君の誕生日
「トイー?吹雪ー?シャムー?」
私は屋敷中に響く…とまではいかないけどなかなかの大きな声で叫ぶ。
普段なら私がちょっと呟いただけでも反応してくるトイも、少し大きな声で呼ぶと飛んできて「気付けなくてごめん!」とくる吹雪も、いつのまにか隣にいるシャムも、今日に限っていない。
……ちょっとさみしい。
「あーあ、猛もいないしなぁ……」
つまらない骨頂。
明日は私の誕生日だと言うのに、誰もそれについて全く触れてくれない。
トイはもしかしたら覚えているかもしれないけど、あの子のことだから自分の力「だけ」ではどうにかなるのも限界がある。
もちろんプレゼントやらなにやらというのは、全て気持ちだとは言うけれど。
この感じだと、その「気持ち」すらもらえるか微妙になってきた。
「ん―……ひまー!!」
さっきの倍以上の声の大きさで叫ぶと、屋敷中にこだまして自分の声が自分の耳に戻ってきた。
正直、気持ち悪い。
「なんで私がこんなことしてるのよ、全く……」
ならおとなしく部屋にいればいいのに、という突っ込みを受ける前に言っておこう。
私は今、屋敷の循環をしていた。
主である私がなぜ、と思う方もいるかと思うが、それもこれも置き手紙がいけないのだ。
『急用があるのでちょっと見回りしてください』
女子なはずなのにちょっと男っぽい字(本人に言ったら凄くしょぼんとされた)で書かれた吹雪の字に則り、今があるわけだ。
当の吹雪は今話したように私が呼んでも返事がないので何でこうなっているのか、今でもよくわからない。謎すぎる。
「え―っと……庭異常なしっと…」
広大な私の屋敷も、数時間もすれば全ての見回りなどすぐに済む。
私の場合は生まれてからずっと住んでいるので、どこが最短かなども網羅しているので他の人よりも一周するのが早い。
なんたって未だに私の最短記録である31分に追いついた使用人はいないのだから。
そんなことを考えながらふと時計を見てみると、壁に立てかけてあるデジタル時計が『10月10日午後23時57分』をちょうどさしていた。
あと数分もすれば私の誕生日がやってくる。これで人間年齢的には21歳と言ったところ。
猛は確か10月の21日とか言ってたわね。近いのは何かの縁かしらね。
「誕生日の瞬間くらい、誰かといたかったなぁ―――――」
ちょっとすねた口調で廊下を歩いていると、閉ざされた大広間の扉の隙間から光が漏れていたのを発見した。
大広間は一応戦闘用の広間となっているが、同時に吹雪とトイのお気に入りの場所でもあった。
吹雪は「なんだか落ち着くんです」、トイは「ここでみる星空は格別なんですっ」とお互いに大広間について話し始めると目を輝かせて話してくれたものだ。
そんな大広間に光が漏れている。さっき見回りをした時は真っ暗で中も見たけど特に変わったこともなかった。
なら……侵入者!?
……にしても無防備すぎる。私が気が付かないと思って、こんな風に光を漏らすと言う油断行為をするだろうか。
それともなにか、この私をおちょくっているのか。『そんなことも気付けないのか』と。
「考え直してもらおうじゃないの…!!」
そう考えたらなんか無性に腹が立ってきた。
なによ、私にこんな風に侮辱したこと、後悔させてやるんだから!
「誰よ居るのは――――――――」
“ゴーンゴーンゴーンゴーン”
『おめでとうー!!』
ちょうど『10月11日午前0時』の鐘の音とともに開けようと思っていた扉が勝手に開いたかと思えば、さっきまで私が散々探していた吹雪やトイ、シャムがいた。
それだけではない、猛やフラム、ランクスも拍手をしながら出迎えてくれていた。
「……へ?」
どうやら祝福をされていることだけはなんとなくわかるが、あまりにも唐突すぎることに、私はどうしていいかわからなくなっていた。
おめでとう、というのだから私はきっと誕生日を祝福されているわけで―――――
「なんでそんなふ抜けた声出してるのお姉ちゃん?」
「そうです!今日はおねーさまの誕生日大パーティーです!」
「我々はアンジェル様のために今まで黙っておいたのでございます。それに関しては、申し訳ございません」
「マドムさんもそう固くならなくてもいいじゃん?ほら、誕生日プレゼント」
「はいよ!俺からのプレゼントだぜ!!」
「これでいかがかな?祝福の堕天使殿?」
各々が私に声をかけたかと思うと、笑顔で手招きをしてくれた。
“早くおいでよ”と言わんばかりに。
「……あり……が……と………」
「え!?お、お姉ちゃん!?」
「どうしたんですかおねーさま!?」
「えっと……言葉に……出来ないや……」
言葉に出来ないこみあげてくる感情を抑えきれなくなった私は、溢れんばかりの思いを涙に乗せて流してしまった。
悲しいわけじゃない、悔しいわけじゃない。
ただ純粋に、嬉しい。
「ほらほら。主役が泣いちゃ、パーティーは盛り上がらねぇだろ?」
ふと手が伸びたかと思うと、その手にはハンカチが握られていた。
猛が気を利かせてくれたのか、またその優しさがその感情を揺すってくる。
「さぁ、涙ふいてさ。笑ってパーティーしようぜ!!」
「……えぇ!」
*おまけ*
「そういえばトイ、吹雪?」
「「ん?」」
「何で私のよびかけに、なんの反応も示さなかったのかしら―?」
「・・・あっ」
「え、えっと――――」
「せめて、ちょっとくらい反応してくれたも……よかったじゃないの!」
「ご、ごめん!ごめんってば!!」
「すみませんおねーさま!謝りますからそれ以上ほっぺをつねらな……!」
「ぜーったい、許さないんだから―!」
「「ごめんなさーい!!」」
「元気ですね、お嬢様方は」
「マドムさんも混ざってこないのか?」
「男が行くべきではないでしょう?」
「……え?」
「いやなんですかその“何お前女じゃなかったの”的な視線は」
「何お前女じゃなかったの?」
「僕はれっきとした男です―!!」
「俺ら、もしかして影薄すぎ?」
「まぁ、そういう立ち位置は仕方ないだろ」
「ま、まぁそうだけどさ……」
「きっと本編ではもっと扱い良くしてくれるよ」
「そ、そうだよね!!」
「……きっとだがな」
「僕は作者に失望した!!」
「ギリギリアウトかな!?」
こうして彼らの夜は更けていく――――――――