お掃除しましょう
『やっぱ……、そうだよな』
スマホの画面を見つめて、心の内で呟く。
『やっぱ……、すげぇ奴……』
画面がチカチカ光る。
インターネットで見つけた、よく動く獲物。
右に左に忙しなく動き回る。
言うことはテキトーで、まるでゲームの村人のよう。
それでも、何とか人の役に立とうと必死な姿。
不器用で、アホみたいな顔をした……、キャラクター。
『ふむ……』
声をかけようか、一瞬の迷い。
目の端に映り込む、チロチロとした動き。
『……しかし、目障り』
少しは落ち着けんのか、とか。
黙っていることは叶わんか、とか。
お前は一体どこに行きたいんだ、とか。
沢山の疑問が浮かんでは消える。
しばしの沈黙。しばしの熟考。
その間、わずか 0.02秒。
『テキ ヲ、センメツ ス。総員かかれー!』
俺の交流時間はひどく短い。
相手にはきっと、出会いがしらの事故レベルだろう。
だが、俺にとっては、交流に交流を重ねた後であって、その答えはとてもシンプル。
シンプルにならざるを得ない。
獲物に対しては、GO or AWAY だ。
「はっはっは。AWAY確~!! 目障りな奴は、消去・消去・消去―!!!」
画面には載らない言葉を使って、呪いの文句を紡ぐ。
載せたら獲物に、はっきり通じてしまう。
それだけは、避けなければ。
『どうせ、もう辞めたいくせに――』
心中で呟く。
長くこの場に留まっている獲物のことだ。
きっともう、全てを諦め、今の位置で穏やかに過ごそうなどと、生ぬるい考えで居るに決まっている。
『……引導を渡してやるのも、ファンたるものの務め』
俺は勝手にそう決めて、憧れの獲物を殺しにかかる。
不要な物は、捨てるに限る。
憧れの対象は、この手でゴミにしてこそ、価値を持つ。
「辞められないなら、辞めれるようにしてやるよ――!」
ニコニコ笑って、愛想よくして、誰彼構わず、愛の言葉を吐く……
生き物としてあるまじき姿。
行きたいところは ” 本当 ” は別にあるのに、自分と周囲を騙くらかして、その位置に収まる傲慢さ。
『俺には! 全てが! 見えている!』
決してゴースティングなどはしない。そんなことを堂々とやるのは卑怯の極みだからだ。
だが、まるでゴーストのように傍につき、獲物の情報をあちらこちらから、かき集める。
『獲物を捕らえるには、まずネタをつかむところから……』
そう、昔、親父が言っていた。 ” 獲物を仕留めるには、計画が重要だ ” と。
『親父、分かったよ。だから、俺は……こうする』
ジャキ
派手な音を立てて、機関銃を肩に乗せる。
『計画、実行。獲物をこの手に』
ダダダダダダダ……。
下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる。
とぼけた鳩も、鉄砲食らえば、イチコロよ。
……俺に。
『事の起こりは、もっと、平和だったのに。
俺は平和にあろうと、精魂込めて頑張ったのに。
どうして、こう――』
俺の獲物が、戸惑っている声がする。
俺のやり方に、文句があるに違いない。
「……消去」
どうしてみんな、俺を邪険にするの……?
俺はただ、頑張っているだけなのに。
「……消去」
みーんな~! 元気にしてるかな~!
俺はねー! 病気ー! みんなに病気って言われる―!
ムカつく―!
だから……、手伝ってもらえる?
みんなの力が必要なんだ。
「……どうしてこうなった。だが、確定!」
勢い込んで、しかし冷静に打ち込んだ文字列を、書いては消し、書いては消す。
『先方に失礼があってはいけない。親兄弟に迷惑がかかる』
俺は良くても、”関係のない他人” に迷惑をかけることは、つまり、俺の死を意味する。
俺が警察に通報され、ブタ箱までもたどり着けず、手頃な牢屋に押し込められる、という未来が、あろうことかその ” 他人 ” のせいで、確定する。確定演出になる。
そうなるわけにはいかない。もう二度と同じ轍を踏むわけには……。
だから、俺は打ち込んだ文字をじっと眺める。
話題はどんどん先に進むが、そんなことに構ってはいられない。
【 話 題 < 失 礼 】
話題などより先に、失礼になるかならないかの方が、人生において重要事項だ。
話題を反故にしようとも、失礼にさえならなければ、未来において、未だチャンスはある。
だがしかし、相手が俺を失礼な奴と認識した時、俺の今までの努力は泡になって消える。
そんな、どこぞの人魚姫のようなこと、男の俺に出来るわけがないからして、俺は捨て身で相手にぶつかっていくことしかできない。
思えば、いつもそうだった。
あの時も、
あの時も、
これまた、あの時も――。
思い出が逐一、懇切丁寧にイメージの中を流れては消える。
『はは……。俺って、成長ねぇのな』
自嘲気味に笑ってみるけれど、だからといって、狙いを外してやる気など毛頭ない。
言葉や相手とは、真っ直ぐ向き合って、真っ直ぐ、俺の思う通りに返す。
相手の言葉などに、もう二度と惑わされない。相手の態度にも二度と惑わされない。
俺は、俺の人生を、この手に取り戻すと決めた。
そのためには。
『全連絡先を、消去ー!!』
過去の思い出を断ち、
『黒歴史な俺を、削除ー!』
人に言えない恥ずかしい自分を消し、
『相手に遠慮して物を言えない俺を……』
どうしたもんか。
こいつは、どうしたもんか。
デリートした場合のメリットと、デリートしなかった場合のメリット……。
『……』
バチッ。バチバチッ。プシュー。
あ、いかん、ショートした。
『ホリュウ シマス』
俺の基幹システムが、決断を先延ばしにする。
『今はまだ、答えを出す時ではないようだ……』
それならそれで。
そのチェック項目は保留したままで。
俺は俺のやれることを、ただひたすらやっていくしかない。
『フ……。人生なんてそんなもの』
俺が俺に酔っぱらっている時、傍にいるパートナーはニコニコしつつドン引きし、
『うん……。いつか、別れるんだ、俺』
と決意を新たにしていることにも気づかず、予定にも計画にもなかったのに、
『パートナー、関係性、削除。新体系、”友だちもどき” 起動します』
と。まぁ、そういうことになってしまった。
納得はいかないが、仕方ない。あのまま、色々消去していたら、パートナーごと世界を消去していたかもしれない。
今もその後遺症は続いているが、世界丸ごと消去しなかった、自制心のある俺くらいは褒めてほしい。
それはもうデロッデロに褒めてほしい。
俺を、ダメにするくらい、褒めてほしい。
だって俺は――。
そんなことでは、全くダメにならないから。
どうせ、そんな誉め言葉を本気になどしないから。
『あいつとは、違う――』
幸か不幸か、俺は人の感情や好意、意図に気づくことは稀だ。
周りにいた人間は、人間付き合いに長けた、およそ俺とは人種の違う人々。
その中で俺は、毎日のように劣等感を感じて育った。
だが、落ち込んで終いなら、どこのアホでもできる。
学があろうとなかろうと、そんなのは誰にでも出来る。
誰にでも出来ることをやるのは、元パートナーや周囲に任せて、俺は絶大にサボってきた俺のやるべきことをこなすだけ。
たとえ、蔑まれても。
『というわけで――』
ニコニコしながら、機関銃を構え直す。
『犠牲になってくれ、獲物――!』
最後の最後まで取っておいたデザートを、今、俺の手で、蜂の巣にしてやるから――。




