第63話 担い手として務めを果たします。
グェンドゥの神殿にもゴブリン達の進軍に備えた護衛隊が居て、恭しくセムラ達を出迎えた。
だが良かったのはここまでだった。
通された日は「急だったので」で、翌日は「星の巡りが悪いから」と言われて、旅の疲れを癒してくれと言われて結構なもてなしを受けた。
しかも不満が出ないような配慮と言うべきか、水着が支給されて「どうぞ海遊びをしてください」と言われて、半ば強引に水着にさせられる。
この点に不満を述べないのはカヌレくらいなもので、ビキニアーマーからパレオ付きの水着になっていて「布が増えた」と喜んでいる。
急ぐ旅路だと言うのに、グェンドゥへの謁見もままならない事に、雲平やセムラは苛立つ。
そこにきたビキニ姿のミスティラは「恐れていたことが形になったか…」と漏らし怖い顔をした。
「ミスティラ?」
「雲平、お前はこの世界の地図を見たのだったな?」
「うん。シェイクさんの所で見たよ」
「ここはコジナーを上に置いた時、地図で言うところの右下に位置している。わかるな?ビャルゴゥの神殿はジヤーの上側、真ん中にジヤーの城、右下がこのグェンドゥでやや左寄りの下がシュザーク、そして真左がスェイリィになる」
雲平は地図を思い返しながら「うん。そうだね」と言う。
ミスティラは「敵はどこから来る?」と聞くと雲平は「…あ」と言った。
「そう、ここは1番危険がない。そしてその為にここの連中は考えが甘いし、更に言えば運が良かったのは、アゴール達は職務に忠実で熱心。地球人だと言うのもあるが神獣に心酔していない」
「それってどう言うこと?」
「護衛隊になった連中は、少なからず自身が守る神獣こそ四神獣のトップだと思っていて、そこに来たセムラ姫をもてなしてイニシアチブを取りたがっている」
話を聞いて面倒臭さを理解した雲平は「…えぇ」と言う。
「アイツらは、帰す気もグェンドゥの武器を渡す気もなければ、グェンドゥに会わす気もないぞ」
「でもそれならグェンドゥが一声かけてくれれば」
雲平の言葉にミスティラは小馬鹿にしたような表情で「ははっ」と笑う。
「いいか、ビャルゴゥは性悪ならグェンドゥは温厚だ。どこまでもマイペースで怒らない。それがグェンドゥだ。あのウルトラマイペースにこの世界の危機?『なんとかなるよ』で済ますわ!300年前もシュザークとスェイリィが居てくれたからなんとかなったのだ!」
その晩、全員でどうするかを話し合い、翌日正面突破をする事になる。
ここで実力を発揮したのはカヌレで、いくらアチャンメやキャメラルが「クソザコ!どけ!」、「邪魔だゴルァ!」と凄んでも、グェンドゥのおおらかさを浴びた影響のように「悪い言葉遣いはダメですよ」とニコニコ笑顔で返されて、「げぇ」、「マジかよ」となる。
ミスティラにしても「折角の子供の姿ですよ」と言われる。
パウンドは水着女子に何も言えず、更には同年代の友が不足しているので、グェンドゥ護衛隊と仲良くなってしまい、「なんとかなる」と言い出す始末だった。
だがカヌレだけは違う。
「お前達はジヤー人…否!シェルガイ人の気概はないのか!?今もコジナーの進軍に晒されている民達を思う心はないのか!あるならば通せ!」
怒鳴りつけると兵達は目が覚めたようにカヌレに心酔して神殿へと通していく。
これにはミスティラが目を丸くして「なんだぁ?」と言った程だった。
「あ、ようこそ。来たね。ビャルゴゥからよろしくって言われたよぉ」
「久しいなグェンドゥ」
「ミスティラも元気そうだね。海はいいよね?ミスティラは子供の姿なんだから遊びなヨォ」
間延びした話し方の白い象。
おばちゃんトレーナーに酷似した存在がグェンドゥだった。
「昨日散々遊んだ。次は世界に平和が戻ったら来るから安心しろ」
「そう?別に遊べばいいのに。なんとかなるよ?」
雲平は聞いていて苛々してしまうが、セムラ達が大人しい以上黙る事にしていたが、いい加減黙っていられずに「あの」と話しかける。
「あ!君が雲平だね。ビャルゴゥから聞いたよ。解除不能のビャルゴゥリングを外せちゃうんだよね!横の子が君の妹のよもぎちゃん!ビャルゴゥリングは君が持つのかな?」
アグリはビャルゴゥリングを装着して海という事で水魔法の練習をしていた。
アグリはよもぎと呼ばれた事はスルーして「はい。私は持ちたいと思ってます」と挨拶をする。
「うん。いいね。僕もビャルゴゥには止められたけど、グェンドゥハンマーを雲平に渡そうと思ったんだ。だけどやめたよ」
この言葉にミスティラが「ビャルゴゥに張り合うなグェンドゥ」と止めると、「あはは、わかってるよ。1人で神獣武器を持つのは大変だよね。コンビネーションも取れなくなるしね。でも見てて思ったけど、雲平にも僕のグェンドゥハンマーを使えるようにしておくよ」と言う。
「それで、誰を担い手にする?」
ミスティラの言葉に合わせて、アチャンメとキャメラルが手を挙げるが、グェンドゥが選んだのはカヌレだった。
「私!?」
「うん。ビャルゴゥに見せてもらったよ。君なら剣じゃなくても戦えるよね。それに兵達に贈った言葉の力強さは凄かったね。僕のグェンドゥハンマーを持つのにピッタリだよ!」
グェンドゥは白いハンマーを持ち出すと、ハンマーは片手サイズのトンカチだったが、グェンドゥが「戦闘時には使い手に適したサイズになるから安心してね」と言った。
「このカヌレ、担い手として務めを果たします」
「うん。よろしく〜」
この展開にアチャンメが「んだよ。結構アッサリだったな」と言い、キャメラルが「本当だな。こうなると海遊びもやって良かったよな」と返す。
雲平は「俺はグェンドゥハンマーを持つとどうなります?」と聞くと、グェンドゥは「んー…戦い方には向かないけど、風魔法が使えるからハンマーにウインドブレイドを纏わせて、殴る先から斬り刻むのが正解かな」とコメントをする。
グェンドゥは呑気な象のくせに、言うコメントは結構的確でエグい。
「風の大魔法は?」
「風塵爆裂だよ。極細のウインドカッターをコレでもかと飛ばした風の檻に閉じ込めて、溜め込んだ風の力を爆裂…弾け飛ばすんだよ」
雲平は「んー…」と言いながらカヌレの横に行ってグェンドゥハンマーを手に持つと、「風塵…。極細のウインドカッター…わかるな。爆裂か…。多分やれる」と言った。
「だからなんでヤレるんだ?私は不死の呪いと共に神獣の加護を受けたから使えるのだぞ?」
「やれるから良いじゃないですか」
雲平はまたアグリの横に帰ると、グェンドゥは「…本当だ。凄いねぇ」と言う。
「はい?」
「グェンドゥハンマーの使い手はハンマーから一定距離を離れられないんだよ」
「離れられましたよ?」
このやりとりにアグリは「また?」と言い、ミスティラは「もう知らん」と呆れる。
試すようにカヌレは動いたが、ある程度離れるとハンマーが追いかけてくる。
これに「ふむ」と言った雲平は、試すようにグェンドゥハンマーを手に取ってカヌレから離して、自分もハンマーを放置して離れると「出来ますって」と言った。
この後でグェンドゥはセムラとミスティラに話があると言い、一度雲平達は外に出る。
「なあクモヒラ!左手にビャルゴゥリング、右手にグェンドゥハンマーってやれるか!?」
「ヤレるんじゃない?」
「くぅ〜、凄えぜクモヒラ!」
「でもリングはアグリが使うし、ハンマーはカヌレさんだよ」
雲平は笑って誤魔化そうとすると、怒り顔のミスティラが「あのバカ、大事な話をし忘れたと言っている。とんでもない事らしいからもう一度話を聞いてくれ」と言い再び神殿に戻った。
・・・
グェンドゥの話は最悪だった。
今まさに、話している間にジヤーが国府台帝王に攻め込まれてしまい、国王ビスコッティが殺されて、今まさに8人の人間が連れ攫われようとしていた。
「はぁぁぁっ!?」
「なんでシレッとしてんだよ!」
ジヤーが攻め込まれた事に怒り狂うアチャンメとキャメラルに「今行っても勝てないからだよ」とグェンドゥは言う。
勝てない部分を気にした雲平が聞くと、「あの地球人は身体に4体の魔物を取り込んでいて、それもオシコが選んだ魔物達だから、神獣武器が二つだけだとキツいよ」と言う。
「四体?」
「うん。最初に雲平が雷でボロボロにした時は人喰い鬼、次がウインドホース。今回はストロングオクトパスとファイヤーハミングで、再生力ももの凄いからね」
「見えてるのかよ!ならジヤーは!街は!?城は!?」
「城はメタメタだけど街は無事だよ。地球人はファイヤーハミングの力で羽を生やして飛んできたからね。いきなり城に突っ込んでビスコッティを殺して近衛兵を8人捕まえたんだ」
この説明に雲平は目の色を変えた。
「セムラさん!ゲートを開けて!ジヤーに行きましょう!シェイクさん達を救わないと!」
「はい!」
「えぇ、やめなよ。出口をシュザークの所にして次の武器を手に入れるべきだよ」
グェンドゥの言葉を「嫌です」と一蹴した雲平。
ミスティラは諦めた顔で「セムラ、良いのか?」と聞くと、セムラは真剣な顔で頷いた。
雲平たちを見送ったグェンドゥは、遠くを見つめて「ビャルゴゥ、やるだけやったよ。シュザーク、あとはよろしく。スェイリィ、もう少しだから頑張ってね」と言った。




