1.事件
「転校生を紹介します。」
いつもは憂鬱なホームルームだが今日だけは違った。
「木戸 奈摘です。」
「今日からこの学校に通う転校生だ。みんなよろしく頼むぞ~。」
顔に反して声は低い。背は160㎝ほど、髪は腰までで後ろで一本結び。顔が小さくて目が大きいがマスクとメガネをしている。
顔は可愛い。
しかし、この木戸奈摘が来てから俺らの高校生活は狂っていく。
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「そういえば今日転校生来る日だよな?」
月曜日の登校、俺は学校の中では一番関わっている河田逢瑠と一緒に歩いていた。
強い日差しが家と家の隙間から俺たちをチクチクと差す。
今日の気温は42度。過去最高気温を記録した。
「あぁ、そうだったな。どんな子なのかなぁ。」
3年間一度も替えてない俺の高校のジャージには膝に2つ穴が空いていた。
俺はそのジャージのポッケに手を突っ込んで疑問を口からこぼすように言った。
「あれ?なんか今回の学校で4回目の転校みたいなこと聞いたぞ?風の噂にすぎないけど。」
「4回かぁ!?、すげぇな。」
転校生の話をしているうちにすぐに校舎が見えてきた。
開校94年の古い学校。
特に変わったところもない普通の学校。ただ1つだけ学校の敷地内に体育館ほどの建物がある。
しかし、それは体育館でも倉庫でもない。
ちょっと古い建物だから危なくて近づいてはいけない。つまり、誰も入ったことのない建物だ。
その建物はいろいろ都市伝説があるが俺も近づいて先生になんか言われるのは面倒だから近づいたことはない。
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その日の放課後、みんなが奈摘の机の周りに集まった。
「ね!誕生日いつ?」
「どこから来たの?」
「ペット飼ってる?」
机の周りでは質問コーナーが始まっていた。まるで記者会見のような勢いだ。
数秒の間クラスメイトの質問する声だけが聞こえていた。
しかし、奈摘はすぐに椅子から勢いよく立って冷めきった声で言う。
「ごめん、今日用事あるから。」
机の周りにいたクラスメイトは驚きを隠せない顔で一歩二歩後ろに下がる。
奈摘は机の横に掛けてある手提げカバンを少し乱暴に取りそそくさと歩いて後ろのドアから廊下を出た。
案の定クラスメイトはザワザワする。
「なんだよ、あいつ…」
「怒らせちゃったのかな?」
「あんな感じの子なの?」
俺はその時前のドアを通る奈摘を見ていた。
長い髪が風で地面と平行になるまで靡く。
すると奈摘の持っていたカバンからA4用紙を4回折った程度の大きさの紙が落ちた。
明らかにゴミではないと判断した俺は席を立って廊下を出た。
膝は曲げずに腰だけ曲げて紙を拾う。
紙には何も書いていない。ただ丁寧に半分、半分と折られたその紙からはなぜか重みを感じた。
拾った後に前を向いて奈摘に渡そうとしたがもう奈摘はいなかった。
ふと俺は気になった「これ、何書いてるのかな。」
俺は紙を開こうとした。しかし、その時廊下の開いた窓から一瞬強い風が吹いて俺の手から紙を飛ばした。
まるで神様がその紙は開くなと言っているようだ。
俺は飛ばされた紙を拾った。
その時、逢瑠が話しかけてきた。
「ゴミ拾ってるのか?」
「あ、これねなんか奈摘のカバンから落ちた紙。」
別に隠すことでもない。俺は素直に答えた。
すると逢瑠は両手でお皿を作って俺の胸の辺りに持ってきて小声で言った。
「くれませんか、その紙。俺、ちょっと奈摘さんのこと気になるかも、、。」
「きもいな。別にいいけどじゃあちょっとこの紙開いてみてよ。」
中身が気になった俺は紙を逢瑠の手に置きながら提案した。
逢瑠は手を出したまま頭を少し下げて「あざす」とだけ言った。
そして、逢瑠はゆっくり紙を開いていく。一回、二回と。紙を広げていく。
ただ転校生が落とした紙を開くだけなのになぜか俺たちは緊張していた。
そして、最後の一回を開いたとき俺たちは息を飲んだ。
そこには赤いインクで
「呪ってやる」
と書いてあった。
俺らは数秒時が止まったように動かなくなった。
「なんだ、、これ、?いじめられてる?」
俺は一瞬焦った。しかし、冷静に考えたらこれはなんかのいたずらだ。冷たい対応をする奈摘にイラついた腹いせで誰かが書いて奈摘のカバンに入れたのだ。と思いたい、、、。
俺は「まぁ見なかったことにしよう」とだけ言って一人で家に帰った。
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次の日のホームルーム。珍しく逢瑠の席が空いていた。
その時はそのことについて何も気にしていなかった。
しかし同じ日の帰りのホームルーム。先生は突然「ごめん後ろの人、ドアを閉めてくれ。」と言い、教室の前のドアを閉めた。
そして先生は険しい顔をして教壇の上に手を突いた。
そしてこう言い出した。
「突然なんだが河田逢瑠が行方不明になった。」
教室の中に目に見えるほどの重たい空気が流れたように感じた。
何人かが「えっ」と声を出して数秒間、誰もしゃべらなかった。
でもどうせ家出でもしてどっかに行ったのだろう。俺はそんなに大きく受け止めていなかった。
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あの出来事から一週間が経過した。しかし逢瑠の席は空いたままだった。
さすがにここまで来たら何かある。
すると教室の端からこんなことが聞こえてきた。
「なぁ俺らで探さね?逢瑠。」
声の方を見ると四人の逢瑠のいつメンが固まって話していた。
「やばいよね、これ。」
「やめといた方が、」
色々言っているがなんとなく探す方向になりそうだ。
俺はそんな会話も気にせずに机の上に腕を置き顔を埋めた。しかし、すぐに俺の肩をトントンと叩くやつが現れた。
「ねぇ、ねぇ」
女の子の声。誰だ?俺は恐る恐る顔を上げた。
そこに立っていたのは逢瑠のいつメンの一人である菅野梨花だった。
「なに?」
久々に女の子と話したことは悟られないようにあえて冷たい返事をした。
他のいつメンは教室の端から俺と梨花のことを見ている。




