第84話 どうか俺を担い手にしてください。
話を聞いたミスティラは、俯きながら「…馬鹿者が、アゴール達になんと謝れば良い?」と呟くように聞くと、雲平は「別に謝る事なんてないですよ。ウチにはアグリも居てくれるし、俺は婆ちゃんよりちょっとでも長生き出来ればいいし。俺よりセムラさんや皆ですよ」とケロッとした顔で言うと、そのままアグリを見て「アグリ、そんなわけで父さんと母さんの事はよろしくね」と言う。
微妙そうな顔のアグリは「良いんだけど…いいの?」と聞き返す。
「さっきので2年だよね。まあいいよ。マフィンは助けられないけど、人のままで眠らせてあげたいから頑張るさ。スェイリィ、高速で奪ってズドンだよね?」
「それが良い。多分キョジュならスェイリィスピアを奪われた瞬間に洗脳虫の力で自害をさせる。一瞬だ。インフェルノフレイムでもサンダーデストラクションでも構わないから人のまま死なせてやれ」
雲平は頷いてシュザークウイングを構えて飛び出そうとした時、ここでシェイクが前に出ると「雲平、済まなかった」と言う。
「シェイクさん?」
「僕は神獣武器に選ばれた君を誤解していたようだ。面白半分に戦争に介入した地球人、セムラ姫にしか興味のない男と思い込んでいた。だが君とセムラ姫の覚悟を見て目が覚めたよ。シュザークウイングを僕に…、君とセムラ姫の2年に報いらせて欲しい」
シェイクのその顔は爽やかで、人々が信頼を寄せる王子の顔だった。
「はい。よろしくお願いします」
「うん。僕が雲平の血路を開いて、雲平がスェイリィスピアを手に入れる」
ここでずっと黙っていたパウンドが前に出てくると、「スェイリィ様、俺は槍使いです。どうか俺を担い手にしてください」と言って頭を下げる。
そしてスェイリィの返事を聞く前に、カヌレに「ハニー、すまない。出会ってからずっとハニー第一主義を守ってきたけど、今日だけはミスティラ様の…俺の家族を優先させて欲しいんだ」と言い、そのままミスティラに「ミスティラ様、俺が彼を休ませます」と言った。
その顔は普段の、気のいい笑顔が似合う男の顔ではなかった。
「馬鹿者、スェイリィスピアをお前が持つ?孤高に聞いてみろ」
パウンドはスェイリィを見ると、スェイリィは「ああ、お前も立派な男だな。安倍川雲平が振るう姿も見てみたいが、まずは槍術を見せてみろ。お前を担い手に任命してやる」と言った。
パウンドは礼を言うとカヌレを見て再度「ハニー、ごめん」と言う。
カヌレは首を横に振ると、紅潮した表情で「パウンド!それでこそ男だ!やり切れ!」と言葉を贈った。
「作戦なんてものじゃないけど、スェイリィ、触れていい?」
雲平はスェイリィに触れて「うん。繋がった」と言い、「今回はシェイクさんとパウンドで前に出てもらう」と言った。
パウンドは「雲平くん、ミスティラ様は俺の肩の上でいいよね?」と聞くと、雲平から「前のレーゼの城の時より速く走るよね。乗り心地いいの?」と聞き返される。
雲平の質問にパウンドが答える前に、ミスティラは先程のミスティラを家族と呼び、男の顔になっていたパウンドを見て、嬉しそうに「酔ったら頭に吐いてやる」と悪態をつき、パウンドはミスティラの顔を見て嬉しそうに「魔法支援をミスティラ様に頼むさ」と言って笑う。
「うん。ならいけるかな。アチャンメとキャメラルはセムラさんの護衛、カヌレさんとアグリと俺は陣の出入口から大魔法とかを放ってシェイクさんとパウンドに血路を開く。あくまでも道作りで殺しちゃダメだよ。殺したらまた洗脳虫が前に出てきちゃうからね」
「おう、姫様のことは任せろ」
「本当、私らに居残りを命じるのはクモヒラくらいだな」
「大魔法…頑張ります」
「頑張るよお兄ちゃん!」
全員の了承を得た雲平はミスティラに指示を出す。
「ミスティラ、パウンドがスェイリィスピアを手に入れたらファイヤーボールを打ち上げて教えて、まあ必要無いけど周囲の魔物の始末も視野に入れておいてね」
「任せろ、だが指示の姿は王に見えるし、あの自己犠牲は並大抵のことでは無いぞ」
雲平は呆れ顔で「そんな事ないよ。ただ俺には両親不在で成長したから、こんな性格になっただけです」と言って行動を開始しようとした時に、アグリが「お兄ちゃん!ホイップは?」と聞いてきて雲平は素で忘れていた事に気づく。
「アグリ、面倒見れる?」
「うん。やれるよ」
「じゃあホイップ君はアグリといなよ」
この言葉はホイップの胸に深々と突き刺さるが、皆が時戻しの風で一度失敗を体験したのに自分だけはその輪に入れなかった事もあって何も言えずにいた。




