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ウルトラマンを呼べ!

作者: 星賀勇一郎
掲載日:2025/10/26





私が現場に到着したのは通報から十分程経過した頃だった。

現場には須藤隊員と山下隊員が既に到着していた。


「状況は」


私は二人に訊いた。


「怪獣、ガーベイジは海上から現れ、北上しています」


「被害は」


「よくわかりません」


よくわからないって……。


私はその巨大な怪獣を見て、息を吐く。


「一体何処に向かってるんだ……」


須藤隊員は手に持ったタブレットを開き、地図を出す。


「このまま真っ直ぐ進めば、原子力発電所があります。そこをやられるとまずくないですか」


須藤隊員は私の顔を覗き込んだ。


「まずいに決まってるだろう……。それまでに何とか食い止めなければ」


「はい」


私は赴任早々に怪獣に出くわした不運な隊長だ。


「何か武器は……」


私の言葉に山下隊員が科学特別捜査隊の専用車両のトランクから、拳銃を持って来た。


「どうぞ」


私はその拳銃を巨大な怪獣ガーベイジに向けた。


ん……。

ちょっと待てよ……。


「山下隊員……。この拳銃ではあの怪獣にダメージを与える事など出来ない気がするが……」


山下隊員は私を見て、


「私もそう思います」


「そう思いますって……」


「しかし、政府から支給された武器は……」


そう言いながら、思い出したかの様にもう一度車へと走った。


「これは如何でしょうか……」


と小型のバズーカを持って来る。


拳銃と似た様なモノだと私は思うが……。


「他に無いのか、レーザー銃とか、戦車とか……」


私は声を荒げた。


「いえ、そんなモノは、科学特別捜査隊の使用できるモノではない様ですね……」


須藤隊員はタブレットを出し、我が隊の要綱に記載してある使用できる武器の一覧を私に見せた。


「今までどうやって戦って来たんだ……」


私は二人に訊いた。

二人は顔を見合わせて首を横に振った。


「戦った事無いのか」


私の言葉に二人は頷く。


「はい……」


「一度もか」


「はい」


私は咳払いを一度した。


「怪獣に遭遇した事は」


そう訊いてみた。


「今回が初めてです」


須藤隊員がタブレットを消しながら、


「隊長はあるのですか」


私は、口を瞑って、


「私も無い」


と答えた。


「私は南九州支社に居たからさ」


「み、南九州支社……ですか」


「ああ、そうだ。平和な支社でな。怪獣はおろか、UFOの一度も見た事が無い」


須藤隊員と山下隊員はクスクスと笑った。


「何が可笑しい」


「いえ……。失礼致しました」


須藤隊員は私に敬礼した。


「でも、あれですよね……南九支社って言うと科学特別捜査隊の支社の中でも、一番食堂のご飯が美味しいって有名ですよね」


山下隊員は怪獣ガーベイジを見つめたまま呟く。


「山下隊員知っているのか」


私は山下隊員に訊いた。


「ええ、隊の情報誌に載ってましたので、黒豚丼とか、とんかつとか、凄い美味そうでしたよ」


確かに美味い。

あれ以上の定食を出す支社は他に無い筈だった。


「とりあえず、どうしますか……。拳銃で撃ってみますか」


と須藤隊員がガーベイジに銃を構えた。


「ちょっと待って。もしそんな事したら、アイツ、怒ってこっちに来るんじゃないか……」


山下隊員が言う。


確かにそれは一理ある。

しかし、そのまま放置すると北にある原子力発電所を破壊され、放射能が漏れだす可能性もある。


「それ以前に、拳銃の弾じゃ、あそこまで飛ばないんじゃないでしょうか……」


須藤隊員が拳銃を見て言った。


「じゃあ、バズーカを……」


と山下隊員は車に立掛けたバズーカを手に取った。


「それも同じじゃないか……。当たったとしても、石ころが跳ねて当たる程度で、何のダメージも無い気がするけど」


須藤隊員は山下隊員に言った。


「じゃあどうすれば良いんだ……」


私は険しい表情を作り、二人を見た。


「誰か怪獣と戦った事のある奴はいないのか」


須藤隊員と山下隊員は少し考えていた。


「あ、関西支社の島内隊長なら知っているかも」


「そうそう。駆け出しの頃に大阪城をゴモラに壊されたって自慢してましたから……」


須藤隊員はスマホを取り出して、関西支社に電話を掛けた。


「もしもし、関東本部の須藤と申します、島内隊長は……。えっ、辞められた……。はい……、定年退職……。今は……。はい、島根の田舎で隠居されている……。はい、はい。わかりました……」


使えない。

平和ボケした私たちでは怪獣に一発食らわせる事も出来ないのか……。


「自衛隊は」


私は山下隊員に訊いた。


「自衛隊は、怪獣は科学特別捜査隊の範疇なので、こっちで何とかしろとの事でした」


私は溜息を吐く。


「国連軍とか他国の科学特別捜査隊は」


須藤隊員も山下隊員も首を捻るだけで何も答えなかった。


「もういい。どうせ人の手で倒せる相手じゃない」


「はあ……」


私は振り返り二人を見る。


「そろそろ良いだろう……」


二人は顔を見合わせていた。


「良いって何がですか……」


私は咳払いをして、


「か、怪獣と言えばウルトラマンだろう……。そろそろ登場していい頃なのでは無いか……」


須藤隊員と山下隊員はお互いを見て声を出して笑い始める。


「何が可笑しい」


私は声を荒げた。


「隊長、お言葉ですが……」


須藤隊員は笑いながら言う。


「あれはテレビの話じゃないですか。実際にそんなモンいたら苦労しませんよ」


いやいや、それを言うなら、怪獣もテレビの話だろう……。


「そうですよ。怪獣にはウルトラマンで、怪人には仮面ライダーって話ですよね」


山下隊員も声を出して笑っている。


「幾らなんでもウルトラマンを呼べって言われても……」


私は口を噤んで黙ってしまった。






幾つも送電線を倒され、山肌は露わになって行く。

それでも私たちは怪獣ガーベイジの足を止める事も出来ず、ただそれを見ているだけだった。


「あ、これどうですか。これなら私たちでも出来そうですが……」


須藤隊員はタブレットに載っている怪獣撃退マニュアルを見ていた。

その画面を私の前に出した。


ジャミラ……。

水に弱く、放水で撃退出来た。


「須藤隊員。ガーベイジは何処から来たと言っていたかな……」


「ああ、海ですけど……」


須藤隊員はそう答えた。


「あ、そうか。海から来たって事は、水には強いんだな……」


「なるほど……。放水作戦はダメか……」


私の記憶ではジャミラへの放水もウルトラマンがやった記憶があるのだが……。


「水素を入れて空に飛ばしたってのもありますよ」


あったあった。

どうやってそんな事するんだよ……。

でもあれ、結局落ちて来るんだよな……。


「でも、本当にどうするんですか……。隊長、何か良い案無いんですか」


口から火とか放射能とか吐き出さないだけマシなのかもしれないな……。


私は黙ってガーベイジを見つめている。


「ハヤタ隊員がウルトラマンに変身するんだ……」


須藤隊員がタブレットを見ながら言う。


そうなんだよ。

ハヤタ隊員が変身するんだよ。

なんだっけ、ベータカプセルだっけ……。

それを使って変身するんだよ……。


「そう言えば、東北支局に早田って奴がいたな……」


それだよ。

そのハヤタ隊員だよ。

大体隊の中に変身できる奴が居るんだよ、ウルトラマンってのは。

中には小学校の先生が変身してるやつもあったけど……。


「ちょっと電話してみるか……」


須藤隊員はスマホを取り出して電話をしているようだ。


ほら、そのハヤタ。

多分、当時のハヤタ隊員では無いにせよ、息子ですとか、孫ですとか、そう言うんじゃないの……。


「あ、関東本部の須藤です。ハヤタ隊員居られますか。は、リストラ……」


え、ハヤタ隊員をリストラ……。

そんな事したら怪獣から誰が日本を守るの……。

ダメだよ……。

ハヤタ隊員だけはリストラしちゃ……。


「え、東北支局って無くなっちゃうんですか」


支局を無くす……。

おいおい、それじゃ東北に怪獣出たらどうするのよ。

東北も関東本部でカバーしろって言うの……。

無理だよ。

実際今も怪獣一匹に良いようにやられてるし……。


「いや……。ハヤタ違いでしたね……」


須藤隊員は電話を切って、苦笑いをしている。


後はモロボシ・ダン隊員、郷隊員、ホクト隊員、ミナミ隊員だよ。

誰でも良いから、その辺の人の血筋はいないのか……。


「あ、話は変わるんですけど、南九支社の黒豚シャーシュー麺って滅茶苦茶美味しいんですよね……。良いなぁ、一回食べてみたいな……。俺、ラーメンには目が無いんですよね……」


須藤隊員はタブレットを見ながら言う。


「ラーメン、ラーメンっと……」


待て待て、コイツ、ラーメン屋の検索してるんじゃないだろうな……。


「あ、戻りました……」


山下隊員が楊枝を咥えて戻って来るのが見えた。


ん……。

アイツ、何処に行ってたんだ……。


「おう。遅いよ……。じゃあ次俺、行って来るな」


須藤隊員は手に持ったタブレットを山下隊員に押し付ける様に渡した。


「東北支局、無くなるんだってさ。おかげでハヤタ隊員、リストラだってよ」


「マジっすか……。俺たちも明日は我が身ですね」


二人のそんな会話が聞こえる。


「じゃあ、ちょっと頼むわ……」


須藤隊員は小走りに何処かへ行ってしまった。


「山下隊員……」


私は双眼鏡で怪獣ガーベイジを見ながら言う。


「はい。何でしょう」


山下隊員は楊枝を咥えたまま返事をした。


「須藤隊員は何処へ行ったのかな……」


「ああ、昼飯ですよ。昼飯」


え……。

昼飯……。

この怪獣が暴れてる最中に……。


「要綱にあるんですよ。昼食はいかなる場合でも、ちゃんと取る様にって。何でもコンプラコンプラで、嫌になっちゃいますよね……」


いやいや……。

コンプラって確かに重要なのかもしれないけど……。


「あ、隊長も須藤隊員が戻って来たら飯、行って下さいね。コンプライアンス委員会に怒られちゃいますから……」


コンプライアンス委員会に怒られる前に、もっと怒られる気がするんだけど……。


「あ、モロボシ隊員ってのが北関東研究所に居ますね……」


何、モロボシ隊員が居るのか……。

この際、ウルトラセブンでも良い。

とにかく、早くこの怪獣を何とかせねば……。


「電話してみますね……」


「ああ、良い。私がしよう」


私はポケットからスマホを出して、タブレットに表示されている北関東研究所に電話をした。

三回目のコールで電話が繋がった。


「もしもし、こちら関東本部の遠藤ですが。モロボシ隊員をお願いしたいのですが……」


どうかあのモロボシ隊員の関係者でありますように……。


私はそう願いながらモロボシ隊員が電話に出るのを待っていた。


「はい、お電話代わりました、モロボシです」


なかなかちゃんとした電話対応じゃないか……。

いや、今はそんな事はどうでも良い。


「あの、モロボシ隊員でしょうか……」


「はい、モロボシです」


「いや、ですから……。あのモロボシ隊員ですか」


「え、モロボシは私ですけど……」


私は頭を掻いた。


「今、神奈川エリアに怪獣が上陸しているのはご存知ですか」


「あ、はい、テレビで見てました。大変ですよね……。なんか打つ手が無いみたいな事をテレビでは言ってますけど、大丈夫ですか」


大丈夫じゃないから、電話してるんですけど……。


「いや、あの、モロボシ隊員は今、何を……」


少し間があって、


「私ですか……。今、お昼休みでして、昼食を食べてましたが……」


コイツも昼食かよ……。


「あの、モロボシ隊員は、こちらに来られる予定などは無いのでしょうか」


「あ……。私、実は派遣社員でして、現場に出るのは禁止されてるんですよ……」


隊員に派遣社員もいるのか……。

これはあのモロボシ・ダンからは程遠いな……。


「すみません。お昼休み中に失礼しました」


私は電話を切った。


「どうでした」


山下隊員は私の顔を覗き込む様にして訊いて来た。

私は首を横に振り、手に持ったタブレットを山下隊員に返した。


「すみません」


と言いながら須藤隊員が小走りに帰って来た。


「早かったですね……」


「当たり前だろうが、怪獣が目の前に居るんだぞ、ゆっくり飯なんて食ってられるかよ」


ゆっくり食うどころか、そんなモン後回しだろうが……。

私は苦笑しながら二人を見た。


二人は私の視線に気付いたのだろう、じっと私を見ていた。


「隊長、すみません。先に休憩戴きまして……。どうぞ、お昼行って来て下さい」


何の悪気も無い感じで須藤隊員と山下隊員は私に昼食を勧めて来る。


私は小さく頷くと、


「じゃあ、そうさせてもらおうかな……」


と言った。


「あ、そこを道に出た所のラーメン屋、やってますんで」


「ラーメン屋な。出た所な……」


私は須藤隊員にそう言いながら持ち場を離れた。






道を出た場所にラーメン屋があった。

私はそのラーメン屋のドアを開けた。


「いらっしゃい。おや、また科学特別捜査隊の人だ……」


私は小さく頭を下げてカウンターに座った。


「ラーメンと焼き飯を……」


私がそう注文すると、威勢の良い声でその注文を繰り返した。


「何か大変ですね……。怪獣なんて来ちゃって……」


店主は私の前に水を出しながら言う。

私は小さく頭を下げた。


「何かすみませんね……。もっと手際よく片付けられたら良いんですけど……」


「何を言ってるんですか。怪獣ですよ。そんな簡単には片付けられないでしょ。そんな簡単だったら、地元の消防団でも怪獣退治出来ちゃいますよ」


店主はそう言って声を上げて笑った。


「でも、あれですよね。この怪獣って我々が海を汚したゴミが原因だそうですね。やっぱ少し反省しなきゃいけないんですよ、人間ってのは……」


私はグラスを手に取って口に運んだ。


「そんな情報、何処から……」


私は店主に訊いた。


「ああ、テレビで言ってましたよ。人が汚した海のゴミと海に住んでいる生き物が融合して、化学反応を起こし怪獣になったんじゃないかって……」


テレビの方が、情報が早そうだな……。


私は飲み干したグラスにデキャンタの水を注いだ。


「昔はこんな怪獣が出たら、ウルトラマンがやっつけてくれたんですけどね……」


店主は麺の湯切りをしながら言った。


そうなんだよな……。

ウルトラマンなんだよな……やっぱり……。


「はい、ラーメンお待ちどう様」


店主は私の前にラーメンを出した。


私は目の前の箸を取り、ラーメンを食べた。


「うちも箸を割り箸から普通の箸に変えたんですけどね。まあ、エコって言うんですかね。今で言うSDGsって奴ですね」


店主は身を乗り出す。


「だけど、やっぱりラーメンは割り箸じゃないとダメなんですよね。ほら、麺が滑っちゃって……」


店主は小声でそう言うと声を出して笑った。


「地球のため、地球のためって言ってるけど、地球のために不便な生活は仕方ないってのもね……。なんか違う気がするんですよね……。だって、今までずっと便利な生活のためにやって来たんでしょ。それをいきなり地球のためになんて言われてもね……」


私は箸を止めて店主に微笑んだ。


「そんな簡単に変われる筈も無い」


そう言ってまた大声で笑った。


少し黙っててくれないかな……。

さっさと食って現場に戻らないといけないんだけどな……。


「はい、焼き飯です」


と私の前に大盛の焼き飯が置かれた。


「大盛サービスしときましたんで」


店主はそう言うとニコニコと笑っていた。

 





私は張り裂けそうになった腹を抱えて店を出た。

そして、現場に戻った。


「あ、隊長。お帰りなさい」


須藤隊員が私を見付けてそう言う。


「結構美味かったでしょ。そこのラーメン」


私は無言で頷くと、


「状況は」


と訊いた。


「何も変わってませんよ……。また山肌が綺麗に削られちゃいましたけど……」


私は双眼鏡を取り、怪獣のいる山を見た。

確かに綺麗に山肌が剥がれ落ちていた。


「あの怪獣。どうやら人間が海に流したゴミが生んだモノらしいな……」


「あ、隊長も聞きましたか。どうやらそうみたいですね……。人間ってのは罪深い生き物ですよ……」


私は双眼鏡を車のボンネットの上に置いた。


「で、思ったんですけどね……」


須藤隊員は得意のタブレットを開いて、私に見せた。


「ゴミなら火をつけたら簡単に燃えるんじゃないかなって……」


私は須藤隊員からタブレットを受け取り、そのサイトを見た。

海のゴミを収集し焼却処分しているニュースが表示されていた。


「普通の燃えるゴミも、燃えやすいペットボトルなんかがリサイクルされる様になったせいで、燃料使わないと燃えにくくなってしまってるらしいですよ」


プラスチックなどのゴミの方がよく燃えて、燃料も使わずに済むって事か……。


私はタブレットを須藤隊員に返した。


「よし、本部に連絡して、怪獣ガーベイジに空から火をつける様に指示してくれ」


私の言葉に、須藤隊員と山下隊員は敬礼して車の無線を使い本部に連絡した。


ナフサを散布してその上からミサイルで火をつける事が決まった。


「しかし、良いんですかね……。あの怪獣を燃やすんですよね……。CO2の排出量増えませんか……」


山下隊員が私の横で言う。


「今は怪獣退治が最優先だ。そんな事を言ってる場合ではない」


私はガーベイジを双眼鏡で見た。


「でも、地球温暖化の原因になっているCO2は牛のゲップがその原因の第一位なんですよね……」


須藤隊員がまたタブレットを見せて来る。


「牛を宇宙空間で飼う様にすれば、温暖化なんて一気に解決出来るのかもしれないですね……」


怪獣も温暖化もコンプラもすべて人間が生み出したモノが原因でそうなっている事に気付いた。

全ては人が自分の首を絞めているに過ぎない。

その当時はイケイケドンドンで環境や社会の秩序を破壊し、今度はそれを守るために、便利さを犠牲にしろと言う。

なんて勝手な生き物だろう。


ウルトラマンはそんな勝手な生き物と知りつつも地球に住む人々のために怪獣退治をしていたのだ。

そりゃうんざりして、来てほしい時に来なくなってしまうのは当たり前だ。

私でも、都合よく怪獣退治だけしててくれれば良いなんて言われると出て来る筈も無い。


ラーメン屋の店主も言ってた様に、便利に生きるために築いた文明を、今度は不便な生活をしてでも地球環境を守れって突然言われても困る話だ。

そう簡単に方向転換できるモンでも無い。


あの怪獣だって被害者だ。

人間が海に散々流したゴミや化学薬品などが生き物と融合して怪獣になった。

そりゃ、海の生き物だって、怪獣になんてなりたくなかっただろうし、綺麗な海の中で過ごして居たかった筈だ。

人間がその生態系を変えてしまったばっかりに、こんな状況になってしまっている。


人間は勝手に生きて来た代償を払わなければいけない時が来たのかもしれないな……。


私は怪獣ガーベイジを見ながらそんな事を考えていた。


「隊長、来ました」


山下隊員の声に私は空を見た。

ナフサを積んだ戦闘機がガーベイジにそのナフサの入ったタンクを命中させた。

ガーベイジはナフサが身体に沁みるのか、大きく暴れ始める。

そして二機目の戦闘機がミサイルを発射してガーベイジに命中させた。

その瞬間にガーベイジは炎に包まれた。

ガーベイジは苦しみながら火だるまと化した。

ゴミの焼ける臭いが此処まで漂って来た。

ガーベイジは膝から崩れ落ち、山の斜面にその身体を倒した。


「やりましたね……」


私の横で山下隊員が言う。


「ああ」


「やっぱりゴミだけあって、良く燃えますね……」


須藤隊員は双眼鏡で燃えるガーベイジを見ながら言った。


「そうだな……」


私はそう言うと頷いた。


炎に包まれた怪獣ガーベイジはゆっくりとその大きな目を閉じて行った。


私はその巨大怪獣に手を合わせた。


済まなかった……。

人間を代表して私が謝る……。


私は心の中でそう呟いた。

気が付くと須藤隊員も山下隊員も手を合わせていた。






私たちは車に乗り込み、本部へと戻る事にした。


「隊長、見て下さい」


助手席に乗っていた須藤隊員がまたタブレットを開いて私に見せた。


「ウルトラマンの体重って三万五千トンらしいんですけど、これって牛の約三十九倍なんですよね」


私はタブレットを受け取った。


「それがどうかしたのか……」


私は須藤隊員に訊いた。


「いや、って事は、ウルトラマンがもし酸素を吸って二酸化炭素を吐き出していたら、牛の三十九倍、地球温暖化を早めるって事になるんじゃないですかね……」


ウルトラマンは牛の数程わんさかいる訳では無い……。


私はタブレットを須藤隊員に返した。


「簡単にウルトラマンを呼べって言えない世の中になってしまいましたね……」


須藤隊員はタブレットを閉じながらそう言った。








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