第66話 目標が無くなってしまいましたよ。
8人の親衛隊を攫って帰った国府台帝王を見て、オシコは女の顔で国府台帝王を褒めちぎった。
「本当に凄いわ!お帰りなさい帝王!ご飯にする?」
「ありがとうオシコさん。食事ってコイツらですか?」
もう人を人として見ることが出来なくなった国府台帝王からすれば、近衛兵達は餌でしかなかった。
「うふふ。まあ8人全員は要らないのよ。欲しいのは1人だけ。しかも半魔半人に出来ないから、洗脳虫を植えて従わせるしかないのよね。残りを食べる?」
「いや。なんか不味そうなんで半魔半人にしませんか?男ばかりだから別に畑にもなりませんよ」
「うふふ。素敵よ。じゃあ8人は全員頂戴ね。ご飯を食べたらまた良いかしら?」
「ええ、俺からもお願いします。所で2つ聞きたいんですけど良いですか?」
オシコは女の顔で「なぁに?」とシナを作りながら甘えたように聞く。
オシコからすれば国府台帝王は有能な雄で手放し難い存在になっていた。
「オシコさんは俺の子供を孕みますか?」
オシコは少し壊れていた。
この言葉だけで身体を震わせて、上気した顔で国府台帝王を見て「勿論よ。あなたの子供を産ませてくれるかしら?」と言った。
そのまま8人が居てもお構いなしに国府台帝王に身体を擦りつけながら「帝王、産みたいわ。貴方と私の子供なら、何が来ても負けないわ」と言う。
「ええ、じゃあコイツらを檻に入れたらまた朝までしましょう」
「本当ね!嬉しいわ!でも今すぐじゃなくて、コイツらを片付けてからなんて焦らすのね!」
いそいそと8人を檻に入れるオシコは弾む声で、「帝王!それでもう一つの聞きたいことって何!?」と聞く。
国府台帝王は「変なんです」と言った。
「変?帝王?貴方どこかおかしいの?不調ならすぐに言って!」
国府台帝王の言葉に顔色を変えたオシコが残りの近衛兵を雑に檻に放り込むと国府台帝王に飛びつく。
国府台帝王は首を横に振ると「身体じゃ無いんです」と言った。
そのまま「オシコさんの言いつけ通りジヤーの城まで行って、近衛兵を捕まえてビスコッティの奴を殺しました。それで目の色を変えた王子を絶望させる為に、殺さずに帰ろうとした時に、一瞬白昼夢を見ました」と言う。
「白昼夢?」
「ええ、こんな経験初めてでした。起きているのに一瞬目の前に俺を斬ったあの日本人が居ました。アイツは神獣武器もなく俺に切り掛かってきたんで、奴の剣を受け止めたら簡単に剣は折れました。アイツはビャルゴゥリングを取ろうとしましたが、それをさせずに居るとグェンドゥハンマーに手を伸ばすんです。ですが俺のウインドボールでそれを阻止して、蹲った所を踏み殺してるんです。そんな夢を見ました」
この説明を聞いていたオシコは突然震えると「あははは!」と声をあげて笑い出して、「やったわ帝王!おめでとう!ありがとう!」と言って国府台帝王を抱きしめる。
「オシコさん?」
「姉さんは使えないから恐らくグェンドゥの担い手、グェンドゥハンマーの持ち主ね。グェンドゥは風を司る神獣よ。奴の魔法には時を遡るものもあるの。恐らくグェンドゥの指示で時を戻して、帝王に負けた事を無かった事にしたのよ!」
この説明に国府台帝王は唖然とした顔で「勝った?俺があの日本人に?」と聞き返す。
「ええそうよ!本来なら時を戻されても、それを知るのは呪われた姉さんと神獣、そして術者だけなのに、帝王は優秀だからその経験を拾ったのね!」
「オシコさんは詳しいですね」
「ええ、コジナーにも神様が居るのよ。その神がこの約300年の間に色々教えてくれたのよ」
喜ぶオシコを見ながら、国府台帝王は達成感と虚無感に襲われていた。
「目標が無くなってしまいましたよ」
「ふふ。じゃあ今度は帝王が私を助けて?まだ神獣武器はあるし担い手も居るんですもの。コジナーの悲願の日まで奴らを倒して!そして私を貴方のものにして!」
「ええ、そうですね。そういえば時を遡るって事はあの日本人は生きているんですか?」
「ええ、死んだ事実を無効化したから生きてるわ。次会ったらグェンドゥの担い手を殺してからあの子を殺しなさい。グェンドゥの時戻しは、授かる前には戻れない。キチンと殺せば詰みよ」
喜びに震えるオシコはその場で服を脱ぎ捨てると、国府台帝王に甘えた声を出して服を脱がせ、その場でまぐわった。
最早それは人のものではなかった。
見せられる近衛兵達はオシコの力で手足を封じられていて自害もできずにいた。




