第76話 何もかも変えますね。
雲平は訓練用の剣を受け取ると訓練場の真ん中に向かう。
真ん中ではシェイクが剣を二本用意して待っていた。
「シェイクさん?」
「ああ、僕は二刀流さ。シュザーク様に選ばれた時から、万一に備えて二刀流になったんだ」
「じゃあブラウニーさんの剣とも…」
「違うが問題かい?」
「いえ、いろんな人と戦ってクラフティに備えます」
「…君は…、いやいい。よろしく頼む」
シェイクは決して弱くない。
キチンと師事を受けた剣で二刀流をうまく使う。
雲平は身体強化で何とかなっているが、魔法なしではジリ貧に近い。
「シェイクさん!あなたの能力は!?」
「身体強化と火魔法だよ!」
「…ならお互い本気でお願いします。クラフティはもっと強かったんです。あの人は土魔法でしたが容赦無かったです」
この言葉だけでシェイクは苛立ち、「何なんだ君は!地球人なのに!どうしてここまで介入して、ここまでの力を振るえる!身体強化!!」と言ってさらに加速する。
「地球人とか関係ないでしょう!俺が何をしました?神獣武器も持たないようにしてます!ただ平和にする為に戦ってますよ!」
「その態度だ!不遜な輩も問題だが、過ぎた謙虚は嫌味だよ!ファイヤーボール!」
シェイクのファイヤーボールをウォーターガンで打ち落とした雲平はシェイク以上の加速をすると右手の剣だけでシェイクの二刀流に追いつく。
それは「兄上勝って!地球人に負けないで!」と言っていたホイップも目を丸くし、雲平という人間の認識を変えざるをえない。
「ごめんなさい。一度吹き飛ばします!」
雲平はサンダーウェイブを放ち、シェイクが回避したところにウォーターガンを向けるがシェイクはそれを回避した。
だが雲平はそれも見越していて、前に出ると刃のない練習用の剣で切り付けて吹き飛ばしていた。
シェイクは「がっ!?」という声をあげて訓練場を転がった。
「すみません。室内の戦い方でこの程度だとクラフティ戦の練習になりません。強い力を使いたいのでシュザークウイングを持ってくれませんか?」
倒れたシェイクに向かってシュザークウイングを向ける雲平だったが、シェイクは「バカにするな!何様だ!」と言って懲りずに向かってくる。
いつの間にかギャラリーは集まっていて、城の連中はやはり神獣武器の担い手になった雲平が助けに来なかった事に不満があるのだろう。
完全にシェイクを応援していて雲平はアウェイだった。
シェイクの剣を弾く雲平に、ミスティラが「雲平、すまないが外に出てシェイクと戦って欲しい」と声をかける。
「ミスティラ?」
「このままでは空中分解してしまい、戦争に勝てても人間は全滅だ。力を見せてくれ。頼めるか?」
雲平は意味を察して剣を降ろすと、ミスティラが前に出て「シェイクよ。お前の不満はわかる。共に力を合わせて勝つ目標だったあの半魔半人は倒された。神々の盟約がお前を縛り苦しめ、同じ苦しみを持つセムラが雲平に頼っている事が面白くない事もわかる。だからこそ本気で挑むがいい。外でやろう。雲平の本気を見て、この力でないとあの半魔半人は倒せなかった事を理解しろ」とシェイクに言う。
「何を?」
「何人でもいい。100でも200でも出して雲平1人と戦え」
耳を疑う雲平とシェイク。
ミスティラは「中庭でやるぞ」と声をかけて歩きながら、雲平に「セムラの神々の盟約をおしえてやる。人類を生き残らせる為に、この状況になった時はレーゼとジヤーは一つになる事を決められている」と言った。
「え?一つに?」
「ああ、今のまま終戦を迎えても、本来ならビスコッティが存命なら、セムラはレーゼの女王としてビスコッティと肩を並べるだけで済んでいたが、ビスコッティが死んだ以上、シェイクを夫に迎え、新たな国を建国し民を導かねばならない」
この言葉に目の色を変えた雲平。
そしてセムラは雲平に知られた事で顔を暗くした。
昨晩も雲平と世良として平和な世界を夢見て、何をするかを語り合って抱きしめあって眠った。
「お前達に性的な繋がりは何も無かっただろう?それはセムラがこの後の事まで考えて、夫となる人間に操を立てていたからだ。まあお前が性悪の言う通り、レーゼの王になれば横にいる妃は…」
ミスティラが言う前にセムラが「ミスティラ!おやめください」と言って泣いた。
横を歩いていたアグリやアチャンメ達は雲平の顔を見て本気でキレている事がわかり青ざめる。
「わ、お兄ちゃんが怖い」
「やべえよミスティラ、なんでそこまで怒らせてるんだよ?」
「わ…私はやだぞ、アチャンメ!出番だからな」
雲平はセムラの方を見て「セムラさん」と声をかけると、申し訳なさそうに雲平を見て「雲平さん」と返すセムラ。
「何もかも変えますね」
「え?」
「セムラさんがシェイクさんを好きなら良いけど、嫌なのに結婚しなければいけないなら、俺は全部変えますね」
「そんな…」
「大丈夫です」
雲平はセムラに微笑みかけると「ミスティラ?」と声をかける。
ミスティラは「誰1人殺すな。圧倒をしろ。その力が無ければ、あの半魔半人に勝てなかったと、まずは見せつけてくれ」と言うと、雲平は怖い表情で「わかった」と言った。




