落ちていきます崖っぷち
今の俺は人生の崖っぷちに立っている。
こう聞くと殆どの人は借金の取り立てに追われているか、人生の選択に迫られているという比喩的な状況を思い浮かべるだろう。
だが、しかーし!
違う! 断じて違う! そんな生易しい事じゃ無い!
今の俺の現状はまさしく「前門の虎、後門の狼、上空のドラゴン、地獄のマグマ」
前にはヤーさんの団体さんとその組長であるところの一人娘にして俺の婚約者・・・だった女。
後ろには崖とその向こうにある何故か周りと景色の違う大自然の草原。
上にはヘリからの狙撃者に、特異体質で下に逃げようにも透視と周辺視で見れば至る所に落とし穴と槍衾。
そして前門の虎は言う
「ねー総君、いい加減諦めて一緒になろうよ。今なら百人の、傘下の組織の女の子のメイドも付けるよ?女の子好きの総君には嬉しい話でしょ。」
「断る。一見羨ましいと思われそうな条件だが、手も足も自由にできないモルモットになってまでなりたい状態じゃない!」
「それは総君が悪いんだよ?そんな便利な特異体質を今まで黙って付き合って来たんだから。どうやったら研究に協力してくれるか考えれば、モルモットになってもらうしかないじゃない。・・・私も気の毒だと思うから、積極的にご奉仕したり、体を使って気持ちよくなって貰う事もやってあげようというんだよ?」
「そのいい方が更に周りの誤解を招いて逃げられなくするんじゃねえか!今時何処の町でご奉仕がお茶や食べ物の調達で、体を使って気持ちよくが、マッサージなんだ!聞いた途端にうっかりOKしそうになった自分に嫌気がするわ!」
「なら、来世での結婚の約束は?」
「なんで、今世じゃないんだ?」
「・・・いってもいいの?」
「いや、言うな。その顔で分かる。」
「ならいいわね。・・・・最後に。・・・意識のある内でしときたいことは?」
「意識無いのが前提かよ!・・・仕方ない、人に力を使えば簡単に死んじゃうからやりたくないし、死ぬのも殺されるのも、物を壊すのも嫌だから、最後の手段しかねえか。」
そういった俺に首を傾げながら聞いてくる真由
「どうするの?」
「後ろの空間に跳びこむ。運が良ければ助かるだろ、俺の力と知識があれば。」
そう、俺は自分の力に気付いた幼少のころからこの力に必要な知識を貪欲にため込んでいった。
医学、科学から始まり、自然界の構成物質の事まで勉強した。(高が10年の勉強では知れているかとは思うが。)
なので、今では短時間だが空の散歩まで可能だ。
人の体調を崩させるに至っては、体に触るだけで事足りる。(一度バイトでマッサージの店で働いたら年齢を詐称して給料を上げてやるからずっと働いてくれと懇願されたほどだ。)
「そんな賭けみたいな事しなくていいじゃない。さ、私と良い事しに帰りましょ?」
「そんな甘言はもう通用せん!もう決めた。暗い未来より、一筋の明るい未来を求めて俺は行く!」
そういって、俺こと各務総司は希望の膨らむ大草原へ向けて走り出した、
「・・っく!皆、麻酔弾で眠らせなさい。全方向からならいくら彼でも対処は出来ない筈だわ!そして、私も後を追う!彼を連れ帰れなかったら、私にも帰れる場所が無いんだから!・・・紫苑、後は頼みました。」
「はい。お気をつけて、お嬢様。」
バンバンバン!! ダダダダ!
そんな会話を聞きながら、俺は迫りくる弾丸の雨を時には風で逸らせ、時にはワザト受け止めた後に力でもって癒しながら大草原へと飛び込んだ。
その後ろから前門の虎が追って来ているのを感じながら。