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彼と彼女のデザイア。  作者: さんまぐ
地球-襲われた地球。

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第98話 自由の奴隷ですか?

雲平、セムラ、アグリの方に問題はない。

アグリはかのこが嫌がるからと我慢していたが、外に出ると雲平のスマホを触ってみたいと言い、楽しそうに触って「ふぁ〜」と喜んでいる。


車の運転手はグラニューで、「神獣武器の件は昨日聞きました。雲平殿のお力は確かに凄いのですが、ですがお2人で?」と言ってアグリと雲平を見る。

あの日雲平を斬った事に対する謝罪は挨拶程度にあったが、職務だとして勝手に割り切っていてあまりいい印象はない。その分バニエがグラニューの分まで謝ってくれてる。


雲平が「平気ですよ。2人とも1番人質に取られたく無いんです」と返すと、グラニューは「人質?」と聞き返す。


「別にあなたは疑ってませんけど、これがオシコの狙いで、俺達を地球に追いやっているあいだにジヤーを破壊されたら困るんですよ。それを変に勘繰って、地球の人達が俺たちをシェルガイに返さずに抱え込んだら困ります」


グラニューは呆れた顔で、「それなら、ジヤーのホイップ王子なんて無防備じゃないですか、余程彼を…」と言ったところで、雲平が「ははっ」と笑う。


その声はとても怖い。

ハンドルを握って警察車両に先導をしてもらい、その背後をついていくグラニューには雲平の顔が見えなかったが、後部座席の雲平は怖い顔をしていた。


「あの子の氷魔法は本物ですよ。あなたは大魔法を防げますか?耐えられますか?あの子はサンダーフォールに似せたサンダーデストラクションを防ぎます」


この言葉にセムラとアグリは驚いて雲平を見る。


「本当です。あの力なら人喰い鬼の攻撃くらい余裕で防ぎますよ。まああの甘えがあるから一撃は喰らうかもしれませんけどね」


雲平は「少し寝ます。アグリ、バッテリー全部使わないでね。セムラさん肩借ります」と言うと眠りについた。



・・・



金太郎達の方は、迎えに来た車でバニエと共に進む。金太郎は高速と地下道、近道なんかを禁止して、家から最初に大通りに出る箇所、橋や公共物なんかをアチャンメ達に説明していく。


「アゴール殿?何を?」

「雲平から本庁は退屈そうだから、2人は本庁からウチまでの道を覚えて、飽きたら帰れって言われてるから覚えやすい道にしてんだよ」


バニエはその返しに含みがあることを察して聞き返そうとしたが、「そういう事でしたか」と言って前を走る車両に指示を出した。

名目は護衛だが雲平の話を聞くと監視に見えてしまう。


金太郎はアチャンメ達に話しながらも、バニエに「なあ、地球はどうだい?」と聞くと


バニエは「悪くありません。最近はレーゼの戦争のためにトラブルも多いですが、かのこ殿に会ってからは心安らぐ日もあります。あの人のお茶は本当に美味しい」と返す。


「オフクロがすまない。本当にありがとう」


そう言った後で、「でも悪くない…か、だよな。俺はシェルガイがどうかと聞かれたら、最高だと答えるよ」と言って窓の外のビル街を見る。


「何故か聞いてもいいですか?」

「構わんよ。シェルガイには夢とやり甲斐…胡散臭いな、一言で言えば生き甲斐…生きる実感があるんだ」


金太郎は自身の就職氷河期の話をして、ロクな働き口が無かったことを伝える。


「それはテレビなどを観ていると聞きますね。ですがどの店も求人票はいつも出ていますよね?」

「当時はそれすらなかったよ。あっても囮広告って言って、出すだけでよほどの逸材以外は雇う気なんかない。それどころか、そうだな…。自由の奴隷と言えばいいかな」


「自由の奴隷ですか?」

「ああ、何してもいい、何にでもなれる。全部自己責任で自由って言葉の奴隷。頑張れば偉くなれるし、金持ちにだってなれるなんて言われるが、筋道ひとつ…可能性ひとつ用意されてない。しかもタイミングが全部決まってる。一度道を外すと乗り直すのが命懸け、そんな世界で奴隷のような暮らししか出来ない」そう話してもバニエの顔はキョトンとしている。


「そうだな、一日中必死にやりたく無い仕事をして、夜ヘトヘトで疲れてテレビの向こう、ビルの灯りはキラキラ眩しい世界、でも自分はロクなものも食べられない。それこそ全部手に入れて、あとは死ぬだけって奴じゃないと喜べないような暮らしだな」

「それは変えようが無いのですか?」

「あー…?どうだろうな。ジヤーのゲートがあるアメリカさんなら可能性はあるかもしれないけど、こっちではな、決まった時に波に乗れないとおしまいだからな」


「おしまいですか…」

「ああ。そうだな、今みたいにコジナーのせいで、レーゼからジヤーに逃げる際、馬車の台数は決まってる。乗り換えのタイミングが決まってて、同じ馬車に乗り続けることはできない。足の速い馬や綺麗な馬車、安価な馬車なんかもあるが、全員が好きな馬車に乗れるわけじゃない。周りを蹴落として乗るか、乗り遅れたら走って追いついてしがみつくか、走ってる馬車に上手く飛び乗るかしないといけないんだ」


ここでキャメラルが「出来ないとどうなるんだ?」と聞くと、「シェルガイなら死だよな」とアチャンメが続ける。


「ああ、死ねたら最高だよな」


そう言った金太郎は、また窓の外を見て「それの方がシンプルで最高だ」と言って、「この国は命を重んじる。無論シェルガイも重んじるが、失敗して死んでいく地球人とか、たくさん居るだろ?この日本は失敗しても死なないし死ねないんだよ。だから失敗した奴ばかりになって、息苦しくておかしくなるんだよ」と説明をした。


「この話になるのやだわ」と瓜子が漏らした時、車は本庁に到着をしていた。



・・・



ホイップはかのことあんこから、「疲れちゃいますよ」、「大丈夫だよ。敵襲なんて滅多にないよ」と言われたが、「いえ、かのこお婆様とあんこは僕が守ります!」と言って気を張ると、2人は嬉しそうに笑いながら、「ありがとう」、「お婆ちゃん嬉しいわ」と言ってお茶の支度をする。


ホイップは黙っていてもかのこの手伝いをしていて嬉しい気持ちになる。


かのこから「お夕飯の買い出しに行かないと」と言われて、ホイップも「僕も行きます!あんこも」と言われて、3人で出かけながら遠回りをしてあんこの家に寄る。


本来なら娘が何日も外泊となれば親として面白くないが、雲平の映像は拡散されていて、あんこから話を聞いた親は、「まあ春休み中で戻ってくるまでなら」と言って送り出していた。


そんなあんこの母は「シェルガイイケメン!アンタそんなイケメンの横に立てるなんて、もう無いかもしれないから写真撮ってあげるわ!」と言って写真を撮る。


それを見たホイップは照れているが、「あんこ、僕とかのこお婆様と3人の写真は記念に持っていてくれるか?」と聞くと、「勿論だよ」と言われて嬉しそうに笑った。


ホイップはイケメンと呼ばれて意味がわからなかったが、目鼻立ちが整っている事を言われていることはなんとなく理解できていた。

かのことの買出しも「ハンサム!」、「まあ美形!」と言われていて、沢山おまけを貰い、その度にかのこは「うふふ」と喜び、あんこは「ホイップくんが格好いいからおまけ貰えたよ」と説明をする。


「え?なんで?」

「んー…、他人だけど、この街にいる仲間だからかな?皆ホイップくんに、この街を好きになって貰いたいからかな?」


この返しの意味がわからないが「仲間」と呟くホイップに、かのこは「そうね。仮にここに魔物が出た時、私とあんこちゃんと3人で逃げられてそれでいい?」と聞く。


雲平からは2人を頼むと言われたが、さっきコロッケをくれた女性や、あんこの母を思うとそれは嫌だった。


「嫌です。僕は皆を守りたいです」

「それが家族や仲間の意識よ」

「凄いね!自信が無いと言えないんだよ!言えるなんてホイップくんは本当に凄いんだね!」

「そ…そんな事ないですよ。口だけなら皆言えます」


ホイップは照れて真っ赤になりながら歩くが、朝とは違い胸を張って力強い顔をしていた。

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