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~検索~ 2006   番外編

 カチッ。

 PCの電源を押す。

 最近、暇な時はPCに向かう事が多い。

 


 別れてから5年が経った。大樹の暮らしは相変わらずだ。

 ショートカットのIEをダブルクリックする。 yahooの画面が出る。


 大樹は、おもむろに香織のフルネームを入力する。

 ずらりと表示が出てきた。


 ○○年学会

 論文

 著書

 片っ端から目を通してみた。


 香織が6年生の時には、病理を目指すと言っていた。研究みたいなものであろうか。

 初めは地元の大学病院に勤務していたのは前から知っている。論文などいろいろ見た結果、病院を移動して埼玉に今はいるようである。まだいるとはわからないのだけれど。



 学生時代を埼玉で過ごしていた事もあり、地理はある程度把握していた。

 香織がくれたピングーのヌイグルミをポケットに入れると、車に乗り込んだ。



 5年前、祐治と一緒に会いに行こうとしたあの日。

 あの時に電話で話をして以来、メールも電話もしていない。

 いや、実際には1度したのだが、変わっていて繋がらなかった。

 


  

 高速に乗ると思ったよりも早く、勤務先であろう病院に到着した。

 研究機関もついている大病院である。駐車場も迷子になるほど広い。


 車から降りた大樹は、とりあえず近くの入り口から中へと入った。



 1Fロビーに辿り着く。外来受付だけでも何個もある。こんなに大きな病院には来た事がないので戸惑う。

 内部案内図や看板を見ながらウロウロする。事務所らしき所に辿り着く。一般の患者さんは近くにはいない。

 

 ノックして挨拶をし、一番近くにいる方に話す。

 


 「こんにちは、栗原と申します。昔の知り合いが多分こちらで勤務されていて突然来てしまいました。病理の山之辺先生なのですが、お時間少し取れるか聞いていただけますでしょうか?」

 

 対応してくれた初老の男性が、メモを取りつつ怪しそうにこちらを見て聞き返す。

 

 「病理の山之辺先生ですね、失礼ですがもう1度あなたのお名前を」


 話終えると、少々お待ち下さい。と言われた。お昼の時間を狙って来たのだが……


 10分ほど待つと先ほどの事務員さんが顔を出した。


 「あちらの、入り口でお待ち下さいとの事です。」


 と言って、人気の少ない入り口を案内された。




 それから数分待つと、白衣を来た人が1人こちらに向かって歩いて来る。

 香織だった。今回は久しぶりの再会でもすぐにわかった。でも少し綺麗になったかな。



 「ご無沙汰しております」


 大樹はあまり使わない口調でそう言った。


 時間あまりないよね?と尋ねると、少しなら平気と返事が来た。横に並んで駐車場の方を歩き始めた。


 「どうしたの?」


 と香織は言う。何かの報告?と付け加えられていた。結婚の報告でもしに来たと思ったようだ。


 「何の報告でも無いよ。結婚どころか今彼女すらいないし」


 確かに、彼女はいない。



 大樹は何をしに来たのだろうか。全く接点が無くなって5年が過ぎている。

 ストーカーで訴えられてもいいレベルの行動をしてまで。



 もしかしたら、彼氏と別れたかも?

 もしかしたら、また話せる関係になるかも?

 もしかしたら、また前みたいに……


 もしかしたら、もしかしたら。



 そう思っていたのだろうか。




 そうなんだー、と香織が言うともう一言続けて台詞が出て来た。





 「私は結婚したよー」


 それほど驚かなかった。30歳の女性にとって至極当然の台詞である。



 「そっか、おめでとう」


 続けて、いつ?誰と?そんな質問を出来なかった。驚きはしないが、愕然としていた。


 そのうち彼女できるよー、と社交辞令も言われる。どうかなぁと苦笑いするのが精一杯だ。


 「大樹君、優しいからできるよ」


 泣きそうになった。


 「でも普段は優しいんだけど時々優しくなくなる。お互い言いたい事を全部いう性格だし喧嘩も多かったよね。だから私とは合わなかったのかも」


 さらに泣きそうになった。こらえる。



 確かに我慢は足りなかった。でも合わなかったとは思わない。そう言いかけて飲み込む。


 

 

 空を見上げた。いい天気だ。雨など降ってたまるものか。





 「結婚してたって知ってたら来なかったよ。迷惑かけてごめんね」


 大樹がそういうと大丈夫と返事がきた。


 


 「ああ、そうだ!」



 なるべく明るく振舞ったつもりだ。


 大樹は無言でポケットをゴソゴソしだす。煙草の煙で若干汚れたピングーを香織に手渡した。


 香織は久しぶりに会ったピングーに顔をほころばせていた。


 「きっとピンガと……兄妹一緒にいたいと思うから」


 大樹がそう言うと香織は悲しそうな顔でこういった。


 「ごめんね、これは受け取れない」



 普通に考えればそうだ。年季の入ったピングーを旦那さんに見せられる訳もない。


 ピングーを受け取ると少し沈黙が流れた。




 「それじゃあ」


 大樹は軽く手をあげ、香織に背を向ける。今回は振り返らない。

 

 これが本当の最後だ。


 香織は絵に描いたように幸せになってくれている。今日が……最後だ。



 


 車に乗り込んだ。中は雨が降っていた。





 何分過ぎたろう。エンジンをかける。運転しながら下手な歌を歌い始めた。ミスチルだ。



 香織が好きだったミスチルの歌。


 







 





 



急遽、付け足してみた6話目ですが、5話目の付けたしとなります。

この後、さらに堕ちていくんですね、わかります。

インターネットやピングーの複線を回収していなかったので書いてみました。


全話を通して、口癖・時間の経過の早さの描写・など数箇所取り入れているプチお約束も楽しんで頂けたらと思います。

時系列的には最後ではないのですが、作品の最後に綺麗なものを書きたくなってしまいました><;;;

時系列 2話>3話>4話>5話前半>1話>6話>5話後半 です。

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