第82話 私のせいだ!すまない!
自分の意見を求められたホイップは、シェイクに視線で助けを求めた。
雲平はそれを遮るようにホイップの前に立つと、「シェイクさんもセムラさんも関係ない。セムラさんの戦闘力を理由に逃げるなんて認めない。セムラさんはセムラさんの戦いをしている。戦いたく無いなら、シェイクさんに言ってもらわずに自分で言いなよ」と冷たく言い放つ。
「な…?僕は誰も嫌だなんて言ってない!」
「ならアグリを守るんだ。任せた。アグリはまだ大魔法を放つまで時間がかかるんだ。アイスウェイブで近づかせないで」
雲平はそのままシュザークウイングを手に取ってシェイクに渡そうとする。
「お願いします。持ってください。解除は可能です。シェイクさんが王になるならそれはそれです。今はミスティラの為にもお願いします」
シェイクは何もかも面白くなかった。
雲平が中心なのも、発言が間違っていない事も、そしてホイップの事も…。
冷静にジヤーの王として王弟になるホイップを見たら心も力も弱い。
それは困った時に兄として甘やかしていたから、亡き母からよろしく頼まれたから盲目的に愛情を持って接した。
それをキチンと言葉にして逃げ道を封殺して厳しい言葉と態度で接する。
確かにこのまま経験を積めばホイップの為にもなるが面白く無い。
その邪念がシェイクの目を曇らせて「いらない。それは君が使えばいい。君が最短最速で駆け抜けてくれれば、僕達が後を追ってマフィンを倒すよ」と言った。
「シェイクさん……。わかりました。カヌレさんとパウンドはミスティラとセムラさんを守って」
「任された」
「…了解」
「アチャンメ、キャメラル、この剣は後で使うね」
「おうよ!」
「行こうぜ!」
「セムラさん、号令をお願いします」
「はい。皆さん!ご尽力をお願いします!」
セムラの声で皆が駆け出した。
外に出るなり雲平はシュザークウイングで空を飛ぶと、マフィンの姿を確認する。
マフィンは用意された席に座り雲平達を待っている。そしてその横には恭しく飾られたスェイリィスピアがあった。
雲平は降下をしながら「見えた!アグリ!陣から出るまでに集中を終わらせて右側の魔物の群れを押し流すんだ!俺も放つ!」と指示を出す。
「お兄ちゃん!?」
「中央にあの人とスェイリィスピアがあるから右を削って!俺は真ん中寄りを削って道を作る!シェイクさん!前に出てください!アチャンメとキャメラルは左からの奴らだ!」
雲平が話している間に集中を済ませたアグリが「撃つね!」と言った。
アグリがラピッドウェイブで魔物とレーゼ兵を押し流すと雲平は風塵爆裂を放つ。
風塵爆裂で魔物達が塵になるのを見ながら、雲平はシュザークウイングに向かって「シュザーク?インフェルノフレイムも使え?やだよ。疲れるもん」とぶつぶつ言う。
そしてシェイクの方を一瞬見て「そもそもシェイクさんが使えばいいのに」と言った後で、左側の群れに向かってサンダーデストラクションをコレでもかと放つ。
雲平の規格外にシェイクやホイップが目を丸くしていると、アグリが「うわぁお兄ちゃん怒ってる。ミスティラ様が泣いたからだよね」と呟きながら、大物に向けてウォーターガンとアイスウェイブを放ってアチャンメ達の間を埋める。
「何故ミスティラが泣くと雲平は怒るんだ?地球の危機だからじゃないのか?」
ホイップの言葉に「バカだねー」と言ったアグリは、「その考えやめないとダメだよ。シェイク様が危ないからアイスウェイブ撃って!」と指示を出して、ホイップは目を白黒させながらアイスウェイブを放つと、シェイクは「頼もしいよ」と言ってから華麗に二刀流でオークを斬り刻む。
破竹の勢い。
ものの20分でスェイリィスピアの元に辿り着いた時、マフィンは頭を抑え目を真っ赤にして苦しむと、「グギョギググ」と泣きながら自分の腹に短剣を刺した。
「ムダジニ ザマアミロ 武器壊ス」
そう言うと、スェイリィスピアを手に取って突きを放ってくる。
達人の技から繰り出される神獣武器の攻撃力に皆が苦戦をする。
「マフィン!どうした!自我を失ったか!?」
ミスティラの言葉に「グギョギググ」と鳴いたマフィンは、魔物の残数が300を切ったら洗脳虫が決められた動きをする事になっていたと説明をする。今はマフィンではなく洗脳虫がオシコの指示通り、ミスティラを苦しめる為にマフィンを自害させてスェイリィスピアを破壊しようとしていた。
強烈な突きを放った瞬間、マフィンは力尽きて崩れ落ち、スェイリィスピアは綺麗な音と共に砕け散った。
アグリの耳にはビャルゴゥの「使用者が死んだから、ペナルティは全てスピアに向かったよ。キョジュの狙い通りだ」と聞こえていた。
まだ戦闘は終わりでは無いが、ミスティラはその場に崩れ落ちると「私のせいだ!すまない!すまない!」と声を上げて泣いている。
この状況でもホイップは他人事のどこか冷めた目で状況を見ているだけで怒りもない。
まだシェイクはこの最悪の状況を招いた自身に怒っていた。
それはアチャンメ達も変わらずに憤っている。
だが魔物の群れは今も攻め込んできていてマフィンの死を悼む暇すらない。
その時雲平は「セムラさん!」と声をかけると同時に、セムラも「雲平さん!」と呼びかける。
雲平はセムラの前に降り立つと、そのままセムラの手を取り、「すみません。セムラさんの命をください」と言い、セムラも「私こそ雲平さんの命をください」と返す。
2人同時に頷き見つめ合い「次は成功させます」、「はい。必ず」と言う。
皆が雲平とセムラを見た時、手を繋いだ2人は声を揃えて「時戻しの風!」と言った。




