~豪遊~ 2003
「今度一緒にお風呂に入ろう^^」
笑顔の絵文字を付けて送信ボタンを押す。この台詞は、栗原大樹のお気に入りの1つである。
送信相手はいわゆる<メル友>なのだが、これで反応を見るのだ。こんな馬鹿げた台詞が、意外に効果的であるのを大樹は経験で知っている。もちろんある程度仲良くなってからの作戦ではあるのだが。
この子とは某コミュニティサイトで知り合った。といっても、いつものように無差別にメールを送って引っかかった内の1人である。
「県北で塾のせんせーをしている23歳です。暇してるのでよかったら返事してね」
実際は27歳なのだが、高校生を捕まえるにはサバは読む方が受けが良かった。塾講師というのも安心感を与えるのだろうか、反応は上々だ。講師や先生と書くと堅苦しそうなので(堅苦しい人はコミュなどしなそうだけど)、<せんせー>と表記する事にしている。こうやって1日に何十人にも同じ定型文を送信するのだ。レスは3割くらいだろうか。<詐欺写メ>も何度も撮った物をUPしている。会った時に引かれない程度の詐欺具合がいい。
先ほどのメールの返事がきたようだ。素早い手つきで親指を動かす。
「何言ってるの?(笑)」
大樹はフッっと笑って脳内定型文から次の言葉を探し出す。と、すぐ作業に戻る。
「俺、前世がアライグマだからさ。洗うの得意だし、いいじゃん(笑)」
煙草に火をつけると軽く目を閉じて待つ。このドキドキ感がたまらないのだ。
「えー(笑)アライグマ可愛いけど(笑)」
満足気な顔はとても品がいいとは言えない。人には見せられないなと大樹は思った。
こんな会話だけで落とせる訳はない。世間話したり、相談に乗ったり、仲良くなったらもちろん電話もしたりする。たまーにこういった下ネタを入れて相手に意識させるのだ。そうじゃないと初めて会った時にそっちに持っていきにくい。
「アキちゃん週末は何するの?彼氏とデートでしょー?」
そろそろ本題にでも入るか。大樹の目に光が灯る。
「彼氏ねー、部活とバイトって言ってた;;」
「あらら><じゃあご飯でも行こっか^^」
携帯からようやく手が離れた。一仕事終えた大樹は軽く伸びをした。
大樹が今までに会ったメル友は200人くらいだろうか。全員その日の内に食べている。家が遠い子もいるから、次なんて悠長な事は言ってられないのだ。
携帯のアドレスには同時期に10人くらいメル友が登録されている時もある。登録には、苗字を抜かした下の名前と年と住所を入れてある。このアキちゃんだと<アキ17宇>となっている。宇都宮の17歳という意味だ。もちろん相手には見せられるはずもない。細心の注意を払っているせいか、名前を間違った事は1度も無い。
人数に驚くかも知れないが、大樹は見た目がいい訳ではない。マメなのだろう。しかも相手の子のほとんどは彼氏持ちなのだ。若さゆえのノリなのだろうか。成功率など気にしないのが秘訣だと思っている。
会ってしまえば割と簡単である。結構恥ずかしがり屋なので、中々ホテル行こうとは誘いにくいのだが、じゃあお風呂入ろっかといえば和らいでいる感じがする。
相手ももちろん合意の上なのだが、自分でも本当にひどい奴だなーと思う時がある。スクールデイズというアニメがあるのだが(鬼畜な主人公が出るアニメで、某コメ付き動画サイトには非難のコメが集まっている)大樹がこのアニメを見た感想は普通じゃね?だった。
文を書くのは初めてなので、お見苦しい点があると思います。
プロローグだけ見るとひどい主人公なのですが、よければ最後までお付き合い下さい。
起承転結の 起 の部分です。
ここでいかに読んでもらえるものを書くか。興味を持って次も読もうかと思わせるか。今回イロモノを持ってきましたが果たして。