第74話 それが神獣様達のご意志でした。
シェイクは宰相のフレジェに細々した事を任せて、クモヒラ達の話を聞くことにする。
シェイクにベッタリくっついて、恨みがましい目で睨んでくるホイップ。
顔自体はセムラとミスティラが慰めながらヒールをしたから綺麗なものだが、心の傷は消えていない。
雲平は困り顔で「あはは」と言い、アチャンメとキャメラルは「この前聞いた王子様だったかぁ」、「やっちまったなぁ」と言ってホイップの方を向くと、ホイップは真っ青な顔でシェイクの後ろに隠れてしまった。
アチャンメとキャメラルのコメントにミスティラは呆れ顔で、シェイクは「皆疲れているのに済まないね。アチャンメ達はブラウニーがホイップと会わせないようにしていたから仕方ないよ」と言う。
だがシェイクが雲平に向ける目は厳しかった。
シェイクはミスティラとセムラを軸に雲平が合流してからの事を聞いた。
第一段階の人喰い鬼となった国府台帝王を、雷魔法で後一息まで追い詰めたが、蜥蜴騎士の妨害で取り逃がした事。
ウインドホースを取り込んだ第二段階は、ビャルゴゥの予見を無視して、解除不能のビャルゴゥリングを自由に着脱出来た上で、後一息まで追い詰めた所でオシコに邪魔をされ、雲平自身の魔法力も底を尽きてしまうことを考慮したミスティラの注意を受けて追撃を諦めていた事。
事前に報告は受けていたが、それでも確認するように、「着脱不能の神獣武器を好きに着脱できて、今のところビャルゴゥ、グェンドゥ、シュザークに選ばれる?」と言って首を傾げたシェイク。
シェイクはミスティラの意見を求めて顔を見たが、ミスティラは首を横に振って、「初めてのことだ。やれる道理が誰にもわからない」とコメントをした。
話を国府台帝王に戻そうとしたところでミスティラとセムラが説明をした。
「ビャルゴゥとグェンドゥの意思に従って、雲平をジヤーに戻すのではなくシュザークの元に連れて行かせた」
「それが神獣様達のご意志でした」
これには雲平も細かく聞いていなかったので真意を問うと、ミスティラは説明をし始める。
「ビャルゴゥの性悪は雲平がビャルゴゥリングを着脱可能にした際に新たに見た未来視と、そもそも見ていた未来視を統合した新たな未来を私にだけ教えた。それは本来であればビャルゴゥリングを身につけた、雲平かアグリが単身ジヤーを目指し、グェンドゥの元で雲平がビャルゴゥリングを放棄していれば担い手に雲平を、ビャルゴゥリングを選んでいればカヌレを担い手にするつもりでいた。そうなると戦力の分散は好ましくないとしてセムラの力でジヤーに戻るのではなく、グェンドゥの元からジヤーを目指すことになっていた」
シェイクは話の中心が雲平な事が正直面白くないが、王子…未来の王として平静を装う。
だがホイップは子供らしさと言うべきか、幼さを前に出して雲平を敵視して睨んでいる。
「そうなると、雲平がビャルゴゥリングを身につけていれば、半魔半人がビャルゴゥの神殿付近で倒されていた場合は、オシコがシュザークの担い手たるシェイク、お前を殺しに来て奮闘の結果、ブラウニーは死に、ビスコッティがシェイクを庇って死んでいた。雲平達が合流するのはそれから7日後の話だった。だがビャルゴゥリングの担い手がアグリの時は生き残った半魔半人がオシコの代わり、今回とほぼ同じ内容でジヤーを襲っていた」
ようやくシェイクは絞り出すように「では、父の死は防ぎようがなかったのですね?」と言って俯いた。
ミスティラは困った表情で「ほぼだ」と言い、「今回、性悪のビャルゴゥが新たに見たのは、雲平の手によってアグリやカヌレも神獣武器を手放せる事がわかり、その力でシェイクとの約束通りに、グェンドゥハンマーを手に入れてからジヤーに戻っていた場合、全滅の未来が見えていた。だからグェンドゥはビャルゴゥの指示通り初日と2日目に時間稼ぎを行った」と続けた。
「全滅?」
「ああ。雲平はシェイク、お前を救う為に一度ジヤーを目指し、あの半魔半人に敗れ死んだ。今はグェンドゥから話を持ちかけられたセムラが、時戻しの風の魔法を授かって、その時間を無効化した」
「ですが雲平は神獣武器の担い手…」
「今と同じだ、ビャルゴゥリングはアグリ、グェンドゥハンマーはカヌレが持っていた。そして雲平には問題があったんだ」
ミスティラは雲平の武器が国府台帝王との戦闘で折れて無くなってしまって、今は予備の剣になっている事。
雲平に狭い屋内戦をやった事がなく、屋内戦に適した大魔法を放てなかった事。
そしてカヌレはグェンドゥハンマーの攻撃力に恐怖して動けなかった事。
アグリのウォーターガンではビャルゴゥリングの力をもってしても4体の魔物を取り込んだ国府台帝王にロクな傷をつけられなかった事を説明した。
「後は我々も手も足も出なかった。今はシュザークウイングを手に入れたから何とか勝てただけだ」
ミスティラの言葉にシェイクは何も言えなくなっていた。




