第60話 あの子は最大の敵だわ。
雲平の剣は国府台帝王を捉えたが致命打にはならない。
それは新たに手に入れたウインドホースの力により、能力の底上げがされていたからだった。
一度目は剣が当たったが、ウインドホースの機動力と人喰い鬼の再生力、そして風魔法により剣の直撃を防ぐ国府台帝王は、仮に傷ついてもすぐに傷を癒す。
剣が思い通りに振れない雲平が苛立ちから「ちっ…」と舌打ちをする中、国府台帝王が「俺が…お前を倒す!」と言いながら殴りかかってくる。
「なに人間みたいな事を言ってるんです?あなたはもう人間じゃない」
「それがどうした!力!仲間!成功したお前を許せるはずがない!」
国府台帝王はムキになって拳を振り回す。
徐々に荒れていく雲平は「黙れ化け物」と言うと、「頭きた。多分やれる。アイスウェイブ!」と言ってアイスウェイブを放つ。
アグリ以上のアイスウェイブ。
国府台帝王の足が凍り付き動けなくなると、雲平は大きく振りかぶって一撃を入れた。
だが剣は国府台帝王に刺さらずに折れた。
「っ!?」
「勝負あったな!」
国府台帝王はアイスウェイブから回復すると雲平を攻め立てていた。
・・・
アチャンメ達が雲平の援護をしようとすると第三波の魔物達を出して足止めに出る。
雲平の剣が折れた事は、前衛で魔物と戦っているアチャンメ達にも見えていて、「ニャロ!」、「ヘブンチタニウムが折れるなんて!?武器がねーぞ!」、「誰でも良い…雲平殿に新しい剣を!」、「ハニー、俺達はコイツらを蹴散らして援護に行きましょう!」と言いながら、今も襲いかかってくる魔物達を蹴散らしている。
「お兄ちゃん!」
「雲平の急成長に剣が耐えられんとは…。恐らく昨日の戦闘で避雷針にしたことと、アゴールに対して力任せに剣を振った事が原因だな」
「ミスティラ!冷静な判断は不要です!援護をしなさい!」
ここに追いついた金太郎が「さて、追いついた」と言い、「雲平の方が足速いから逃して剣を取りに行かせるか…。でもヘブンチタニウムなんて無いぞ?」とボヤく。
金太郎の登場に、アグリが「お父さん!」と声をかけると、金太郎は「おう。アグリ、ウォーターガンの援護を期待してる。俺には当てるなよな」と言った。
「了解だよ」
「後な…」
金太郎は少し照れ臭そうに、「初見の雲平を兄ちゃんって認めてくれてありがとよ」と言うと、アグリは「お兄ちゃんだよ。変なこと言わないで助けてあげてよ!」と言って金太郎を急かす。
「うへぇ…。どうして俺の家族って俺に厳しいの?」
そう言って笑った金太郎は、キレた雲平を彷彿する顔で「行ってくる」と言うと気配が消えた。
雲平は不満一色に折れた剣を睨みつける。
原因が自分にある事は自覚していたが、それでもここ1番で折れた剣を恨めしい気持ちで見てしまう。
そしてやはり得意魔法は雷なのだろう。
サンダーフォールなら息をするように放てるが、水魔法や氷魔法を放つには剣なしでは間が足りない。
「チョロチョロ逃げてだせえな!オイ!」
「お前ほどじゃ無い。お前は俺が殺して名前を日本に連れていく」
国府台帝王が「武器もねえのにか!」と言って更に踏み込んで拳を振りかぶった時、突如背後に現れた金太郎が「だよな?武器くらい取りに行かせようぜ」と言って脇腹に剣を打ち込んだ。
突然の痛みに驚き苦しむ国府台帝王と突然の金太郎に驚く雲平。
「父さん?」
「おうよ。時間稼ぎはしてやる。予備の剣はヘブンチタニウムじゃないから使いにくいだろうが取ってこい。瓜子ならこの状況を見て用意してくれている」
「その力…」
「俺は隠匿と身体強化に目覚めたから奇襲が得意だ」
それを聞きながら雲平は金太郎ごとアイスウェイブを仕掛ける。
国府台帝王はまた表面が凍りつき、金太郎は緊急回避をする。
「てめぇ!?雲平!!」
「かわせたんだからいいじゃん。行ってくるから死なないでよ?ばあちゃんに会わせるまでは死なれると困るんだ」
雲平はそう言いながら瓜子の元を目指そうとしたが、少し前に出ているアグリを見て立ち止まる。
「アグリ?どうして前に出たの?」
「お兄ちゃん!お父さんの援護を頼まれたの。ウォーターガンで援護だって」
「危ないなぁ」
「大丈夫だよ!私はインファイターだよ!」
ガッツポーズのアグリを見て、雲平は「嫁入り前の娘なのに」とボヤくと、アグリが「お父さんとお母さんみたい。とにかくここは任せてお母さんとこに剣を取りに行ってよ」と言う。
金太郎を指差しながら早くしろとせっつくアグリ。
金太郎は今も斬りつけるが、国府台帝王の身体は即時再生していて致命打になっていない。
「うん。剣を取りに来たんだ」
雲平はアグリの左腕に手を伸ばして「ビャルゴゥは水の剣が作れるって言ってた。俺の剣と同じ形、同じ重さの剣だ。ビャルゴゥ、力を貸して」と言いながら集中をすると、暫くして雲平は一振りの剣を右手に持っていた。
「出来た」
「ふわぁ…お兄ちゃんって凄いね」
「凄くないよ。ビャルゴゥの力を借りてだから凄くない。ちょっと倒してくるね」
「うん。お兄ちゃん、気をつけてね」
アグリに見送られた雲平は一気に駆け出すと、右手の剣を見て「名前…水の剣?ウォーターソードとか言うのかな?とりあえずアグリから離れると維持がキツいな。今なんて止まらずにサンダーデストラクションを放ってるみたいだ」とボヤきながら、気配を消した金太郎を探す国府台帝王に向けて袈裟斬りを行った。
恐ろしい切れ味だった。
銅のナイフでバターを切った時のような手応えのなさで、国府台帝王の身体は切断された。
「ぐあぁああぁ!?」
悲鳴と共に崩れ落ちる国府台帝王をみて、雲平は「ようやく殺せる。日本に名前を連れて行きます」と言った時、「やらせないわ!」という声と共にオシコが乱入してきて頭のある方を回収すると、上空に待機していたワイバーンの背に飛び乗った。
「帝王!返事をしなさい!」
「…オシコさん?…すみません。また…」
「いいのよ。良くやれていたわ。異常なのはあの子よ。なんでビャルゴゥリングを身に纏わないでビャルゴゥの力を使えるのよ。あの子は最大の敵だわ」
「最大の…敵?」
「ええそうよ。レーゼで取り逃がした私の失態。地球にワイバーンを送り込んで倒せると思っていた私の失態よ」
オシコはそのまま「次こそあの子を殺すわ」と言うと遠ざかっていく。
雲平は倒せるはずの国府台帝王が逃げる事に苛立って「逃すか!」と声を荒げる。
「アグリ来て!ビャルゴゥリングを貸すんだ!サンダーデストラクションじゃ耐えられるからウォーターガンでワイバーンごとオシコを撃ち殺す!」
そう言ったが、横に来たミスティラが「やめておけ。たとえ勝てても援護が期待できない以上、お前かアグリは確実に命を落とす」と止める。
「でも!」
「やめろ。無理している。お前が魔法切れで倒れれば、姫も無事では済まない」
セムラの名前を出された雲平はようやく大人しくなる。
金太郎はまた気配を消していて、探すとアチャンメとキャメラルと連携を楽しんでいた。




