第93話 もう街のヒーロー?頑張ってね〜。
送り迎えは貸切のバスだった。
バスの中でアグリが居たからジヤーに移り住んで連絡できなかったと金太郎が言うと、かのこは「アグちゃんの為だったの?それなら仕方ないわ」と言って、雲平からアグリを奪い取ると抱きしめた。
「昔のことなんてお婆ちゃんは知らないわ。アグちゃんもお婆ちゃんの昔の事なんてどうでもいいわよね?大事なのはアグちゃんは安倍川アグリなの。お婆ちゃんの孫よ。優しいお兄ちゃんがいる、お母さんとろくでなしのお父さんの可愛い娘ですからね。お外で聞かれたらキチンとそう答えなさい」
そして、あんこにスェイリィシャツを頼んでいるキャメラルとアチャンメにも、「2人もお婆ちゃんの名前を聞かれたら、安倍川かのこって言うのよ!褒められた時に『お父さん達は?』って聞かれたら雲ちゃんやお婆ちゃんの名前を出して、悪さをして怒られる日は金太郎の名前を出すんですよ」と言い、キャメラルは「うん!わかったよお婆ちゃん!」と明るく言い、言葉に詰まるアチャンメに「言え、命ねーぞ」と耳打ちしてアチャンメも「私もいいのか…な?」と聞き返して、かのこが頷くと「了解お婆ちゃん!」と言った。
返事のタイミングを逃したアグリは「お…お婆ちゃん。恥ずかしいけど嬉しいよ」と言って抱き返すと、またかのこは泣いた。
あんこは久しぶりの瓜子から感謝をされたり、アチャンメとキャメラルから服を頼めと言われたり、雲平の責めは乙女の沽券に関わると報告されて忙しい。
金太郎は話が済むとホイップの横に座って、「すんませんが助けてください。アグリは婆さんに取られたし、何言われるかわからんのです」と言うと、ホイップは「構わないぞ。それに少し気になるから答えてくれ」と言った。
時戻しの風に自分が参加できなかった事、アグリと話した事、雲平と話して殺されかけた事なんかを説明して「家族とは?仲間とはなんだ?」と聞くと、金太郎は「簡単です。一緒にメシ食って一緒に笑って、一緒に泣いて怒ってができる連中です」と説明をした。
困惑のホイップに「この前、俺たちの代わりに雲平の攻撃を受け止めてくれたじゃないですか?あれってどう思いました?」と金太郎が聞くと、「囮にされたと思った」とホイップは恨めしそうに金太郎を睨んだ。
「マジですか?それは違いますよ。アグリと瓜子を守ってくれた時に、できるだけの力が見えたから頼ったんですよ」
ここで初めて金太郎が撃ち返したファイヤーボールが自分の方に飛んできた意味を理解したホイップは「まさか」と聞く。
「あれが防げるんですから頼りにしました。ありがとうございます」
「頼り?囮?」
ますます困惑するホイップに、「今この場で親子なのは俺と瓜子と雲平と婆さんだけです。あんこちゃんは雲平の友達です。アグリだって俺の娘だけど娘じゃない。でも婆さんは今この場の全員を、…レーゼのバニエも家族だと思ってますよ」と言って笑う金太郎。
「何故だ?」
「何故ってそりゃあ…、一緒にいて楽しいし、人となりを知ったからですよ。殿下、殿下ももう婆さんの家族ですよ。今の質問をあんこちゃんと婆さんにしてみてはどうでしょうか?」
「え?そんな…」
困惑のホイップを無視して、金太郎は「瓜子、あんこちゃんと来てくれ、オフクロ、アグリを離してこっちに来てくれ。ジヤーの王子様を紹介する」と言った。
雲平が「えぇ?」と不満を口にするが、あんこは「まーたそんな顔して、雲平って気にしてる子を自分のペースで面倒見れないと、すぐその顔する」とツッコミ、アグリが「え?あんこお姉ちゃん?」と聞き返すと、あんこはやれやれと「見た感じあの子が自分から話しかけやすいようにしたいのに、おじさんが私たちを呼んだから面白くないのよ」と説明をした。
「そうなの?」
「そうだよ」
「でもお兄ちゃん、いつも殺そうとしてるよ?」
「本気じゃないよ。ギリギリなんでしょ。あ、殺すで言えば雲平、顔出しで全世界に飛行機の雷のやつが出てたからね」
「え!?あんこ!?」
「もう街のヒーロー?頑張ってね〜」
呼ばれたあんこ達は、そのまま金太郎の話を聞いてホイップに向かって、「家族?仲間?んー…よくわかんないけど気にしてるウチはダメじゃない?とりあえずウチのお母さんにも会いなよ」と言われ、瓜子からは「まあまあ、そんな事に悩まれていたんですか?ホイップ様はまだ幼いから悩まれますよね。ジヤーの王子として一線を引く必要もありますが、個人のホイップとしては、友達も家族も好きにしていいんですよ?」と言われる。
とどめのかのこは「何言ってんの?手は何本?目は何個?一緒でしょ?髪の色?好きにつけられるわよ!目の色?コンタクト買いなさい」と言ってから、「何勝手に自分は特別なんて思ってるの?許せないわ!金太郎!手巻き寿司にしますからね!」と言って、セムラと話し、雲平達といるバニエに「お金を出しなさい!あなたも参加しなさい!」と吠えた。
・・・
ホイップ達があんこ達と話してる間、雲平は肩を落とす。
「…うぅ、嫌すぎる」
「雲平さん?」
「雲平殿、何が嫌なんだい?」
「俺は日本で生きてくのに…、目立った戦闘力とか邪魔ですよ…」
「でも雲平さんは強くて、私をゴブリンから救ってくれました」
セムラのニコニコ顔に雲平は一つのことが気になって、バニエに「そう言えば、バニエさんは誰から俺がゴブリンを殺したって聞いたんですか?」と聞いた。
「以前病院でも少し話しましたが、レーゼのゲートから通信が来たんです。通信相手からはクラフティ殿下の代わりに、密命を授けると言われて、ゴブリンと共にゲートを通られたセムラ姫だが、ゴブリンは無事に倒されている。セムラ姫を守る為にもそちらで保護をしろとね」
「雲平さん…」
「オシコですね。あの女、やっぱり魔物の生き死にをある程度把握出来るんですね。きっとこっちの魔物も把握してるから全滅させると何かあるかもな…」
雲平はバニエに近所の小学校の校庭を借りたいと伝えて、理由を聞かれると「シュザークとビャルゴゥとは繋がれてるし話もできるからいいんですけど、グェンドゥとスェイリィは離れてて会話が出来ないから、繋がっているかとか確かめたいんです。後は少し魔法を使いたいんですよ」と説明をしながら「バニエさん、魔法は?」と聞くと「ある。すでにテストで放てている。だがそれなら本庁に行かないかい?」と聞き返される。
「本庁って屋外ですか?」
「いや、地下だ」
「じゃあ、やっぱり小学校で、大魔法は屋外じゃないと周りの被害がデカいんですよ」
「…わかった」
この時雲平はバニエが氷使いと思い出して、「アグリ、ホイップくんは来たければだけど、バニエさんと俺と出かけよう。バニエさんに氷魔法を見てもらおうよ」と言った。
これにはあんこが「行きたい!魔法見てみたい!」と言って、ついてくる事になった。
そしてバニエはかのこ命令で、手巻き寿司に強制参加する事になった。




