私の継母があまりにも頼りになりすぎる
「メルナ、私は再婚することにしたよ」
……もう?
喉まで出かかった言葉をかろうじて飲み込んだ。
お母様が亡くなったのは数年前。
病弱ではあったけど、とても優しい人だった。
モデスト子爵家の次期当主であるお兄様は、勉学のため王都に出ており本邸に不在で、私はまだ十歳。
お父様も一人では寂しかっただろうし、領地経営にはやはり夫人がいた方がなにかと都合がいい。だから、お父様の再婚は貴族としてはむしろ当然の行為といえる。
それでも、なにか釈然としないものを心に抱いた。
程なくしてお父様は宣言通り再婚する。式は行わず、書類上のやり取りで済ませている。
オリビア・ランサー、これが私のお継母様となる人の名前。
国内でも有数貴族のギブウェル公爵家の令嬢であるらしい。ただし、妾の子であるため、公にはされておらず、ランサーというのは母方の姓だそうだ。
燃えるような、長く波打つ赤髪と真紅の瞳を持つ女性だった。背も女性としては高め、すらっとした体型で、空色のドレスを着こなしている。黒髪で穏やかな外見だったお母様とは大違い。
陰気臭い子爵令嬢の私など、この人からすれば吹けば飛ぶような存在だろう。
私はどうなるんだろう。いびられるか、無視されるか、軽んじられるか……。いずれにせよ、気が重くなった。
そんなお継母様からの私への記念すべき第一声は――
「ヤッホー! ええと、メルナちゃん……よね? よろしくね!」
想像とだいぶ違うものだったので、私は少々面食らってしまった。
***
お継母様の朝は早い。
早朝から庭で、なにやら運動をしている。
腕を回し、腰を回し、突風のような躍動感が伝わってくる。
「おいっちに! おいっちに!」
私も早起きした時、運動中のお継母様に挨拶をしたことがある。
「……何をやってらっしゃるんですか?」
「体操よ、体操。これをやると、目がシャキッとするし、朝食を美味しく食べられるのよね~! メルナちゃんもやる?」
「いえ……」
「あら、そう? 気が向いたら、一緒にやりましょ!」
私はそれには答えず、朝食が用意されているであろう食堂に向かった。
「美味しい~!」
私は朝食をほとんど食べないけど、パンとチーズをむさぼるように食べるお継母様を見ていると、少し呆れ、少し羨ましくなった。
朝食後、私は部屋でぼんやりしていた。
元々インドア派だったけど、お母様が亡くなってから、こういうことが増えた。
すると、ノックの音がした。
「メルナちゃん、いる?」
お継母様だ。
「どうぞ」
「今日はいい天気だから、散歩でも行かない?」
元気のない私を気遣ってくれているのだろう。
あまり乗り気じゃないけど、体操を断っている負い目もある。
「少しだけなら……」
「そう? じゃあ、一緒に行きましょ!」
私とお継母様は近所を散歩することになった。
お継母様はスキップでもするようなかろやかさで、道を歩く。しかも、とぼとぼ歩く私にもちゃんとペースを合わせてくれている。こういう気配りもできる人なんだな、と分かった。
「メルナちゃん、散歩って気持ちいいわねえ!」
「……そうですね」
楽しさと面倒さが入り混じっているが、楽しさの方が若干勝っているのは確かだ。
私も尋ねてみる。
「お継母様はずいぶん楽しそうに散歩をなさいますね」
「まあね! なにしろ散歩界にその人ありと言われた女だもの!」
「散歩界って、ずいぶんニッチな世界ですね……」
「そうなの! だから、メルナちゃんも散歩界の住人になってくれない?」
「……たまになら、いいですけど」
私がボソッと答えると、お継母様はにっこり笑った。
***
こんなこともあった。
私は幼い頃から野菜が苦手だった。だから、料理人も私に対しては野菜の量を減らすなどの工夫をしてくれていた。
「メルナちゃんは、野菜があまり好きじゃないの?」
お継母様に聞かれ、私は視線を返す。
「ええ。昔からあまり食べられなくて……」
一緒に食事をしていたお父様も会話に加わる。
「こればかりは無理強いするわけにはいかんからな」
私は亡くなったお母様によく似ている。
肩まで伸びた黒髪で黒い瞳、大人しい性格で、そして体が少し弱いところも。
だから、本当は野菜を食べてもらいたいのが本音なのだろう。
お継母様はうなずく。
「よし、じゃあ明日、私からメルナちゃんに味わってもらいたいものがあるの!」
「え……」
「お楽しみに~!」
お継母様はどこかに行ってしまった。
私とお父様はその背中をきょとんとした表情で眺めた。
翌朝、キッチンから奇妙な音が聞こえた。
ゴリゴリゴリゴリゴリ……。
何かをすり潰している音だ。なんの音だろう。
私がキッチンを覗くと、そこにはエプロン姿のお継母様がいた。
「あら、メルナちゃん。おはよう」
「お、おはようございます。何をしてらっしゃるのです?」
「野菜ジュースを作ってるのよ」
「野菜ジュース?」
「私が研究の末たどり着いたジュースよ。数種類の野菜を一時間ほどすり鉢ですり潰してるの」
「一時間!?」
一時間もこの作業をしていたことに私は驚いてしまう。
しかし、お継母様に疲れた様子はない。さすがだ。
「そろそろ出来上がるからね……」
お継母様はドロドロになった野菜にいくらかの味付けをして、二つのコップに入れた。
「さあ、飲んでみて」
「は、はい」
「もちろん、口に合わなかったら残していいから」
お継母様の人柄を感じてしまう一言だった。仮に私がジュースを残しても、一言も責めないだろうというのが分かる。
私はジュースを一口飲んでみる。
「んん……!」
まろやかで、体内に染み入るような優しい味だった。なにより美味しい。
起きたばかりで喉が渇いていたこともあって、ゴクゴク飲めてしまう。
私は素直に感想を口にする。
「……美味しかったです」
「ホント? よかったぁ!」
お継母様も腰に手を当てたポーズで野菜ジュースを飲み干した。いい飲みっぷりだわ。
私とお継母様は、唇にジュースがついた状態で、にっこり笑い合った。
不思議なことに、これ以降私は野菜を普通に食べられるようになる。
たとえば水泳などは一度泳げるようになると、一生泳ぎ方を忘れないと聞くけど、私の野菜嫌いもそのようなものだったのかもしれない。
だとしたら、克服するきっかけを作ってくれたお継母様には感謝しなくちゃね。
私のお継母様への苦手意識のようなものも消え去っていき――
「お継母様……朝の体操に参加させてくれませんか?」
「いいわよ! 一緒にやりましょ!」
体操は私にとっても朝の日課となる。
「散歩もよろしいですか?」
「もちろんよ! 散歩界に仲間が増えたわ!」
時を同じくして、私もまた散歩界の住人となった。
体操や散歩は気持ちいい。やると、ほのかな疲労感とともに体内に活力が燃え上がるのが分かる。足腰が強くなっていくのを感じる。
そのおかげか、私は体の弱さをも克服していくこととなる。
***
私もついに社交デビューの年頃になる。
しかし、自信はなかった。
お継母様のおかげでずいぶん健康的になったとはいえ、私はまだまだ地味で臆病。華麗な社交界でやっていけるとは思えない。
私はお継母様に相談する。
「お継母様、私のドレスを選んでくれませんか? お継母様の選んだドレスであれば、私は自信を持って社交界に出られます」
だけど、お継母様は珍しく私を突き放す。
「ダメよ、メルナ。ドレスは自分で選びなさい」
この頃になると、私も“ちゃん”付けで呼ばれなくなっていた。
「……! で、でも……」
「社交界に出るということは、一人前の女性になるということ。その時のドレスを私に選ばせてしまったら、あなたはせっかく自分一人で足を踏み出す機会を失ってしまうことになる」
何も言い返せない。この理屈はもっともだ。だけど、私は不安だった。
「もし、ドレスを笑われでもしたら……」
「いいじゃないの。笑われたら、『あなたにはこのセンスが分からないのね』と笑い返してやりなさい!」
お継母様に後押しされ、私は自分で職人の元に向かい、自分のセンスを元にドレスをオーダーする。
あまり派手なデザインは好かないので、地味な色合いながら、清楚に見えるドレスを仕立ててもらった。
今の私にできる精一杯を尽くしたつもりだ。
お父様は「似合っているぞ」と褒めてくれたし、お継母様も、
「可愛らしいわ、メルナ! せっかく笑ってあげようと思ったのに、これじゃ褒めることしかできなくて悔しいわ!」
「お継母様ったら……」
「ちなみに、私が自分で選んだドレスときたら……いやぁ、あれはトラウマだわ」
「お、お継母様?」
お継母様は出自を大っぴらにできない立場だったけど、身分を曖昧にして、夜会に参加したこともあるみたい。その時はあまりに奇抜なドレスを選んでしまい、大失敗してしまったとのこと。
「お継母様でも失敗することはあるんですね」
「そうよ~! だけど、あなたなら大丈夫! 夜会を楽しんできなさい!」
「はいっ!」
私はついに社交界に足を踏み入れる。
人見知り気味の私は、男の人に話しかけられただけでおどおどしていたけど、だんだんと自信をつけていく。
そう時間をかけることもなく、リドス・ルーベス様と知り合うことができた。
この方はルーベス伯爵家の嫡子で、艶やかな金髪をオールバックにした美丈夫だった。
幾度かのデートを経て、ついに婚約を交わす。
この時は本当に嬉しかった。これでようやくお継母様、そして亡きお母様に胸を張れる。そう思った。
ところが――
(婚約してからというもの、まるで相手にされなくなった……)
男性との交際経験などない私にもすぐに分かった。
リドス様の心は私にはない。
婚約し、とりあえずの夫人をキープしたら、後はもっと自分好みの女性と遊ぶのが本意だったのだと。
私を選んだのは、他の女性に比べて従順そうだったからだろう。
その目論見はまさしくその通りで、私はリドス様に抗議をすることはできなかった。
せっかく伯爵家との繋がりができるのだから、結婚するしかない。夫婦とは言えない仲になっても受け入れるしかない。
それが、家のためになる――そう信じて。
だけど、ある日のこと――私は家でお継母様に呼び出される。
リビングで二人きりになる。
「メルナ、話があるの」
「なんでしょう?」
「なにか悩みがあるんじゃない?」
「……!」
いきなり切り込んできた。単刀直入とはまさにこのことだ。実にお継母様らしい。
「そんな……悩みなんてありませんよ」
私も極力動揺を隠し、これぐらいの返しはできるようになっている。
だけど、お継母様の赤い瞳は全てを見透かすようだ。
ふうん、そう来るのね。と言われているかのよう。
「分かるのよ、私には」
「え……」
私はドキリとする。
「自分から言わないのなら、言い当ててあげましょう」
「そ、そんな……」
「ずばり、あなたは……」
心臓の鼓動が跳ね上がる。
「新しいドレスが欲しいけど、お金がなくて悩んでるのね?」
「え、違いますけど」
違いすぎるので、拍子抜けした。
「じゃ、じゃあ……お継母様、最近小じわが増えた気がする……指摘してあげたいけど、傷つけないようにしないと、とか?」
「全然違いますよ! ただちょっと婚約者と……」
「婚約者と?」
「あ……」
「話してみて」
目を細め、満面の笑みのお継母様。
してやられた……と思った。
この人はあえて的外れな指摘をして、私の本心を引き出してみせたのだ。
こうなった以上、隠しても仕方ない。私は全てを打ち明ける。
お継母様は「よく話してくれたわ」と微笑む。
「だったら婚約を破棄しましょう。もちろん、相手の全面的な有責でね」
「だけど上手くいくでしょうか……」
「任せなさい。継母の最大の仕事というのはね、娘を傷つけた男との婚約を破棄することなのよ!」
そうなのかな……と思ったけど、私はお継母様を信じることにした。
「はいっ!」
***
私がリドス様に婚約解消について話し合いたいと申し出ると、向こうから呼び出された。
私はお継母様とともに向かい、ルーベス家のあまり使われていない別邸に案内される。
薄暗く、なんだか不穏な雰囲気が漂っている。
広い室内にリドス様が待っていた。
「話というのは?」
私は前置きせずに切り出す。このあたりは私もお継母様の影響を受けている。
「私は……あなたが浮気をしているのを知っています。ですから、婚約の解消を申し出に来ました。当然、あなたの有責で、という形でお願いします」
「ふうん」
リドス様が指をパチンと鳴らす。
スーツを着た屈強な男が五人ほど出てきた。
「これは……!?」
「困るんだよ。こっちのせいで婚約破棄なんてことになったら、僕の輝かしい経歴に傷がついてしまう。だから、しっかり体で分からせるしかないな」
この人がこんな場所に私たちを呼び出したのはこういうことだったんだ。
リドス様は私が想像する以上に、タチの悪い男だった。
私は真っ先にお継母様の身を案じた。
「お継母様、逃げてください!」
「ありがとう。強くなったわね……メルナ。こんな時にも私をかばってくれるなんて。だけど、心配しないで」
不敵な笑みを浮かべ、お継母様は前に出る。この状況をまるで恐れていない。それどころか楽しんでいるようにも見える。
「こういう男のやること考えることはお見通し。だから、私は一緒に来たのよ」
もはや悪漢も同然の表情で、リドス様が命じる。
「この二人を痛めつけろ! 少なくとも、二度と婚約破棄なんて言い出さないぐらいにはなァ! “男の恐怖”ってもんを叩き込んでやれ!」
男たちが一斉に向かってくる。
一方、お継母様は唇をすぼめて細く息を吸う。
「ヒュウウウウ……」
「なんですか、それ?」
「継母にだけ許された呼吸法よ」
「そんなのあるんですか!?」
戦いが始まった。
お継母様は一人目の男の拳を華麗にかわすと、鳩尾に自分の拳をめり込ませる。
「うげええ……!」
この一発で一人目はダウンしてしまった。
さらに、二人目に顎をかすめるようなパンチを浴びせる。
威力があるようには見えなかったけど、相手はふらふらになって、またも一発で気絶してしまった。後で聞いたら、顎をかすめるような打撃は脳を揺らしてしまうみたい。
三人目は豪快にアッパーカットで打ち上げる。
天井まで吹き飛ばしてしまうんじゃ、と思うほどの一撃だった。
元々頼りになる人ではあったけど、お継母様がこんなに強かったなんて。
リドス様も狼狽している。
「なんだよ……なんなんだよ、この女ァ……!」
お継母様は流れ作業のように、残る二人の首筋に手刀を喰らわせ、失神させる。
まるで雷の如し。あっという間に五人を倒してしまった。
「力ずくで婚約破棄を阻止したかったら、せめて五十人は用意すべきだったわね」
「ひいい……!」
「さあ、メルナ。あなたの番よ」
「はい」
バトンを渡され、私はリドス様の前に出る。
お継母様を見習い、平手打ちを一発浴びせると、リドス様は「ひゃん」と声を上げ情けなく腰から床に崩れた。
私はそんな婚約者を見下ろす。
「リドス・ルーベス様、あなたとの婚約を破棄させていただきます!」
「うぐ、ぐ……」
全ては終わった。
私はお継母様とともに立ち去ろうとする。
しかし、リドス様は最後の悪あがきをする。
「……このままじゃ済まさないぞ! 僕は伯爵家の御曹司なんだ……お前らを追い詰める方法なんていくらでもある! せいぜい覚悟しておくんだな!」
お継母様が険しい顔になり、赤い髪をかき上げる。
「ずいぶん気が合うじゃない。私としても、あなたをこれぐらいで済ませるつもりはないわ」
「な、なに……?」
「ちょっと気は進まないけど……ここから先は父にお願いするとするわ」
その後、お継母様は実のお父上であるギブウェル公爵家の当主様に、リドス様への抗議をお願いした。
お継母様は公爵様に大切にされており、その関係は悪くなく、むしろ良好というのは聞いている。だけど、やはりあまり頼りたくない思いはあるようだ。なのに、私のために信念を曲げてくれた。
公爵様は娘からの頼みに「ワシ、権力を使って悪い奴を罰するの大好き!」と快諾してくださり、ルーベス家に猛抗議してくれた。それはもう、家ごと叩き潰す勢いだった。
慌てたルーベス家ご当主はリドス様をすぐさま廃嫡し、さらにモデスト家に莫大な慰謝料を支払ってくれた。それだけ公爵様が恐ろしい人だということだろう。
「ありがとうございました、お継母様」
「ふふっ、いいのよ」
「だけどお継母様があんなに強かったとは驚きです」
「私のような出自だと色々あるのよ。だから護身術ぐらいはマスターしていたの。メルナを守れて嬉しいわ」
「お継母様は本当に頼りになる方ですね……」
すると、お継母様は――
「あら、頼りになるのはあなたの本当のお母様もよ」
「え?」
「私はこの結婚、最初は不安だったの。見初められたはいいけど、新しい家で上手くやっていけるかってね。だけど、あなたを見た瞬間“大丈夫”って確信できたわ。つまり、あなたをこんないい子に育ててくれたあなたのお母様も、とても頼れる人だったのよ」
「……はい!」
亡きお母様を褒めてもらえて、私は心がとても温かくなった。
***
その後、私はある夜会で侯爵令息セリュード・シアリアス様と出会う。
柔らかな金髪、落ち着いた翠眼の持ち主。リドス様とは正反対で、貴族でありながら朴訥とした人柄だった。
「前々から君のことが気になっていたんだ」
頬を赤らめこう話すセリュード様には、どこか可愛らしさも覚えた。
今までの私は男性と話す時に、少なからず背伸びをしていたけど、セリュード様相手にはその必要はなかった。
“相性がいい”という言葉をこれほど実感したのは初めてだった。
ダンスをしていても、お茶をしていても、ただ一緒に歩くだけでも楽しい。
「君といると……僕の中にかすかに欠けていたピースがようやく埋まったような、そんな感覚になってしまうよ」
「私もです!」
セリュード様がぜひ私の家に挨拶に来たいというので、私は快諾した。
それを伝えると、お継母様は赤い瞳をたぎらせる。リドス様の件もあるので、だいぶ警戒しているみたい。
「あなたの新しい婚約者候補……私が見定めてあげるわ」
「どうやってです?」
「『刃物を持った暴漢があなたたち二人を襲ったらどうするか』と尋ねるわ。それに『メルナを守ります』と答えられれば見込みはあるけど、弱気な発言をするようなら、今後の交際は少し考えた方がいいかもしれないわね」
お継母様らしい確認の仕方だと思った。正直なところ、この質問にセリュード様がどう答えるか、私も興味がある。
さっそくセリュード様を招待し、お継母様を交え、リビングでお茶をする。
頃合いを見て、お継母様が尋ねる。
「セリュードさん。あなたに質問なのだけれど」
「なんでしょう?」
「もしも、あなたとメルナが二人でいる時に、刃物を持った暴漢が現れて襲い掛かってきたら、あなたはどうする? メルナを守ることはできるかしら?」
セリュード様は一考の後、答える。
「僕は武芸については不得手なので、メルナを守れる自信はありませんね」
私はお継母様をちらりと見る。
「ほらね」「リドスと大差ないわ」という感じの表情を浮かべている。
「ただ……もしもメルナが凶刃に倒れるようなことがあるならば、その時すでに僕が刃に倒れている。そうありたいとは思っています」
私はセリュード様を見る。
真剣そのものだった。
この人はいざという時、迷わず我が身を盾にしてくれる。そう確信できた。
これを聞いたお継母様はというと――
「……ま、参りましたぁ!!!」
――参っちゃった!
守ることはできないかもしれない。ただし、危機に出会った時、死ぬのは愛する人より先でありたい。
「守ってみせます」と自信満々に胸を張られるより、心に響く回答だった。
私はセリュード様を見つめる。
「あ、ありがとうございます……嬉しいです」
「いや……ちょっとかっこつけすぎたかな……」
二人で頬を赤らめる。
すると、お継母様はここぞとばかりに張り切る。
「セリュードさん、今日は泊まっていって! 夫も帰ってくるだろうし、みんなでパーティーしましょう!」
「……喜んで!」
私とセリュード様、お父様お継母様を交えたパーティーはとても楽しく、私も柄にもなくはしゃいでしまった。
***
それからまもなく、私とセリュード様は婚約を交わす。
婚約式ではお父様は笑顔で祝福してくれ、お継母様は声を上げて泣いてくれた。
そして四人で――お母様のお墓を訪れる。
お父様もお継母様も、セリュード様も、亡きお母様のために祈ってくれた。
そのことがたまらなく嬉しかった。
「また来ましょうね、メルナ」
「はい、お継母様」
「その時は僕も一緒だよ」
「ええ、セリュード様」
お墓に一礼して、私は立ち去ろうとする。
その時、私はこんな声を聞いた。
――メルナ。よかったわね。いい人に巡り合えて……それも二人も。
おそらく、私だけに聞こえた声。
私はそっとお墓に振り向いて、にこやかに笑む。
そして、前を歩く三人を追いかけた。
おわり
お読み下さいましてありがとうございました。




