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お掃除しましょう

作者: 鈴乱
掲載日:2026/02/03


『やっぱ……、そうだよな』


 スマホの画面を見つめて、心の内で呟く。


『やっぱ……、すげぇ奴……』


 画面がチカチカ光る。


 インターネットで見つけた、よく動く獲物。


 右に左に(せわ)しなく動き回る。


 言うことはテキトーで、まるでゲームの村人のよう。


 それでも、何とか人の役に立とうと必死な姿。


 不器用で、アホみたいな顔をした……、キャラクター。


『ふむ……』


 声をかけようか、一瞬の迷い。


 目の端に映り込む、チロチロとした動き。


『……しかし、目障り』


 少しは落ち着けんのか、とか。

 黙っていることは叶わんか、とか。

 お前は一体どこに行きたいんだ、とか。


 沢山の疑問が浮かんでは消える。


 しばしの沈黙。しばしの熟考。


 その間、わずか 0.02秒。


『テキ ヲ、センメツ ス。総員かかれー!』


 俺の交流時間はひどく短い。


 相手にはきっと、出会いがしらの事故レベルだろう。


 だが、俺にとっては、交流に交流を重ねた後であって、その答えはとてもシンプル。


 シンプルにならざるを得ない。


 獲物に対しては、GO(ぶつかる) or AWAY(にげる) だ。


「はっはっは。AWAY(かく)~!! 目障りな奴は、消去・消去・消去―!!!」


 画面には載らない言葉を使って、呪いの文句を紡ぐ。


 載せたら獲物に、はっきり通じてしまう。


 それだけは、避けなければ。


『どうせ、もう辞めたいくせに――』


 心中(しんちゅう)で呟く。


 長くこの場に留まっている獲物のことだ。


 きっともう、全てを諦め、今の位置で穏やかに過ごそうなどと、生ぬるい考えで()るに決まっている。


『……引導を渡してやるのも、ファンたるものの務め』


 俺は勝手にそう決めて、憧れの獲物を殺しにかかる。


 不要な物は、捨てるに限る。


 憧れの対象は、この手でゴミにしてこそ、価値を持つ。


「辞められないなら、辞めれるようにしてやるよ――!」


 ニコニコ笑って、愛想よくして、誰彼構わず、愛の言葉を吐く……


 生き物としてあるまじき姿。


 行きたいところは ” 本当 ” は別にあるのに、自分と周囲を騙くらかして、その位置に収まる傲慢さ。


『俺には! 全てが! 見えている!』


 決してゴースティングなどはしない。そんなことを堂々とやるのは卑怯の極みだからだ。


 だが、まるでゴーストのように傍につき、獲物の情報をあちらこちらから、かき集める。


『獲物を捕らえるには、まずネタをつかむところから……』


 そう、昔、親父が言っていた。 ” 獲物を仕留めるには、計画が重要だ ” と。


『親父、分かったよ。だから、俺は……こうする』


 ジャキ


 派手な音を立てて、機関銃を肩に乗せる。


『計画、実行。獲物をこの手に』


 ダダダダダダダ……。


 下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる。

 とぼけた鳩も、鉄砲食らえば、イチコロよ。


 ……俺に。



 『事の起こりは、もっと、平和だったのに。


 俺は平和にあろうと、精魂込めて頑張ったのに。


 どうして、こう――』


 俺の獲物が、戸惑っている声がする。


 俺のやり方に、文句があるに違いない。


「……消去」


 どうしてみんな、俺を邪険にするの……?


 俺はただ、頑張っているだけなのに。


「……消去」


 みーんな~! 元気にしてるかな~!


 俺はねー! 病気ー! みんなに病気って言われる―!


 ムカつく―!


 だから……、手伝ってもらえる?


 みんなの力が必要なんだ。


「……どうしてこうなった。だが、確定!」


 勢い込んで、しかし冷静に打ち込んだ文字列を、書いては消し、書いては消す。


『先方に失礼があってはいけない。親兄弟に迷惑がかかる』


 俺は良くても、”関係のない他人” に迷惑をかけることは、つまり、俺の死を意味する。


 俺が警察に通報され、ブタ箱までもたどり着けず、手頃な牢屋に押し込められる、という未来が、あろうことかその ” 他人 ” のせいで、確定する。確定演出になる。


 そうなるわけにはいかない。もう二度と同じ(わだち)を踏むわけには……。


 だから、俺は打ち込んだ文字をじっと眺める。


 話題はどんどん先に進むが、そんなことに構ってはいられない。


 【 話 題 < 失 礼 】


 話題などより先に、失礼になるかならないかの方が、人生において重要事項だ。


 話題を反故にしようとも、失礼にさえならなければ、未来において、未だチャンスはある。


 だがしかし、相手が俺を失礼な奴と認識した時、俺の今までの努力は泡になって消える。


 そんな、どこぞの人魚姫のようなこと、男の俺に出来るわけがないからして、俺は捨て身で相手にぶつかっていくことしかできない。


 思えば、いつもそうだった。


 あの時も、


 あの時も、


 これまた、あの時も――。


 思い出が逐一(ちくいち)、懇切丁寧にイメージの中を流れては消える。


『はは……。俺って、成長ねぇのな』


 自嘲気味に笑ってみるけれど、だからといって、狙いを外してやる気など毛頭ない。


 言葉や相手とは、真っ直ぐ向き合って、真っ直ぐ、俺の思う通りに返す。


 相手の言葉などに、もう二度と惑わされない。相手の態度にも二度と惑わされない。


 俺は、俺の人生を、この手に取り戻すと決めた。


 そのためには。



『全連絡先を、消去ー!!』


 過去の思い出を断ち、


『黒歴史な俺を、削除ー!』


 人に言えない恥ずかしい自分を消し、


『相手に遠慮して物を言えない俺を……』


 どうしたもんか。

 こいつは、どうしたもんか。

 デリートした場合のメリットと、デリートしなかった場合のメリット……。


『……』


 バチッ。バチバチッ。プシュー。


 あ、いかん、ショートした。


『ホリュウ シマス』


 俺の基幹システムが、決断を先延ばしにする。


『今はまだ、答えを出す時ではないようだ……』


 それならそれで。


 そのチェック項目は保留したままで。


 俺は俺のやれることを、ただひたすらやっていくしかない。


『フ……。人生なんてそんなもの』


 俺が俺に酔っぱらっている時、傍にいるパートナーはニコニコしつつドン引きし、


『うん……。いつか、別れるんだ、俺』


 と決意を新たにしていることにも気づかず、予定にも計画にもなかったのに、


『パートナー、関係性、削除。新体系、”友だちもどき” 起動します』


 と。まぁ、そういうことになってしまった。


 納得はいかないが、仕方ない。あのまま、色々消去していたら、パートナーごと世界を消去していたかもしれない。


 今もその後遺症は続いているが、世界丸ごと消去しなかった、自制心のある俺くらいは褒めてほしい。


 それはもうデロッデロに褒めてほしい。


 俺を、ダメにするくらい、褒めてほしい。


 だって俺は――。


 そんなことでは、全くダメにならないから。

 どうせ、そんな誉め言葉を本気になどしないから。


『あいつとは、違う――』


 幸か不幸か、俺は人の感情や好意、意図に気づくことは(まれ)だ。

 周りにいた人間は、人間付き合いに長けた、およそ俺とは人種の違う人々。


 その中で俺は、毎日のように劣等感を感じて育った。


 だが、落ち込んで終いなら、どこのアホでもできる。

 学があろうとなかろうと、そんなのは誰にでも出来る。


 誰にでも出来ることをやるのは、元パートナーや周囲に任せて、俺は絶大にサボってきた俺のやるべきことをこなすだけ。


 たとえ、蔑まれても。


『というわけで――』


 ニコニコしながら、機関銃を構え直す。


『犠牲になってくれ、獲物(ターゲット)――!』


 最後の最後まで取っておいたデザートを、今、俺の手で、蜂の巣にしてやるから――。

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