第91話 ダセェなぁ。
シェイクは変則通信で日本政府にレーゼの姫、自分は行けないが第二王子、そして精鋭を数日間送ると言い、代わりに医薬品を可能な限り送ってもらう事になる。
日本政府…地球側もタチが悪いのは、ビスコッティの訃報を知って今後の為にもイニシアチブを取ろうとしている事で、世界の危機より利益を優先していて、薬は一度に当初の量を送り、雲平達が到着したら同じ量を送り、後はゲート周辺の魔物の排除が済めば、もう一度送る事になった。
雲平がアースランスを試したいとパウンドからスェイリィスピアを借りて放つ間に、金太郎はビャルゴゥリングを手に入れてから先の事をシェイクやセムラ、ミスティラから聞く。
ミスティラは包み隠さずに何があったかを話すと、一度概要をビャルゴゥから聞いてはいたが、金太郎はセムラに「バカ息子が申し訳ありません」と頭を下げて謝り、中庭でアースランスを使い試す雲平の前に行くと無言で顔面を殴った。
「お前のせいでセムラ姫の一年が台無しになった!驕るな!」
何も言い返さずに立ち上がる雲平に、「しかもグェンドゥの力を借りて、お前まで寿命を浪費しただと!」と続けて殴ると、雲平は「言いたいことはわかってる。ごめん」とキチンと金太郎と瓜子に謝る。
これにはセムラもホイップも目を丸くして驚く。
「わかればいいんだよ。だがよくやった。戦果は見事だ」
「そうよ。立派だわ」
和気藹々とする空気に、飛び出そうとしたアグリが動けないでいると、雲平は「でもムカつく。父さんに言われるとムカつく」と言って金太郎を殴った。
だが、金太郎は見越していたように、雲平の拳を回避して「ノロマ」と言って笑った。
その瞬間に瓜子は「アグリ〜、お母さん逃げてきたわ〜」と笑いながら逃げ出す。
「え?お母さん?」
「あ、ホイップ王子、氷の壁で雲ちゃんの攻撃を防げるのですよね?よろしくお願いします」
瓜子はそんな事を言いながらホイップの背後にアグリを連れていくと、並々ならぬ気配を察したミスティラは「パウンド、私とカヌレを守れ!アチャンメとキャメラルは自分の身は守れ!シェイク!お前はセムラを守るのだ!」と指示を出す間に、「ノロマ?父さんの実力チェックだよ」と言いながら、雲平が「身体強化ぁぁっ!」と聞いたこともない声と、見たことのない形相で金太郎に殴りかかる。
「ヤダヤダ、ノロマって〜、やっぱりウチのアイドルのアグリみたいに可愛い子はいいよなぁ」
金太郎は口調は軽いが目は真剣で、必死に回避してカウンターを放つ。
「喰らうか!アグリは俺の妹なんだから可愛いに決まってんだろ!」
「俺の娘だ」
そのままアグリは誰のものかという戦いになり、キレた雲平はとんでもない手に出た。
「ビャルゴゥ!グェンドゥ!シュザーク!来い!スェイリィ!行くぞ!鞭になれ!腕に絡まれ!」
雲平の言葉で、アグリの左腕からビャルゴゥリングが飛び立つと雲平の腕に収まり、続くようにカヌレからグェンドゥハンマー、スェイリィスピアを使うからと手放しておいたシュザークウイングを呼び寄せると、神獣武器を全て纏った雲平が「さて、1発は1発だよ?」と言って、「スェイリィ!サンダーフォール!アースランス!」と、指示を出して金太郎を攻め立てる。
「馬鹿野郎!?殺す気か!?」
必死で回避する金太郎も、アースランスの隙間に入ると気配を消して最大限に引き出した身体強化で雲平の背後を取ろうとするが、「シュザーク!近寄らせるな!ファイヤーボール!グェンドゥ!ウインドボール!」と言って迎撃をする。
回避が厳しくなると、剣を抜いて打ち返す金太郎の流れ弾が瓜子の方に飛んでくる。
それを必死にアイスウォールで守るホイップ。
アグリが「ほわ〜、やっぱりホイップは、追い込まれると良い動きするよね〜」と褒めると、皆がホイップの後ろに回って「オラァ!守れホイップ!」、「死ぬ気で守れヨナ」、「よろしくお願いします」、「見事だぞホイップ」、「ふむ。やり切れよ」、「よろしくね!」、「頼んだぞ」と好き好きにホイップに言葉を送った。
・・・
金太郎は死にものぐるいだが軽口だけはやめない。
「おーおー、四神様の神獣武器でもそんなもんかよ、ダッセェ」
「…大魔法をアースランス以外も放とうか?」
「ダセェなぁ。怖がらせてやめてくださいって言わせたいとかダサダサ」
金太郎は「ぷふふー」、「ヘタレ息子」、「ダサダサ女ったらし」と笑って回避をすると背中に冷たいものが走った。
「言ったな!氷結結界!サンダーデストラクション!」
「げ!?無理!俺も逃げる!!」
足場が凍る瞬間を見抜いて、必死に回避をした金太郎の頭上からは落雷。
それを意地で回避する金太郎。
一度でもかわせるのは凄いのだが、そのまま駆け出してホイップの横に来ると「氷結結界は氷だからなんとかしてください!サンダーデストラクションは当たったら死にますよ!」と言って、ホイップを前に出してアグリと瓜子の腰を抱いて皆と逃げる金太郎。
「え!?僕!?出来ない!!?」
ホイップが振り返ると誰も居ない。
目の前の雲平は「ホイップくん、本当に君は邪魔をする。次は殺すって言ったよね!氷結結界!サンダーデストラクション!!」と言ってホイップの周囲を凍り付かせて雷をコレでもかと落とす。
「わぁぁぁっ!!死ぬ!死ぬ!!」
そんな情けない事を言いながらも、氷結結界の起点に雪玉レベルのアイスボールを当てて無効化することで破壊して、サンダーデストラクションに対しては分厚いアイスウォールで防ぐ。
雲平の攻撃で削れるアイスウォールを即座に修復するホイップと、この機会に殺してしまおうとする風にしか見えない雲平。
雲平はコレでもかと雷を降らせた所で「んー…、父さんがアグリを人質に取ったからやめにして、あとは婆ちゃんに頼もうっと」と言って止めると、皆の元に歩いて行ってしまう。
1人取り残されたホイップは腰を抜かして、必死に天に向かって手を上げてアイスウォールを張り続けていた。
城の兵達は「あの攻撃を防ぐとは!?」と言ってホイップを褒め称えていた。




