第73話 それだけの力があったのになんで助けにこなかった!
翌朝、スェイリィの所に向かう案も出たが、シュザークからシェイクの元に向かうように言われた。
戻ったジヤーの城には大きな穴が空いていて、国府台帝王の被害が甚大だとすぐにわかった。
喪に服したいのを誤魔化すように、皆が忙しく動く中、戻ってきた雲平達をシェイクは優しく迎え入れた。
「無事に戻ってくれて嬉しいよ。神獣武器の事も各護衛隊長から聞いたよ。雲平、君がアゴールとメロンの息子だとは思わなかった。それにビャルゴゥもグェンドゥも君を担い手に選んだと聞いて驚いた」
雲平は首を横に振って「すみませんでした。ビャルゴゥリングは妹のアグリに、グェンドゥハンマーはカヌレさんも選ばれています」と説明すると、シェイクは「うん。聞いたよ。驚いたけど運命だね。シュザークウイングは?」と聞く。
雲平は片手剣にしたままのシュザークウイングを取り出して割ると、「俺も選ばれましたが、シュザークはシェイクさんに渡すように言いました」と答えた。
「はは…。君は凄いな。君なら戦争を終えられそうだ。シュザークウイング…。本来なら僕もその剣を持ってあの男を殺したい」
シェイクは言うなり俯いて腕を押さえる。
その場所は国府台帝王の攻撃を喰らった場所だった。
雲平とシェイクの間に立っていたセムラは、目に涙を浮かべて「シェイク王子」と声をかける。
「セムラ姫、ご無事で何よりです。今城はこんな感じですが、僅かばかりのおもてなしをさせてください」
シェイクの笑顔が見ていて辛くなる。
だがミスティラだけは前に出てシェイクに話しかける。
雲平が周りを見るとアチャンメとキャメラルが居なかった。
「シェイク、久しいな。ビスコッティの事は残念だった。この戦争、勝たねばならない。悪いがスェイリィがどうなっているか知る必要がある」
シェイクは嬉しそうな顔になると、「今は忙しいくらいが丁度いいです。ありがとう賢者ミスティラ」と言った。
「斥候の話では魔物とレーゼ軍の混成部隊、それも大軍がスェイリィの神殿を取り囲みスェイリィを狙っているそうです。今は護衛部隊がなんとか保たせています。あそこはレーゼ側で戦争に備える為にも兵員は割いてありました」
そう説明をした後で、「神獣達は情報交換をしていないのですか?」と聞いてきた。
「アイツらは勝手にしているが口にはしない。口に出すとビャルゴゥの未来視が狂うし最悪に向かう」
「そうでしたか、未来視でこの未来を回避できれば…」
そう言ってシェイクは城に空いた大穴を見た。
話中も続々と家臣が集まり、シェイクに確認を取ろうとしていて、あまり長時間の拘束は好ましくない。
そこに走ってきたアチャンメとキャメラルは号泣していた。
「クモヒラ!ブラウニー団長が討ち死にダ!」
「また私達の家族が死ンダ!」
ブラウニーの死を知ったアチャンメとキャメラルが、泣いて雲平に飛び付きワンワンと泣く。
「あの野郎、近衛兵を連れて行く時に、立ちはだかったブラウニー団長を殺したんだ!」
「団長は第二の親父だったのに!」
雲平が心配するように「アチャンメ…、キャメラル」と声をかけると、2人は「泣かせてくれ!」、「悲しすぎる!!」と言って雲平に再度抱き着いた。
声を上げて泣くアチャンメとキャメラルに、シェイクが「本当にブラウニーは見事な最後だった。心折れずに立ち向かってくれた」と声をかけて、耐えきれずに「くっ」と声がでてしまう。
忠臣の死はやはり耐え難い。
涙を流すまいと天を仰ぐシェイクだったが、次の言葉は聞き捨てならなかった。
「だけどクモヒラが団長達の仇を討ってくれた!」
「だから皆あの世で笑ってくれる!私達は勝つんだ!」
その時のシェイクの顔は、爽やかな王子のものではなかった。
「なに…仇を討った?」
シェイクが雲平につかみかかろうとした時、「お前!あの魔物に勝てたのか!?それだけの力があったのに、なんで助けにこなかった!」と言いながら、男の子が雲平に掴み掛かった。
「お前!なんとか言え!何故倒せるのに来なかった!来なかったんだ!?」
男の子は涙を流しながら怒り狂う。
これには雲平も返答に困ってしまった。
最初は泣いていただけのアチャンメとキャメラルは、犯罪者のような人相になると泣いている男の子にデコピンを喰らわせた。
デコピンでうずくまる所を押して転ばせると、「アァン!?んだゴルァ?」、「クソガキが!私らのクモヒラに文句あんのか!?アァン!?」と言いながらしゃがむ。
転んだ男の子に向かって「雲平だって死にながらなんとか勝ったんだッツーノ!」、「あのバケモンはビャルゴゥリングの一撃だって耐えるんだよ!それをクモヒラはシュザークウイングまで持ち出して、バケモンを上回るバケモンみたいな戦い方で勝ったんだゴルァ!」と怒鳴りながら蹴りを放った。
蹴られた男の子は「僕に何をする」と言いたいのだが、蹴られ続けていて「がっ…ぐふっ!?僕に…がっ!?何をする!!」となってしまう中、必死になって言うとアチャンメは悪人顔のまま「何様だコイツ?知ってっかキャメラル?」と聞き、同じく悪人顔のキャメラルが「知らねー。団長の死を悼んでいるってのに台無しダ。アチャンメ知ってるか?」と聞き返した。
「知らね。ここら辺の連中は一度シメてっから、こんなこと言うやつはモグリだろ?」
「ああ、城が襲われたから家族に会いに来た奴か」
「じゃあ、しゃーねーな」
「おう、しっかり誰に歯向かったか教えてやんねーとな」
もうそのスジの悪党にしか見えない。
しかも、今も言いながら男の子を蹴り続けるアチャンメとキャメラル。
シェイクは王子の顔で「荒熊騎士団アチャンメ、キャメラル。やめろ」と静止する。
「えぇ!?なんでっすか王子?」
「まあ王子様の御命令なら聞きますけど」
シェイクは困り顔で「…すまないが、この子も王子だ」と言った後で、男の子に手を出して「ホイップ、立ちなさい」と言った。
「は?王子様?」
「ホイップってミスティラの言った第二王子かよ!?」
ボコボコの顔で泣きながらシェイクの手を取るホイップ。
「なんで、なんで父上が亡くなって僕までこんな目に」
そう言ったホイップは、ボコボコの顔で恨めしそうにアチャンメとキャメラル、そして雲平を睨みつけた。




