第68話 それはダメなんです。
ベッドは1人用で、雲平とセムラが入ると狭かったし暑かった。
2人は息の当たる距離で真っ赤になりながら向かい合っていた。
「まだ震えていますね。心穏やかにしてくださいね」
そう言ったセムラも同衾の経験なんかなくて震えている。
「セムラさんも震えています」
「…はい。男の人と寝るなんて、幼い頃にクラフティお兄様と寝て以来で緊張しています」
雲平は震えながらも「俺は変な事はしませんよ」と言うと、セムラは「知っています。雲平さんだから同衾しました」と言った。
「セムラさん…」
「ビャルゴゥ様の予見…、あの時ビャルゴゥリングを身に纏い、コジナーに行き魔物を滅ぼして凱旋した雲平さんは、シェルガイの王になると言っていました。その横の妃とは誰でしょうか?」
セムラは潤んだ瞳で雲平を見て、雲平が答える前に言葉をつづけた。
「聞いていて私だったらいいなと思いました。私は貴方に傷付いて欲しくない一心で日本に帰した。それなのに戻ってきてくれて、大魔法を放った姿を見た時に嬉しさが込み上げてきて胸が熱くなりました。そしてビャルゴゥリングを身につけてくれた時、申し訳なさの中で少しでも喜んだ自分を恥じて泣きました」
この言葉の意味がわからない雲平ではない。
「セムラさん」と再び言う雲平に、セムラは首を横に振ると「でも貴方はシェルガイには住まない。かのこさんやあんこさんのいる日本に帰ってしまう。そして私はレーゼの姫としてシェルガイを…レーゼの民を見捨てられません」と言った。
「だから、同衾までです」
そう言って雲平を抱きしめるセムラは、「アチャンメとキャメラルが羨ましい。ヤキモチを妬きました」と言った。
雲平はアチャンメとキャメラルの「バッコンバッコン子作りして」、「身体強化で朝から晩まで子作りして」、「子沢山になって」、「笑顔の家にする」と言う言葉を思い出し、目の前のセムラを見て「朝から晩まで、身体強化でバッコンバッコン子作りをして、子沢山で笑顔の家にする」と妄想してしまい真っ赤になってドキドキしてしまった。
「凄い鼓動の音がします」
「はい。洋服越しのセムラさんの熱や声、2人きりの布団の感じで照れています」
セムラは「嬉しい」と言って雲平の胸に顔を埋めて深呼吸をする。
少しの沈黙の後でセムラが再度深呼吸をして「もしもの話をしませんか?」と言った。
「セムラさん?」
「もしも私がレーゼの姫ではなく、1人の少女世良だった時、雲平さんは私を日本に連れて行ってくれましたか?」
「はい」
「嬉しい。でもあんこさんには恨まれてしまいますね」
「セムラさんはいつも言ってますけど、俺とあんこには何もありませんよ?」
「あんこさんは雲平さんをお慕いしていますよ。これは女性だからわかるのです」
雲平は「そうですか?」と言いながら不思議そうにセムラを見る。
セムラは嬉しそうに笑うと「今晩だけは、あんこさんに恨まれても私が雲平さんを癒します。シェルガイに来てくれてありがとうございます」と言って抱きしめる。
少しして今度は雲平が「セムラさん、もしもの話を続けませんか?」と言った。
「雲平さん?」
「俺が本気でセムラさんを求めて、セムラさんと離れたくないと言った時…」
セムラは最後まで言わせる前に「それはダメです。かのこさんやレーゼの民にもダメなことです」と辛そうな顔で言った。
「セムラさん…」
「求められたら国を捨ててしまいたくなる。貴方に残って欲しくなってしまう。出来たらここでアチャンメ達の先をいって、唇を重ねられたらと思いますが、それはダメなんです」
雲平は「はい。だから…」と言うと、震えながらセムラを抱きしめて「今晩はこのままここに居てください」と言った。
セムラは「勿論です」と言うと雲平を抱きしめて、「貴方を救えてよかった」と言う。
雲平は「セムラさんがくれた一年に報います」と返して眠りについた。




