第75話 神々の盟約に従って貰います。
ミスティラの説明に、まだ聞きたいこともあったが何も言えず、大まかに納得ができて飲み込むしかないとシェイクは思ったが、ホイップは違かった。
「なら!その魔法があるなら、お父様が殺される前に戻って助けてください!それに話を聞いていたらこの地球人が神獣武器を身に纏えば勝てたのではないですか!?」
この言葉にセムラは表情を暗くするだけで口を開かない。
ホイップが「何故ですか?セムラ姫!何故この男にはその魔法が使えて!お父様には使ってくれないのですか!?」と詰め寄った時、アチャンメとキャメラルが「出来ねーんだよ」、「やれば王様は助からねえのに姫様は死ぬ」と言い、「私らだって頼めるなら頼んでる。ブラウニー団長が死ぬ前に戻してもらって」、「何でもするから助けてくれクモヒラって言いたい。でも言えねーんだよ」と言った。
その声は威圧的なガラの悪い声ではなく、悔しそうな少女の声。
「お前達…」
ホイップの声を遮るように、セムラは「時戻しの風の魔法は術者の命を削ります」と言った。
シェイクとホイップに走る衝撃。
「グェンドゥ様からは、10分の時戻しで、私の命は一年が削られると言われました。雲平さんは周りの制止を振り切り、ジヤーに降り立ってほぼ10分で死にました。だから何とかなりましたが、ビスコッティ様を助ける為には、時間と私の命が足りません。もっと前に戻って雲平さんにビャルゴゥリングとグェンドゥハンマーを持つように言い、屋内戦闘の知識を授けて向かわせるのはほぼ不可能。私が時戻しの風を授かった以前には戻れません。そして今使えば2日の時を遡る。私の命をミスティラの年齢くらい用意しないと出来ません」
そう言って俯いて「申し訳ございません」と言って泣くセムラ。
言ってしまったものの、条件が厳しいもので何も言えなくなるホイップと、心のどこかで期待してしまっていたシェイク。
ミスティラが困り顔で落とし所を探るように、「雲平」と声をかけて肘で突くと、雲平は「セムラさん。助けてもらった俺が言うことではないけど、元々その力が無かったと思ってください。誰もセムラさんを責めていませんよ」と声をかけた。
その時のセムラは姫の顔ではなく、乙女の顔で「はい。ありがとうございます。雲平さん」と言っていた。
シェイクはこの顔を見て自分が冷めていく感覚に襲われていた。
ミスティラはシェイクを見て首を横に振ると、「大目に見てやれ。オシコの手で地球に行く事になり、不安な中命をなん度も助けられた相手だ。心の支えにしているだけで、やましい事は何もない」と言う。
シェイクは王子の顔で「はい」と言って頷く。
だがアチャンメとキャメラルが「クモヒラ!私達も慰めロ!」、「優しい言葉ダ!」と言い、雲平が「うん。アチャンメとキャメラルも悲しいよね。今日は悲しもう。それで明日、スェイリィを助けに行って、最後の神獣武器を手にしよう」と言ったその後。
「俺も悲しいよ。ブラウニーさんは、クラフティに勝つ為に剣の訓練をしてくれる約束だったんだ。クラフティが城の中で待っていた時の事を考えて屋内戦闘の訓練を頼みたかったよ」
雲平がそう言った時、シェイクの中に生まれた感情が暴走した。
「セムラ・ロップ・レーゼ、申し訳ないがレーゼがコジナーの手に堕ち、我がジヤーも侵略を受けている。今やシェルガイは滅亡の危機だ。古き神々の盟約に従って貰います」
そう言ったシェイクの声はとても怖くホイップすら引いた目で見てしまう。
セムラは顔を暗くして「勿論です。わかっています」と言う。
その顔が気になった雲平がセムラに声をかける前に、「安倍川雲平君、僕はブラウニー程ではないがジヤー流の剣を振るえる。室内戦闘の知識もある。どうかな?」と言った。
言葉だけ聞けば穏やかだが、目には敵意と殺意が見て取れた。
敵意と殺意を感じたアチャンメとキャメラルが、「王子?クモヒラ?」、「クモヒラ…おい」と声をかけたが、雲平は「はい。よろしくお願いします」と頷いた。
「俺はシュザークウイングを届けにきたようなものです。出来たらシュザークウイングをシェイクさんに持ってもらいたいです」
「…それはしたくない。君が振るえばいい」
シェイクは室内の訓練場に雲平達を連れていくと、普段なら近付かせないホイップにも、「ホイップ、君はもう大人にならなければならない。見て学ぶんだ」と言っていた。
訓練場に行くとアチャンメが「クモヒラ、出来たらこのカオスチタンの剣にしてくんねーか?」と持ってくる。
「これは?」
「私とキャメラルが、ブラウニー団長に買ってやったショートソードだよ。でも団長の奴はカヌレみたいにヘルチタニウムが好きだって言うから埃かぶってたんだよ」
雲平は剣を取るが埃なんてどこにもない。
「アチャンメ?」
「ん…。団長は使わねーくせに、暇つぶしに丁度いいって言って手入れだけしてたんだよ」
「それを俺に?」
「このまま棺に入れたら勿体ねぇだろ!」
「使ってクレヨ!」
アチャンメとキャメラルの言葉に、雲平は「ありがとう。剣に恥じないように頑張るね」と言って受け取っていた。




