の住人は発想が無いと思ったのでやったのだが・・・残念ながらあったようだ。
一つは召喚生物が見た映像を箱がスクリーン状で映し出してくれる魔法陣。これは無かった様で、描けた。魔法陣の様な円の中、人の絵と糸で操る虫の絵を描いた物だ。(この世界の人は映像系の娯楽を知らないのかもしれない。)
「レナ、召喚生物の増殖の魔法陣が既にあるみたいだから、知ってたら描いて?知らなかったら水晶で出して。」
「それは知りませんから、出さないと駄目ですね。どの位でしょう?」
「資料系だから、アズル(青色魔石)でいいんじゃない?解析済みの魔法陣が全て載ってるんだから、この機会に取り寄せましょう。」
レナの疑問にリナが答えた。
あー、なるほど。そりゃ手っ取り早いわ。
「なら頼む。」
「はい。」
そうして、出てきたのは、何故か普通の本の厚みのA5サイズの辞典だった。上の表紙に魔法陣が描かれているのは目立つが。
「あ、序に森で出してくれた魔物の辞典も出しといてくれ、必要になるだろうから。」
「はい。」
「じゃ、増殖の魔法陣を箱の横の空いてる側に描いて?」
「はい。」
そして、レナが描き終わった所で蓋を閉めて、上蓋の上側に俺の掌を押し付けた型を描き、それを円で囲って魔法陣にした。これの効果は中の効果の同時発動、当然俺の手に合わせているから俺専用だ。
血の契約の魔法陣用に掌の部分に風で切れ目を入れ、そこから血が箱の横の魔法陣に垂れ落ちると言う仕掛になっている。
そして、発動後、中から出てきたのは地球のアリンコ。
その数、数えるのも馬鹿馬鹿しい数だ。そのアリンコが石畳の通路を処狭しと埋め尽くす。
横で見ていたレナとリナを少し自分の体を抱いて震えていた。
(自分の体に這いずり回られるのを想像したかな?)
アリンコたちが出て行って、数分後箱からスクリーンが投影され、通路内の至る所の映像が映し出される。
「おー、視えた視えた。意外と魔物少ないな。これなら一階はバドに喰わせて、ポチに魔石回収させればいいか。リナとレナは二人について行って序に下に降りる階段を見つけといてくれ。」
隣で固まっている二人を呼んで確認する。
「・・・っ!っと。総司様はどうするんですか?」
復活したレナがそう聞いてくる。
「俺は少し考え事してから行くよ。」
「?解りました・・・・。」
レナたちが奥へと進んで数分後。
「そろそろ出てこいよ。望み通り一人になっていやったんだから。」
そういうと、一人の男が出てきた。
「バレてたか。魔力は隠蔽したつもりだったが。」
「・・・あんた等は全部魔力頼みかも知らないけど、俺からしたら、不自然な風の流れでバレバレだ。仮にも情報戦に特化した家の次男なら、少しはばれない様に工夫しろ。」
「ほー。少しは頭が回るようだな。だが、一人になるのは自惚れだろう。魔力の無い貴様が、さっきの奴らの護衛もなしで、俺に勝てるとでも思うのか?俺は兄貴や親父には敵わんが、レベルは7あるから、手前なんぞ物の数じゃねえぞ?」
「お前こそ聞いてないのか?俺の使役している奴らのレベルと、俺が倒した奴のレベル。」
それを聞いて男、バラク・アズルは笑い
「生憎、俺は自分で見た情報しか信じねえからな。魔力の無い奴がそんな凄いこと出来る筈がねえんだよ。」
「なら、さっき俺がやった魔法陣の開発と応用は?」
「あんな位、俺にも情報があればできるぜ。てめえにしか出来ない等と思いあがるな。」
「なら、情報戦が得意な家の筈のお前がその情報を知らなかっただけで手前は落ちこぼれと言うだけだな。しかも、俺との違いに気づきもしない、低能な奴って事だ。」
それを聞いた奴は、顔を怒りで真っ赤にして叫ぶ
「てめえ!黙って聞いてりゃー調子に乗りやがって、格の違いを見せつけてやる!」
馬鹿がそういって来た。
はー、ある意味バカな奴だ。
本気で消そうと思えば、不意打ちでも何でも魔法を使って隠蔽しながらやればいいものを。
出来ないのか、それをやろうと言う発想すらないのか、唯喚くだけのカスの様だ。
これなら、リナたちの方が場合によれば強いんじゃないだろうか?
戦わせてみたかったな。
まーいーか。・・・こいつとはもうお別れだし。見逃す義理もない。早々に退場願うか。
「はー、聞きたいことは聞いたし、もう消えて貰うわ。」
「はー?何をばか・・」
バラクが言葉を言い終わる前に、俺は空間転移で一瞬にして縮めた間合いから、そのままバラクの胸に手を添えて、心臓を自身の血で圧迫する様に操作すると、再び一瞬で元の位置に戻り、そのまま奥へと向かった。
後ろから、バラクが言う
「・・・ガァー!き・・さ・・ま。な・に・・・をし・・た?」
恐らく、今は心臓の上を手で抑えながら苦しみを紛らわせている事だろう。
「アンタには一生分かんねえよ。精々魔物に食べられるより早く人が来て、助けてくれるのを願うんだな。じゃーな。」
「・・ま・・て・・」
と、その言葉を最後にバラクは気を失ったようだ。
そして、奥に進む俺だが・・・。
「あーあ、何にも出来なくなった奴の荷物を漁っとくんだったかな?いや・・下手に身の証拠を指す物を盗って、それでバレたら後が面倒だから、これでいいのか?・・ま、盗りに行くのも面倒だし、いいか。」
そう判断し、俺はレナたちと合流した。
勿論、魔道具は空間に回収済みだ。
「あ、一応、魔石は回収して、この階層のアイテムも取れる物は取りました。・・しかし・・」
?なんだ?
「なにかあったか?」
「いえ。ポチちゃんが、この奥から魔物の魔力反応があって、しかも匂いがするって言うんです。唯の壁の様なのですが・・・。」
ふむ・・・これは、調べる価値があるな。この世界の住人は、その辺の関心が無いから、もしかしたら隠し通路があるかもしれない。
「よし、少し待って。取りあえず召喚獣に見させるから。」
そして、結果。
「いるな・・・変なのが。それと扉も何個かある。これはもしかして、この遺跡の各階層の直通の扉か、それとも遺跡の宝か?変な奴が護ってるのが気になるな」
けど、数が凄いぞ。5つできかない。数十あるぞ。これは、しばらく保留して、5階層まで簡単に降りられるようになったら、もう一度調べに来るか。
「よし、ここは取りあえず放置だ。先ずは皆が使う階段から降りて進もう。一応ココにさっきの魔法陣を刻んどくから、興味が湧いたときに改めて調べにこよう。」
「解かりました。階段はこっちです。」
それから、レナに誘導されて、下に降りる階段を降りて、2階に降りて行った。