第65話 何度目だ?恥を知れ。
シュザークの護衛隊達は、出迎えの挨拶と共にシュザークの前に雲平達を通す。
巨大な孔雀を前にして、アチャンメ達はおばちゃんセーターを出して担い手に選べとアピールする。
「私の担い手はすでに決まっているよ」
この言葉に落胆しながらも「へーへーへー、どうせクモヒラダロ?」と返すキャメラル。
シュザークはキャメラルのコメントに返事をするように、またなにも聞いていないように呟くように語った。
「私が選んだ担い手はシェイク・レーヌ・ジヤーだ。あの子は生まれながらに剣の才能と我が真髄、火の本質を得ていた。だがジヤーの掟で神獣武器の担い手は王になる資格を持てないんだよ」
ここで雲平は、シェルガイに戻ってきた時のシェイクの言葉の意味を理解した。
「オイオイ、じゃあビスコッティ様がヤラれちまったんだとしたらジヤーはどうなる?」
アチャンメの質問に「第二王子が王位を継げるよ」と返すシュザーク。
「第二王子?」
「居たかそんな奴?」
アチャンメとキャメラルの言葉に、ミスティラが呆れるように「お前達はまったく…」と言った後で説明をした。
「異母兄弟だ。ホイップ・マド・ジヤー。少し甘ったれが残るが兄思いの子供だ。シェイクの奴はホイップに王は大変だと言い、自身が王位に就くと言っていてシュザークの担い手にはなっていない」
これはアチャンメもキャメラルも知らなくても仕方のない事で、ブラウニーがアチャンメ達が何を言い出すかわからないと言って先回りをし、式典等では「お前達は退屈が嫌いだろう?休むか?いいぞ」とやっていたからだった。
「シェイク王子が担い手なら、雲平は初の選ばれなかった武器になるな!」
アチャンメが「にひひ」と笑って、雲平も「なんでも俺じゃおかしいよ」と返して笑う。
シュザークはそんな雲平を見て「お前は担い手から外した。心が弱すぎる。才能だけならシェイクを上回るがそれだけだ」と言った。
この言葉に顔を背けるセムラとミスティラ。
雲平は不快を表して「は?」と聞き返す。
「お前が素直にビャルゴゥリングを身に付けてジヤーに赴けば、あの半魔半人に劣らなかった。それを過信して、突出して命を落とした。心の火が消えている今のお前は、担い手に相応しくない」
シュザークの言葉に雲平はもう一度「は?」と聞き返す。
「お前は一度死んだ。知るのは我々神獣と不死の呪いのミスティラ。そして命を削りお前を救ったセムラ姫だけだ。まあお前も少しくらいなら違和感を抱いたはずだ」
雲平は先程グェンドゥの前で感じた不安感を思い出してセムラの顔を見ると、セムラは青い顔で泣きそうになっていた。
「お前は半魔半人を見くびり、父の言葉を無視した。その結果、お前は死んだ」
シュザークの言葉に、ミスティラが「本当だ。全てビャルゴゥとグェンドゥから聞いていた」と言う。
雲平は今になって手の震えが酷くなる。
「お前だけが悪い訳ではない。ビャルゴゥリングを身に纏っていたのに、アグリのウォーターガンはあの地球人を貫けず、体表を覆うファイヤーハミングの火に負けた。カヌレもグェンドゥハンマーを振う事に怯えて心の準備などとぬかしていた」
雲平は自身の剣を見るが、シュザークは「一撃で折れたよ。自身の周りを過信し過ぎた。グェンドゥハンマーを始めから使えば剣の代わりになった。ビャルゴゥリングでウォーターガンを放てば勝てた」と言う。
そのままシュザークはセムラを見て、「1年。君の寿命は、1年無くなった。その1年があれば君にはどれだけの輝きがあっただろう?」と言う。
だが、セムラは「雲平さんを助けた今以上の1年はありません」と迷いなく返した。
「グェンドゥが君に授けたのは時戻しの風の魔法。時の風を逆に吹かせる事で時を戻す。だが代償は君の命。10分でおよそ一年の命を削る。これ以上君が時を戻さない事を願っているよ。そして今日以前には戻せない。忘れてはダメだよ?」
ミスティラは「性悪のビャルゴゥと私は話をしておいた」と言う。
ミスティラの話では、未来視で見えた未来はあの日話した他にもある事。
その中で雲平は命を落としてしまい、そうなるとこの戦いに勝つ為の犠牲が3倍近く変わる事。
それを回避する為に、アグリを担い手にする前に氷結結界を覚えさせる事を行い、グェンドゥには猶予を持たせた事。
「当初の予定では、グェンドゥハンマーを手に入れたら一度ジヤーに帰っていた。そしてゲートの再稼働までの間に半魔半人が来て命を落とす。このタイミングであれば、ジヤーを選ばずにシュザークの神殿を選べるからな。だが口に出せばまた未来が変わる。あの性悪は最低限の犠牲と変更で済ませる事にし、グェンドゥの温厚自己中はビャルゴゥに従いつつ、セムラに時戻しの風を授けた」
雲平が話の処理をしきれずにいる中、シュザークは容赦なく「何度目だ?恥を知れ」と言った。
「あのレーゼ撤退戦ではミスティラやセムラ姫は擁護をしたが、お前が大人しくしていればブランモン達は助かり苦しむ事もなかった。ビャルゴゥの所ではお前がビャルゴゥリングさえ身につけたままならば、あの半魔半人を打ち倒していた。そして今回だ…。力があっても心が無ければ無意味。不要だ。地球に帰るがよい」
シュザークは言うだけ言うと二振りの小剣を取り出して、「それは我が神獣武器。シュザークウイング。無事にシェイクに渡してくれ。ゲートは明日まで動かない。今日は休むがよい」と言ってシュザークウイングをセムラに渡した。




