第95話 なんでそう予防線を張るみたいなことしか言わないかな?
帰ると手巻き寿司の用意は全部終わっていた。
雲平が「ごめんばあちゃん」と謝ると、かのこはご機嫌で「いいのよ。皆働き者で楽しかったわ」と言い、瓜子が「ジヤーの味付けとかレーゼの味付けとかあったから、どうしてもね」と続く、皆に聞くと金太郎がひたすら米を炊いて、セムラやアチャンメ達が酢飯を作り続けていたらしい。
かのこがバニエに「ほら、お茶の支度をして」と言うと、バニエは慣れた手つきで茶箪笥から湯呑みを出す。
見覚えのない湯呑みが出て来て、雲平が聞く前にあんこが「あれ、バニエさんの湯呑み。雲平が帰ってくるまで、週に2回はお婆ちゃんとご飯を食べてたんだよ」と説明した。
しかもこの家ではかのこの次に美味いお茶を淹れるので、雲平は目を丸くしてしまう。
「雲平ぁ、婆さんが酷え」と言いに来た金太郎は、「俺の箸が捨てられてた。アチャンメ達と一緒に買い替えだぜ?」と愚痴る。
「帰ってこないと思っていたからね」
「酷えよ!」
かのこはニコニコと買って来た箸と、前からある箸を出してお皿も出すと「はい、アグちゃん」と言ってアグリに緑色の茶碗と箸を渡す。
「わ、お婆ちゃん…私の?」
「そうですよ。金太郎がアグちゃんとシェルガイに居たいって言うけど、一年に一度くらいは帰って来て?ね?」
そのままアチャンメとキャメラルには赤とオレンジの箸と茶碗、セムラには勝手にイメージカラーにしてしまった水色を渡して、ホイップには山吹色の箸と茶碗を渡す。
ちなみにキャメラルに関しては、前に買っていた分は色が違うので、食器棚の守護神になってしまった。
「僕にも?」
「何遠慮してるの!食べなさい!モリモリ食べてね!」
その後も並べられた箸と茶碗の中には、しっかりとバニエの物もあって「バニエさん、もうウチの子ですね。ばあちゃんの事とかご迷惑でしょうけど、よろしくお願いします」と雲平は挨拶をしていた。
席はかのこ監修でわけられる。
雲平の右隣はセムラ、その右隣がバニエでアチャンメ、キャメラルと続いていく。
キャメラルの横は金太郎と瓜子でその次がアグリになり、アグリの横はかのことホイップだった。ホイップの横はあんこで一周した。
こうして始まる手巻き寿司にセムラやホイップは目を丸くした。
「まあレーゼは山ですし、ジヤーもグェンドゥの神殿周りじゃないと魚の生食はしないですよね」と金太郎が説明してアグリも「美味しいよ!お婆ちゃん!」と喜ぶ。
ここでもホイップは問題を起こして雲平に眼力だけで殺されかける。
まずはどう動いていいか分からずにアグリとかのこ、それとあんこに世話を焼いて貰い雲平を怒らせる。
そして食べた刺身の美味さにハマり、周りを見ずに好きなものを好きなだけ食べようとした。
正にthe王子。
雲平がキレる前にあんこが「こら、ホイップくん?私達の分は?」と言われて、初めて問題行動に気づき青くなる。
次にアグリから「数を見て皆がキチンと食べられるように考えるんだよ」と指摘されて、半べそになり、かのこから「私達は家族よ?皆が楽しまなきゃダメ。自分だけなんてダメなのよ?ほら、アチャンメちゃんとキャメラルちゃんを見て」と言われる。
アチャンメ達はお互いの為に手巻き寿司を作って「キャメラル、私のを食え」、「甘いなアチャンメ、私のには敵わないな」と言い合って笑っている。
それを見たセムラは「雲平さん、私が作ったら食べてくれますか?」と聞いて、雲平は怒り顔から笑顔になって頷いている。
ホイップはとんでもない事をしたと理解して、「ごめんなさい」と言ったところで、かのこは顔を明るくして、「いいのよ。次はダメよ」と言うと「金太郎」と言う。
合わせるように瓜子が「あなた」と言うと、雲平も「ダッシュだよ父さん」と言った。
アグリが「え?お兄ちゃん?お父さん?」と言うと、金太郎は「へぇへぇ」と言って立ち上がって、「ホイップ王子、魚屋は閉まってますが、スーパーなら開いてますから行きますよ。えっと王子のお気に入りはマグロにサーモンにエビですね」と言う。
ホイップがわからないという顔をすると、雲平が「君が食べちゃったんだから買ってくるんだよ。本当なら君1人だけど、買い物もできないから父さんに頼んだんだ。早く行っておいで。あと今のは全部ビャルゴゥからシェイクさんに言ってもらうからね」と言って、セムラの作った手巻きを食べて「美味しいです」と笑顔になる。
「え!?兄上?そんな」と言うホイップの手を取って、「ほら、早くしないと店が閉まりますよ」と言って連れていく金太郎。アグリがついて行こうとするが、かのこが「アグちゃんはお婆ちゃんと居てね。お婆ちゃんは卵とエビの手巻きが食べたいわ。作って」と甘えて、あんこが「自分のミスは、自分でなんとかするって教えてるんだよ。そこにアグリちゃんが居たら、甘えちゃうからいいんだよ」と教える。
あんこはその後で雲平に「ねえ雲平!ホイップくんって目鼻立ち整っててアイドルみたいで可愛いけど、お兄さんもイケメン?」と聞く。
「んー…?ホイップくんに聞いてみなよ。コメントが気になるし、気に食わなかったらシュザークウイングで叩くし」
あんこはこのコメントに対して、雲平の後ろをふわふわと飛ぶシュザークウイングを見て、「それ、もう気に入らない前提だよね?」と言った。
・・・
30分で戻ったホイップは、金太郎がたくさん買い物をしたと言って、両手に荷物を持ちながら「凄い!訓練場より大きな部屋に、沢山の食べ物が売っていた!」と喜び、戻って来た時にテーブルの食材があまり減っておらず、「あれ?皆もう食べないのか?」と口にするとおでこにシュザークウイングの一撃。
激痛に蹲るホイップに、「待ってあげてたんだよ〜」とあんこが言いながら荷物を受け取ると、お菓子なんかが入っている。
刺身は金太郎が「切ってくる」と言って持っていく間に、あんこが「ねえホイップくん。ホイップくんの顔って可愛くて整ってるよね?」と声をかけた。
あんこに声をかけられて悪い気のしないホイップは顔を赤くして、照れながら「言われた事ないです」と返すと、「でさぁ、お兄さんってどう?似てる?可愛い?それとも格好いい?」と続けた。
無言で殺気を出してシュザークウイングを構える雲平と、それを見守るバニエとアチャンメとキャメラル。
かのこに「お婆ちゃん手が疲れちゃったからアグちゃん揉んで」と言われて、身動きの取れないアグリ。
ただ見守るセムラと瓜子。
そんな中、ホイップは「兄上は素晴らしい人です」と言い、「ただ、お母様が違う人なので…」と続けた瞬間に、再度シュザークウイングが額に直撃してホイップは「あう?」と言ってうずくまる。
「違うだろ?あんこが聞いてるのは、君からみてシェイクさんが格好いいかどうか、別に親のことなんて聞いてないよ。なんでそう予防線を張るみたいなことしか言わないかな?」
怒る雲平を見て、セムラが「雲平さんはホイップ王子の言葉を察していたんですか?」と聞くと、雲平より先にアチャンメとキャメラルが「だろうな。あの殺気は予想が当たってムカついてる顔だな」、「な、マジ怖え。姫様いるから良いけど、私たちは散々やられたからアンコが喰らってくれよ」と言うと、アンコは「えぇ?また!?これ以上はお嫁に行けなくなっちゃう」と慌てて下腹を抑える。
アグリは「お兄ちゃんはやっぱり変態?」と瓜子に聞いていて、瓜子は「ふふ。本人に自覚なしよ」と笑っていた。




