第58話 今度こそアイツを殺さなきゃ。
雲平が「決まりました。とりあえずリング出してください」と言うと、ビャルゴゥは「性悪と呼ばれる私より無茶苦茶だな」と返してくる。
「こんなものです。とりあえず担い手には選ばれたんですよね?使って死んだら祟りますよ?」
「それはしていない。安倍川雲平、安倍川よもぎ、お前たち2人は私が選んだ担い手だ。どちらが使っても良い」
ビャルゴゥは一度水底に降りて行くと戻ってきて腕輪を出した。
「ビャルゴゥリングって腕輪?指輪じゃないんだ」
「勝手な想像だな」
「水底ってどれくらい深いんです?」
「麓より深いぞ」
「ちなみにこのリングで殴るんですか?」
「水魔法がかなりの軽減で放てるようになる。普通なら10使う所が2くらいで済むし、成長度も上がる。どうだ?気に入ったか?」
「まあ聞いている分には。でも使うだけで戦争終わったら放棄しますよ」
「それはできると良いな」
「水魔法はミスティラが知ってますか?」
「ああ、あの子に水魔法と氷魔法を授けたのは私だからな」
「ふーん、剣とか出せます?」
「出せるぞ」
この説明に雲平は躊躇なく腕輪を手に取ってはめると、「今度こそアイツを殺さなきゃ」と言って「セムラさん、行きましょう。アグリも行こう」と言った。
雲平が振り向いた時、セムラは泣いていて、雲平が「セムラさん?」と聞くと、「もし日本に帰れなかったら、もしビャルゴゥリングが外れなかったら、かのこさんになんて謝れば」とセムラは言うと、顔を覆ってワンワンと泣いてしまう。
セムラの涙を見て「…決めた」と言ってキレた雲平は、「ビャルゴゥ、人喰い鬼の国府台帝王は来てる?」と聞く。
「会敵している。今はまだ雑兵達とあの子達が戦っていて、後ろでふんぞり返っているな」
「わかった。ありがとう」
雲平はセムラを抱えて神殿の外に出ると、身体強化を使ってみたがいくら雲平でも国府台帝王は小さくしか視認出来なかった。
「当たるかな」
そう言った雲平は装着したビャルゴゥリングのある左腕を前に突き出して、「アイツがやった水魔法、あの水鉄砲を俺も撃つ。もっと高威力で高水圧だ」と言った。
追いかけてきたアグリ達が「お兄ちゃん?」、「雲平?何をする?」、「雲ちゃん?」と声をかけると、「黙って、集中してる。水鉄砲をここから撃ってアイツに当てるんだ。的が小さいからかなり集中しないといけないんだ」と返す。
この言葉に瓜子は前に出て雲平の横に立つと、「雲ちゃん。お母さんが観測手を勤めるわね」と言った。
「母さん?」
「お母さんの身体強化は目とか感覚の強化ばかりで身体はあんまりなのと、後はヒールしか使えないけどやってあげる。雲ちゃん、指先から真っ直ぐ撃ちなさい。それの観測をするわ」
瓜子は「身体強化」と言うと、そのまま「惜しいわ、右に2ミリくらいよ…ええ、後ほんの少し、爪の先くらい右、風があるせいで頭には当たらないから胴体にするわよ。下に1ミリ」と指示を出す。
雲平も親子だからだろう。大人しく従いキチンと射線に国府台帝王を捉えると、瓜子が「撃ちなさい」と言い、雲平は躊躇なく「出ろ!水鉄砲!ウォーターガン!」と唱えた。
圧倒的水飛沫。
国府台帝王の放つ貧相な水鉄砲とは比べ物にならない超高圧の水が指先から出ると、物凄い速さで国府台帝王の身体を貫通し、国府台帝王は突然の事に蹲り苦しむ。
「当てやがった」
「お兄ちゃん凄い!」
「お手柄よ雲ちゃん」
「いや、母さんのおかげ」
雲平は微笑み返すと、今も泣いているセムラに「セムラさん、ここから当てましたよ。見てくれました?」と聞く。
セムラは泣きながら「はい」と言って、雲平の腕についているビャルゴゥリングをみてまた泣こうとする。
「確かにコイツは強いですね。これのおかげで長距離射撃も出来ましたね」
「はい。すみません」
「何謝ってるんですか?別にこんなものは外せますよ」
雲平はビャルゴゥリングに指を通すと、「ちっ…外れろよ」と小さく言って力任せに外して、「ほら、取れましたよ。取っても死にませんよ」と言ってセムラに笑いかけた。
「え?雲平さん?ビャルゴゥリング…」
「外しました」
「え?だってビャルゴゥ様が…」
「外れましたよ。信じられないなら父さんに行かせますよ」
雲平はそのまま「父さん、ビャルゴゥに外すようにしたか聞いてきて」と指示を出すと、金太郎は慌てて神殿に戻って秒で帰ってくると、「ビャルゴゥが何にもしてないって、何で外せるんだって…言ってたぞ?」と言う。
「ほら、やってみればできましたよ。これで戦争は勝てますからね!」
雲平の笑顔にまた泣いたセムラは、「良かったです。かのこさんたちに申し開きが出来ないと思っていました」と言った。
「さて、サッサとアイツを倒したら次の神獣武器を手に入れましょう」
雲平はセムラを抱くと下山を始める。
横でアグリが「お兄ちゃん凄いね」と言ったが、雲平は「何にもしてないよ。撃てたし取れたんだよ」と言って笑った。
「お兄ちゃん、私も担い手なんだけど…」
「あ、アグリもつける?いいよ」
雲平はビャルゴゥリングをアグリに渡した。




