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彼と彼女のデザイア。  作者: さんまぐ
シェルガイ-土と雷のスェイリィ。

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85/151

第85話 どうか人類に勝利を。

全員で陣の出口までくる。


セムラは危険なのだが、見てないところで何かあっては困るので、やはり身近に置きたい雲平の要望で出口付近に居る。


「合図を出すので、合図に合わせてシェイクさんとパウンドは走り出してくださいね。シェイクさんは可能ならシュザークウイングで飛んじゃってください」


アグリ達も準備万端という事で、雲平は「行きますよー」と言った後で、小さく「スェイリィ…力を貸して」と言って、ありえない量のサンダーウェイブを放ち、殺さないように、だが動けなくなるように雷を放ち魔物達を無力化させると指示を出す。


「アグリ!殺さない程度のラピッドウェイブ!無理なら意識はウォーターウェイブ!俺も撃つ!カヌレさんはウインドブラストの集中開始!ラピッドウェイブの後で俺もウインドブラストに参加します!」


無事に殺さない量のラピッドウェイブを放ち、カヌレに対しても「甘ったれないで、まだ我慢!カヌレさんなら抑えられる。まだです。撃って!」と指示を出してウインドブラストでパウンドとシェイクの道を作ると「行ってください!」と言った。


脇目も振らずに走り出すパウンド。

パウンドの本気はシェイクにはかなりの負担で、飛ぶ気はなかったがシュザークウイングの力で飛び上がる。


背後からは「向かってくる敵を殺さないように迎撃するよ。アグリ、ちょっと手伝ってよ」と聞こえてきて、少しするとあたり一面を覆う氷結結界が張り巡らされる。


シェイクはここに弟のホイップも参加できていたら良いなと思いながら、殺さないように注意して切り裂いて行く。


「馬鹿者!無理をするな!」

「嫌です!今無理しないで何になります!俺の肩で高い目線を楽しんでいてください!」


ミスティラはついこの前まで幼かったパウンドが、こんなに立派になっていた事に感慨深いものがあった。


「ミスティラ様、聞いていいですか?」


前言撤回。

相変わらず何でも聞いてくる。

ミスティラは「調べろ馬鹿者」、「少しは考えろ」と言いたくなる。


だがパウンドの言葉は「風魔法で追い風して、俺が長く走れるようにヒールをしてください!出来ませんか?」だった。


「お前はこの賢者に図々しいな」


そう言って笑ったミスティラは、追い風をしながらパウンドにヒールを送る。


「おおっ!速いですね!しかも疲れないからこのまま家まで帰れますね!久しぶりに帰りますか?」


パウンドがはしゃぎながら走り、軽口を叩きながらも、向かってくるゴブリンを殴り飛ばして、蜥蜴騎士の剣をへし折っている。


「お前、帰るって…。家に帰るのは終戦してからだ…。それに帰ったらお前は用済み扱いされるぞ?私達の棲家にしてもそこまで深くレーゼに入る時は決戦の時だ?」

「違いますよ。マフィンの家です。ミスティラ様の家ですよね?行ってあげましょうよ!」


一瞬亡き夫の手紙を読みたい気持ちもあったが、どの面を下げて帰れというのかと思ったミスティラは「…嫌がられるだろう?」と言うと、パウンドは「ミスティラ様はバカです!誰も嫌がりません!なんで嫌がるなんて思うんですか?ミスティラ様はマフィンの家族がウチに来たら嫌がるんですか?」と言った。


言いながらも槍を振るって致命傷を与えずに無力化していくパウンド。

相当の実力差がないと出来ない行為だ。


ミスティラは少しだけ考えてしまう。

愛した夫とその子供、その子孫が訪ねてくる。

自分から縁を切ったのに会ってみたいと思ってしまう。


「会いたくないわけない。縁を切るのは辛いのだ、だから結婚なんて…」


パウンドにはそれで十分だった。

ミスティラを励ますように「ミスティラ様!俺との縁は切れません!なので俺の事を存分に可愛がってくださいね!」と言うと、ミスティラは食い気味に「図々しい!」と返事をした。



・・・



笑いながら雪崩のように突き進むパウンド、肩に乗ったミスティラが「近いぞ!備えろ!」と声をかけると、前方を塞ぐオーク越しに槍が突き出される。


その槍はマフィンの自前のもので「来ましたね。ありがとうございます」とマフィンは言うと「お陰で僕は無駄死にではない」と続けた。


「お前!?」

「不思議な体験でした。死した僕が再びこの場にいて人として戦えます!」


そう、雲平は時戻しの風の範囲を「この場にいる雲平の仲間と自負する者」と言っていた。


それすなわち、マフィンは洗脳虫に支配されていても、心は雲平達の仲間だという事だった。


涙を流して「見事だ…!お前の心は見た!流石はドゥケッサと私の子孫だ!」と言ったミスティラに、マフィンは「はは…ありがとうございます。思い残す事はありません!ジヤー近衛兵マフィン!参ります!」と言って向かってきた。


「パウンド!私の従者!家族として遅れをとるな!」

「お任せください!」


マフィンとパウンドの槍捌きは互角に近い。

パウンドはミスティラに遠慮をして動きをセーブしているが、それでもかなりの実力を持つ、そんなパウンドに追い付くマフィンの槍捌きは見事だった。


「くっ、強い!」

「当然、俺はミスティラ様をお守りするためだけに生まれて鍛えてきましたからね!」

「凄い…。いつの日か巡り会えるミスティラの助けになるためにも、ジヤーをより良くしたいと志願して鍛えたのは遅かったようですね」

「大人になってからの訓練でそれなら強すぎです!羨ましい!」


パウンドとマフィンの攻撃の余波で周りのオークや蜥蜴騎士なんかは次々と切り刻まれる。


お互いに白熱して周りが見えなくなるが、ミスティラだけは冷静に「パウンド!位置取りが甘い!半歩左!周囲を見ろ!私がゴブリン共を倒しているからいいものを!死骸に足を取られるぞ!」と注意をしながらスェイリィスピアの元に誘導をする。


一瞬目のあったマフィンは穏やかな目でミスティラに頷くと、また顔を険しくしてパウンドに蹴りを放つ。

マフィンはミスティラのやろうとしている事を理解していた。


そしてこれみよがしに「この洗脳虫というのは憎らしい!一度死んで分かったが、僕の考えを無視して意識を向けさせるが、命令しないで僕に任せてくる!今この戦いは僕とあなたのものですよ!」と言い、思考までは読んでこない事を教える。


ミスティラは「手間取りすぎだ!本気の一撃を見せてやれ!」と声をかけると、パウンドは一気にスェイリィスピアを手に取って「超必殺!一点集中突破!」と言って突撃しながら槍を差し込んでマフィンの槍ごとマフィンを斬り裂いた。



・・・



あまりの余波に、背後にいたゴブリンはなす術なく潰されていた。


仰向けになったマフィンは斬り裂かれた部分から出血をしていて、もう間もなく死ぬ状況にいた。


「ありがとうミスティラ、ありがとうパウンド」

「すまない。助けられなかった」

「とても強かったです」

「いいって、1人生き残っても近衛兵の皆の事を思うと辛いしね」


そう言ったマフィンは上空を飛ぶシェイクを見て、「シェイク王子、シュザークウイングを持たれたのですね。神々しい。未練…ありました。王子の横で王子の武器として盾として国民を守りたかった」というと血の涙を流して「悔しい」と呟く。


そこに降りてきたシェイクは「近衛兵マフィン、君はジヤーの誇り、自慢の兵士だよ。君が洗脳虫に侵されても、スェイリィスピアを守ってくれたから、こうして担い手に渡す事ができた」と声をかけるとマフィンは「王子様、申し訳ありません。どうか人類に勝利を」と言って死んだ。


死を悼む間も無く周囲の魔物達がパウンド達を目指してくるが、パウンドは「え?スェイリィ様?スピアを雲平くんの所に投げろ?」と聞き返しながらスェイリィスピアを投げると、スピアは真っ直ぐ雲平の手に収まる。


遠目に見てもその顔は激高していて、槍を天に向けて構えたまま「邪魔だ。サンダーデストラクション」と言うと、ミスティラ達をかわすようにコレでもかと雷が降り注ぐ。


一匹の生き残りすら許さない雷はしばらく降り注ぎ魔物が全滅すると、スピアを降ろした雲平は「お腹空いた」と呟いてアチャンメ達に引かれていた。

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