第67話 セムラだけがマシだった。
雲平の震えは時間を追うごとに酷くなっていた。
今はセムラが付き添う形で与えられた部屋にいる。
雲平は震える手を押さえつけながら「くそ、なんで!?」と言っている。
・・・
ミスティラは1人でシュザークの元に行き、「高慢よ。あの言い方は酷くないか?」と言ったが、シュザークは「また殺す気か?それにアイツは異常だ。何故解除不能の神獣武器を着脱可能にし、全ての神獣武器を使いこなせる?それに時戻しの風にしても、衝撃的な事柄は多少思い出すが、アレは異常だ。心は勝手に追体験をして、勝手に臨死に至っている。今帰らせるか立ち直らせるかしないとまた死ぬ」と言った。
「追体験?今までの連中もそんな事になった奴は居ない」
「だが目の前にいる。今ビャルゴゥと話したが、半魔半人も人の身で四体の魔物を取り込んだからか、記憶を持っているそうだ。オシコは歓喜したそうだぞ」
信じられない事の連続に、ミスティラが「な…」と言うと、シュザークは「早く立ち直らせないと次はどうなるか…」と言った。
「そんな…。ビャルゴゥと話したのならアゴール達は?」
「落ち込んでいたが、すぐに切り替えて「勝手に立ち直るから苦しませておけ」と言っていたそうだ」
「…わかった。後は?」
「ビャルゴゥは見えた事は言うと悪くなるから言わないと言っている。だがかなり状況は悪くなった。スェイリィは助からないかも知れない」
「そんな!?」
「ああ、そんな…だな。3つの神獣武器で戦うしかなくなった」
「孤高には耐えるように言ってくれ」
「人間には期待しないと言っていた。気に病むなと伝えてくれと言われたよ」
「可愛げのない蛇め」
ミスティラは悪態をつきながら神殿を後にすると、アチャンメ、キャメラル、アグリ、カヌレ、パウンドが待っていた。
「お前達?」
「なあ、シュザークの奴はミスティラは見てきたって言ったろ?」
「どうだったンダ?」
アチャンメとキャメラルの言葉に合わせて、アグリが「教えてください!私はお兄ちゃんを助けられなかったの!?」と問いかける。
「アグリ、お前のウォーターガンでは傷すらつけられなかった」
「そんな…」
「ミスティラ様!俺は?」
「お前は最悪だ。雲平に言われたとはいえ、カヌレにばかり気を遣い棒立ちだった」
「わ…私は何も出来なかったのか?」
「ああ、シュザークの言う通り構えただけで動かなかったよ」
全員が落ち込む中、ミスティラは「敗因は多い。奴は近衛兵を人質にしていたし、雲平は初の室内戦でサンダーウェイブしか放てずにいた事。あの剣では雲平の力に耐えきれずに折れた。シュザークの言う通り、ビャルゴゥリングを身につけてウォーターソードを出していれば良かったのにな」と言った。
全員に問題はあった。
誰彼少しずつだが雲平に依存をし始めていた。
雲平はそれだけの結果を出してきた。
そして雲平も本人はそんな気はないと言いながら増長していた。
アゴール達はそれを理解していたから雲平に釘を刺した。
だが言葉は言葉としてしか届かなかった。
意味まで届かなかった。
「あの場で、時戻しの風を躊躇なく使えたセムラだけがマシだった」
ミスティラの呟きに、アグリが「お願いします!私を鍛えてください!私があの日本人を倒します!」と震えながら言うと、カヌレも「私もだ!雲平殿やアグリ殿に頼るなど言語道断!」と言う。
ミスティラは「わかった。各々の持ち味を活かしてやる」と言い訓練が始まった。
・・・
雲平はセムラの介助で食事を摂る。
今は手どころか全身が震えている。
夕刻を過ぎたのに、外からはアチャンメ達の声とミスティラの怒号。
そして一度大地震のような衝撃が走った。
セムラが扉を開けると、アチャンメとキャメラルが扉の前に居て何があったかを説明する。
「わりー、わりー、カヌレの奴に、本気の力任せって奴をやらせて見たらすげぇの」
「クモヒラ起きちゃったか?姫様、済まないけどクモヒラを寝かせてやってな。初めて戦場で怪我した奴は、震えて眠れねーんだよ。居てやってくれ」
雲平が「アチャンメ?キャメラル?」とベッドから声をかける。
「悪い、起きちまったか?カヌレの奴にグェンドゥハンマーを使わせたんだよ。ミスティラに聞いたけど、アイツが動けなかったのって、やり過ぎて城をぶち壊しそうだったんだってさ」
「金ねーから城壊したらヤバいってな」
2人は雲平を安心させようとして笑いながら話す。
「クモヒラは今日は寝てろよな」
「皆初めはそうなんだよ。私とアチャンメもひでーもんだよな」
「ううん。俺も行かなきゃ。まだグェンドゥハンマーを使えてないから」
雲平は震える声で言いながら立ちあがろうとするが、全身が震えていて話にならない。
「あれ」「くそ」と言いながらなんとか立とうとする雲平だったが、前に転んでしまうとアチャンメとキャメラルが前に出て雲平を受け止める。
「気持ちが落ち着いてからでいいって」
「そりゃあクモヒラの一撃も見てみてーけど、カヌレがアグリみたいに落ち込むから待ってやれって」
そう言ってから笑うアチャンメとキャメラル。
そして「クモヒラは弱かねーよ」、「な、シュザークも見誤ってるよな。これは皆がなる奴だ」と言うと、2人して真剣に雲平の目を見て「私じゃあ意味ねーんだけどな」、「な、でもこれは姫様には無理だからな」と言って頷くと、2人して雲平を抱きしめて両頬に2人が熱烈にキスをした。
真っ赤になって「アチャンメ!?キャメラル!?」と慌てる雲平。
「嬉しーぞ、私に女を感じたな」
「私にも感じたな」
アチャンメとキャメラルは笑うと、難しい顔をして盛り上がる。
「でもなー、クモヒラは地球に帰るんだろ?」
「こっちなら私たちが奥さんになってやってバッコンバッコンやりまくって、子沢山になって笑顔の家になるんだけどなー」
そう言ってから頷きあって更に笑い、さらに盛り上がる。
「残念だバッコンバッコンだったのにな」
「本当だな。身体強化で朝から晩までやりまくってやるのにな」
「まあ、私たちは生娘だからまだやった事ねーから口だけだけどな」
「でもクモヒラとならやってもいいよな」
このやり取りに、雲平は処理不能の顔で「アチャンメ!?キャメラル!?ダメだって」と言うと、「あはは、怖かったら震えろ」、「震え切ったらエロい事を考えろ。戦ったらエロいのが待ってるって思え」と返す。
「俺はそんなんじゃ」
「え?ブラウニー団長とかな」
「ドエロだよな」
「男は皆エロだってな」
「団長は女もエロだって言ってたけどな」
「ダメだよ。君たちは女の子なんだから自分を大事にしなよ!」
「よし、少し元気でたな」
「今晩は姫様と寝とけ。柔らかくてスベスベだからよく眠れるぞ。私たちはもう少し訓練するからな!」
ここに遅いと迎えにきたミスティラは「ようやく震えが出て、新兵なら1人で悩むのに、お前には姫もアチャンメもキャメラルもいる幸せ者だな」と言って笑った後で、「シュザークがビャルゴゥ経由でアゴール達に話したそうだ」と言った。
「父さん?」
「ああ、アゴールは『勝手に立ち直るから苦しませておけ』と言っていたそうだ。信用されているな」
「…絶対面倒くさいだけだよ。昔からそうなんだよ」
「だが昔から立ち直れるのだな。期待してはいけないが期待しているぞ」
ミスティラは言いたいことだけを言うと、キャメラルとアチャンメを連れて行ってしまった。
「雲平さん」
「セムラさん?」
「寝ましょう」
「え!?」
「同衾までならします。心穏やかに眠ってください」
雲平は、真っ赤になったがスベスベのセムラと寝るという欲望には逆らえずに「うぅ…、よろしくお願いします」と言って2人でベッドに入った。




