第89話 行くしかないなら最大効果を狙うかな。
事態は更に悪い方へと進んだ。
レーゼに攻め込みたいのに、怪我人に関する事柄とビスコッティの死亡に関して、そしてオシコが地球に魔物を差し向けようとしている事を聞いた地球側が、とんでもないことを言い出す。
・・・
あの後、翌日まで雲平とホイップを引き離す為に、雲平がアグリと食事をして、カヌレはレーゼ人、アチャンメとキャメラルはジヤー人、荒熊騎士団員としてホイップと食事をする。
「おめー…次は殺されっからな?」
「なんであんなにクモヒラ怒らせてんだよ?才能か?」
2人の軽口にも「わからない。でも家族とか仲間とか、よくわからなくて知りたいんだ」と真剣に話すホイップ。
これには呆れて馬鹿にすることも出来ないアチャンメとキャメラルは、「お前、私達の両親は居ないが、ブラウニー団長は親をしてくれたぞ?クモヒラは兄ちゃんだ」、「更に言えばお前だって超絶クソ生意気な弟だ」と言ったが、まだよくわかっていない。
「頭で考えんな」
「そのうちわかる」
ここで黙っていたカヌレが「そうだな、全員と一度キチンと話すべきだ」と言った。
「今日、ホイップ様は雲平殿に触れて、彼の怒るポイントなんかを見た。次は気をつけられましょう?パウンドは未知の出来事は全てミスティラに任せていますが、それは責任を押し付けるのではなく全幅の信頼を寄せるからです。アチャンメとキャメラルは粗暴な雰囲気ですが、今はキチンと接してくれる。全員と話して全員を知るのです。物語でもなんでももっと深く知るべきです。私はそう思いました」
真剣な表情のホイップは「…やってみる」と言って頷く。
「それではまず共同生活です。私達は全員生娘ですから、くれぐれも欲情なさらぬように」
「え!?カヌレもか!?」
「マジか、もうバッコンバッコンしてると思ったぞ」
「おまえたちは私をなんだと思っている!?」
そう怒ったカヌレだったが、少し面白そうに微笑むと、「ホイップ様、これが話すと言う事です。皆が皆を知らないのです。こうして話して親睦を深めるのです。今はアグリや雲平殿とは会わない方がいいでしょう」と言って小屋を分けたまま生活をした。
アチャンメとキャメラルはアグリから風呂場でホイップの問題を聞いていて、何となくわかっていたのでこの後も真摯に接する。
アグリの方も雲平に「機嫌直してよお兄ちゃん」と言う。
「アグリは俺の妹なのに、親が違うこととか思い出す羽目になったから無理」
「お兄ちゃん?」
「アグリがホイップくんに言うまですっかり忘れてたし、目の辺りなんて母さんに似てるって思てたのに」
雲平はブツクサ文句を言いながら食事をして、アグリを見て「アグリは俺の妹なのに」とまた呟く。
アグリはそれが堪らなく嬉しくて、「お兄ちゃん」と言いながら「私、お兄ちゃんと寝たことないから、今日は一緒に寝ようよぉ」と言って抱きつくと、雲平も「うん。いいよ」と言ってアグリを愛でた。
・・・
翌日、交代の兵士と共に迎えにきたセムラとジヤーの城に帰ると、ホイップと雲平を見てシェイクが心配し、アグリから事情を聞いたシェイクは落胆して雲平に謝る。
雲平はシェイクは悪くないと言いながらもホイップを再起不能にしたいと言って周囲を困らせる。
話を切り替えるためにも、シェイクが「雲平、困った事になった。君の意見と恐らくだが君の助けがいる」と言った。
突然の事に雲平が「シェイクさん?」と聞き返すと、地球側の話では突如日本の東北に現れたアナザーゲートから断続的に魔物が出てきている事、今はまだ自衛隊で対処が可能だが消耗が激しく、体制を立て直す為に協力を求めたいが、レーゼ側はゲートを閉ざして話にならない。
「ミスティラ様に聞いたら、パウンド経由でスェイリィ様の意見は恐らくコジナー側の出口位置を何らかの方法でその東北にしているはずだとの事だった」
雲平は苛立ちながらアグリのビャルゴゥリングに手を触れて、「ビャルゴゥ?見えてるの?教えられる?」と聞くと、「無理だ。見えているが言うと最悪に進む」と聞こえてくる。
「いつも思っていたんだけど、それってどう言う事?」
「私の未来視は大体複数の未来が見える。現在の行動は1つ。今お前が私に話している、これが現在だ。この瞬間に未来視を使うと…今も3つ見えたが、それを口にして好きなモノを選ばせても、その先の枝分かれで補正と言うべきか最悪に進む」
「ズルは出来ないって事か…。質問するから答えられたら答えてよ」
雲平の質問は複数あったが、ビャルゴゥが答えられたのは東北に生まれたゲートはコジナーのゲートで、本来地球では雪と氷に覆われた土地に生まれていたが、オシコが行ったある方法で移動している事とゲートの移動は一時的な事だった。
「オシコは何がしたいの?」
「言えない」
「あ…そう。じゃあ仮に聞くけど、俺が東北のゲートからコジナーに行ってオシコを倒すのはやれると思う?って…ビャルゴゥは一般的な意見が苦手だからグェンドゥにするかな。カヌレさん、グェンドゥハンマー貸して」
雲平はカヌレからグェンドゥハンマーを借りると「グェンドゥ、聞こえてた?もし仮に俺が神獣武器を持ち込めて、ゲート経由でコジナーに行けて、風塵爆裂をコジナー中に走らせたら全滅は可能?地図の上だと広すぎてシュザークウイングで飛びながら全滅は非現実的なんだよね」と言う。
横で聞いているアチャンメとキャメラルは「既に非現実的だっつーの」、「な、やべーよな」と突っ込んでいる。
「雲平が凄くても無理だよぉ。ラピッドウェイブと風塵爆裂とインフェルノフレイムとサンダーデストラクションを同時発動して、コジナー中に30分とか放てないと、これだけで勝利は無理だよぉ」
これはカヌレとビャルゴゥを経由したアグリにしか聞こえないが、聞いている2人はクラクラしてしまう。
「雲平殿?大魔法を4種類同時発動?」
「しかもコジナー中に30分?」
「んー…4つはキツいなぁ、なんで?」
「僕の風塵爆裂は地上から地下への攻撃とかには弱いから、地下に逃げられたらアウトなんだ。だから高速モグラなんかは倒せないよ。地下はビャルゴゥのラピッドウェイブで洗い流すか、スェイリィのアースランスしかないよ。空を飛ぶ魔物にはサンダーデストラクション、火が弱点の植物系にはインフェルノフレイムだよ」
グェンドゥの言葉は信用できる雲平はイメージが容易にできる。
「成程、確かに…。アースランスは覚えてないから、パウンドが戻ってきたらスェイリィスピアを手に持って試してみるよ。んー…グェンドゥからしたら、東北のゲートから攻めるのってどう思う?」
ここでシュザークが「私には聞かないのかい?」と言ってくる。
「シュザークムカつくし。でも聞くか。どう思う?」
「ゲートの祭壇が国境側に無い。戻れずに孤立して死ぬぞ。そこは私を持って行き飛んで逃げるのも手だな」
これも聞いているとイメージができる雲平。
「んー…?確かに城とかあるならインフェルノフレイムで消し飛ばして逃げてくるのも手か…」
「手かじゃねーよ」
「夢物語だって」
話を戻すと、地球側の要望は体制が整うまでの人の貸し出しだった。
それも飛行機でワイバーンを蹴散らした雲平がご所望で、そもそも地球人なのだから構わないだろう?と言うモノだった。
そして無論ただではない。
「不足してる薬品は俺が行けば届くんですか?」
「今ここで雲平がうんと言ってくれれば届く。そしてゲートが回復したら君を送る手筈になる」
話を聞くだけで「行きたくないなー」ともらす雲平。
「雲平?」
「絶対に分断誘う系の罠ですよ。でも行くしかないなら最大効果を狙うかな…」
雲平はシュザークに「シュザークウイングで何人運べる?」と聞き、…人数…重さは問題なかったので、嫌々日本行きを承諾して、その足でシュザークウイングでビャルゴゥの神殿まで飛ぶと金太郎と瓜子を回収する。
「日本に行くから着いてきて」
「はぁ!?」
「あらあら、アグリはどうするの?」
「アグリも連れてくよ。ゲートを潰したら、さっさとこっちに戻ってきてクラフティを倒すから、1週間もいないよ。忙しいからちょうどいいだろ?」
「お前、アグリの許可は取ったのか?」
「父さん。アグリ抜きでばあちゃんに会えるならいいんじゃん?」
金太郎の脳裏には激怒したかのこがいる。
ここでアグリを会わせてご機嫌取りを済ませながら、アグリの為にシェルガイに居たんだと言えば、あの子供好きが許さない道理はない。
「滅茶苦茶イージーで滅茶苦茶一択だな。雲平、アグリの説得を頼む」
「任せて。アグリは俺の妹だからね」
「雲ちゃん?お母さん仲良くしてくれて嬉しいけど、アグリの事を溺愛してない?」
「昔からこんなもんだよ」
金太郎と瓜子は「昔から」の部分には反応しないようにしたが、とりあえずシュザークウイングの恩恵は雲平にしかない。
雲平は瓜子のことは抱き抱えたが、金太郎は紐一本で吊るしていたので「おい!一度降りろ!休ませてくれ!疲れた!」と言うが、「やだ。落ちたら走って追いかけてきてよね」としか言わない。
意地になった金太郎はなんとかしがみついてジヤーに戻ると、アグリに「アグリぃ…雲平が酷えよ」と言いつける。
アグリは全部ビャルゴゥに見せてもらって居たので、「あはは…元気そうで良かったよ」とだけ言って笑っていた。




