第99話 お婆ちゃんがお似合いって言ってたよ。
雲平、セムラ、アグリはようやく猪苗代湖に着いていた。
昼食を提案する地元警察やグラニューを無視して、雲平は前に出ると「あー、母さん連れてくればよかった。敵の把握が出来ないや」と呟く。
ビャルゴゥが「問題ない。水源が近いから私の力を使え。勢いはなくていい、広範囲に水を撒いて把握してみろ。お前にならできる」と言うと、雲平は実践してみる。
タチが悪いのはワイバーンなんかの飛行型の魔物も多数居て、その中心にはコジナーと繋がるゲートがあった。
「ゲート…見つけた。セムラさん、アグリ、ご飯は適当に貰っておいて。アグリ、スマホの残りはどれくらい?」
「100が50になったからやめたよ」
「随分使ったねぇ。グラニューさん、充電器あります?」
平常運転の雲平にグラニューは「手配します」と言い、地元警察や自衛官は雲平しか来ない事に不満を見せる。
雲平が装備を確認すると鎧の替えや予備の剣もある。
それを満足そうに見た雲平は、スマホと充電器をしまうと「アグリ、荷物持ちみたいでごめん。剣だけ持って、出来たら何本か欲しいんだよね」と言い、セムラを抱きかかえる。
セムラも当たり前に抱きつくと、アグリが「お婆ちゃんがお似合いって言ってたよ」と言う。
「うん。ありがとうアグリ」
「うれしいです。アグリさん、ありがとう」
2人の照れる事ない返しに、聞いているアグリが赤くなるほどだった。
「ご飯は終わったらにするからよろしく」
「わかったよお兄ちゃん」
「お任せします」
雲平が周りを見ると、自衛官とグラニューがカメラを構えて雲平を見ている。
「それは?撮れって命令ですか?」
「日本政府から言われました」
苛立つ顔の雲平にセムラが「雲平さん?」と聞くと、「嫌な予感が形になりそうなので苛立ってます。少し無理します」と返される。
「無理?」
「監視がなければアグリにビャルゴゥリングを渡す予定だったんですよ。多分これで終わらない。やる事を変えます」
雲平はアグリに目配せをしてから「行きます!」と言うと素早く動き、自衛官達が必死にカメラで追いかけてくるのを見てから、「アグリ!雷を落とす!俺のそばに!」と言い、周囲の魔物に向けてサンダーデストラクションをコレでもかと放つと、背後からは「カメラが!?」と聞こえてくる。
「お兄ちゃん?」
「カメラは雷で壊れるって前に何かで見たか聞いたかしたんだ。撮らせるなんてもっての外だよ」
そのまま苛立つ雲平は、猪苗代湖の水を使ってラピッドウェイブを放ち、辺り一面に風塵爆裂を放つと「これで多分小物以外は倒せた」と言ってゲートまで行くと、わざわざゲートの前まで来た事にセムラが「雲平さん?」と声をかける。
「セムラさん、ゲートの向こうにシェルガイを感じますか?」
「はい。多少ですが感じます」
雲平が「少しだけ開きます?」と聞くと、頷いたセムラはゲートに念じると多少開いたのだろう、シェルガイの気配が濃くなる。
雲平はアグリから剣を受け取るとゲートに突き立てて、「よくもやってくれたな!サンダーデストラクション!」と言うと、暫くして「折れた。やっぱり剣の先から魔法を放つとこうなるよなぁ。アグリ、おかわり」と言って次を受け取る。
そのまま剣の在庫がなくなるまで、インフェルノフレイムからラピッドウェイブ、風塵爆裂にアースランスまで放って「ビャルゴゥ、向こうは無茶苦茶?」と聞くと、「やり過ぎだ」と返ってきた。
「終わりました。小物は皆さんでなんとかしてください」
「…わかりました。本当に全ての大魔法を1人で放てるのですね」
「まあ、なんとなくです。お昼食べたら帰りますよね?」
「ええ、すぐに帰れます」
グラニューは車に戻ると、スマホを取り出して本庁に手配をしているのだろう。
「はい。終わりました。カメラは戦闘の余波で壊れました。自衛隊の方はわかりかねます。食後に撤収します」
そんな声が聞こえる中、地元住民が来ていて雲平に感謝を告げる。
応対に困る雲平だったが、そこはセムラが姫として「皆さんの暮らしが守られて良かったです」と挨拶をしてくれていた。
昼食を貰いながらアグリは、充電中のスマホであんこに「こっちはお兄ちゃんが終わらせたよー」と連絡をすると、「早っ!帰りも気をつけてね」と返ってくる。
アグリはスマホをじっと見つめて、「うわー、写真とこの連絡は便利だねぇ」と言って、何度もあんこと送り合ったメッセージを見ている。
「アグリは地球が良くなった?」
「んー…、お兄ちゃん達が居てくれるからだよ」
雲平が「そっか、良かった」と言った時、スマホにはあんこからの着信が来た。
「あんこお姉ちゃん?」
「アグリちゃん!こっちに魔物が出たって!小学校に避難するように連絡が来たの!戻れるなら戻ってきて!」
雲平はその声に「あんこ!状況を教えて!」と言って、アグリから奪うようにスマホを取る。
「雲平!わかんないよ!さっきまで普通だったのに、急にサイレンが鳴って避難しろって!」
「わかった。すぐに戻る!アチャンメとキャメラルも向かうはずだから安心するんだ!大丈夫、ホイップくんも居る。避難なんかはばあちゃんの方が場慣れしてるから任せるんだ」
雲平は電話を切るとグラニューに車を出せと言う。
だがグラニューは「今からでは間に合いません」だの、「きっと規制線が張られていて入れません」と言うだけで動こうとしない。
雲平がグラニューを睨みつけて、「あなた、何を知ってます?誰に何を言われました?」と聞くが、グラニューは返事をしない。セムラも姫として「グラニュー!言いなさい!」と言ったが、グラニューは口をつぐむ。
暫くしてようやく出した言葉は「必要な犠牲です」だった。
「ちっ、オシコの奴。何か言ったな…。やらせるか!シュザーク!!」
雲平がシュザークウイングを構えて、「セムラさん!アグリ!行くよ!」と声をかけると、シュザークから「ゲートの向こうは死骸まみれだ。多少ゲート操作をしても問題ない。レーゼの姫に開けさせろ。我が力を最大限貸してやる。勢いに飲まれるなよ?」と言われた雲平は、「セムラさん、シュザークが力を貸してくれます。シェルガイの空気を濃くしてください!」と言う。
セムラがペンダントに願ったのだろう。雲平はかつてない速さで飛び立つと、「アグリ!地図アプリ!ウチまで道案内!」と言った。




