第57話 嫌です。ダメです。認めません。
ビャルゴゥの神殿に残された雲平、セムラ、金太郎、瓜子、アグリ。
誰が何を話すべきか考えていると、ビャルゴゥが「どうする?間も無く戦闘になるぞ。あの人喰い鬼の奴、人喰い鬼だけでは飽き足らずにウインドホースまで取り込んで強化されている」と告げる。
本当に底意地が悪い鯉に、雲平は苛立ちながら「黙ってろ魚、洗いにするぞ?」と言った。
それは普段の雲平らしからぬ発言でセムラは目を丸くしたが、金太郎と瓜子は「やっと俺たちの知る雲平になったな」、「本当、昔の雲ちゃんは口が悪かったわよね」と言う。
非常事態の和気藹々とした空気感に、セムラとアグリは困惑してしまう。
「で、困ったな」
「困ってるのその顔?」
金太郎の言葉に雲平が言い返すと、瓜子が「見えないわよね」と笑う。
「困ってるさ。隊員の事を考えれば、雲平かアグリにビャルゴゥリングの担い手になって貰いたい。婆さんの事を考えれば、雲平を日本に帰す為にアグリに頼む事になる」
アグリはビクつくが、雲平は優しくアグリの頭を撫でて「俺は反対」と言うと、瓜子も「勿論よ」と言う。
アグリが不安げに「お兄ちゃん?お母さん?」と聞き返すが、2人は返事をせずに雲平が「なんかこうモヤモヤするんだよね」と言い、金太郎が嬉しそうに「お、久しぶりに聞いたな雲平のモヤモヤ」と言って笑う。
「あの…雲平さん?皆さん?」
「セムラさんも話そうよ。俺は日本に帰ります。でもアグリを犠牲にはしない。そして被害は出させたくない」
「え?それは?」
「お兄ちゃん?無茶苦茶だよ?」
「なんで?」
「なんでって、ビャルゴゥ様は私が選んだらお父さんとお母さんがお兄ちゃんと日本に帰るって…」
アグリは言いながらトーンダウンしてしまうが、雲平は「それだよアグリ!そもそもそれがモヤっとしたんだ。この2人が日本でやれるわけないのに帰る?それがあり得ないんだよ」と言い、アグリは「えぇ!?」と返す事しか出来ずにいる。
「あの、ですが仮に雲平さんがビャルゴゥリングを身に付ければ、大人になったアグリさんが日本に行くと…」
「それもなんかなぁ。アグリって行くなら今年中に行きそうだし、大人っていうのもなんかモヤッとするんですよね」
「でもお前、ビャルゴゥリングを身に付ければ王だぜ?俺や母さんも楽できるってもんよ」
「そうよね。お妃様は誰かしら?」
勝手に雲平の将来を想像して盛り上がる金太郎と瓜子に、雲平は「偉くなんてなりたくないよ。それに俺が王様だったら父さんは即牢屋だよ」と言う。
金太郎は甘えるように身振り手振りで「ひでぇ!?何でだよ!助けてくれアグリ!雲平が俺を虐める!」と言ってアグリに話しかけると、アグリは「んー…。お父さんは好きだけどお兄ちゃんに賛成かな。楽したいとかダメだよお父さん」と言った。
「…瓜子ぉ…。子供達が優しくない」
「うふふ。楽しい4人家族ね。ここにお義母さんまで来たらどうなるかしら?」
金太郎は見える未来に肩を落として「嫌すぎる」と言う。
「まあそうなるよね」
「うふふ。そうね。その時にはアチャンメさんやキャメラルさん、セムラ姫もご一緒しましょう?」
「え?…私もですか?」
「嫌かしら?」
「いえ、嬉しいです。後はカヌレとパウンドとミスティラとあんこさん」
「あら楽しそうだわ。アグリ、それなら皆に会えるかしら?」
和気藹々の空気にアグリは「…うん。楽しそうに思えたよ」と答えた時、雲平は「見えた!」と言ってニコニコ笑うとそのまま「何とかします」と言った。
セムラは心配そうに「何とかですか?」と聞き返すと、雲平が食い気味に「はい」と返す。
「何をするんですか?」
「ビャルゴゥリングを貰って戦って終わったら放棄します。それで俺は日本に帰ります」
「ええぇぇぇ?お兄ちゃん?」
「アグリは自由だからね。アグリは戦争が終わったら一回俺とばあちゃんのところに行こうよ」
「ビャルゴゥリングは?」
「放棄だよ放棄!」
ここでいよいよビャルゴゥが「随分好き勝手言っているな安倍川雲平」と声をかけてきた。
「好き勝手言ってるのはお互い様ですよ。勝手に王になるとか、アグリを置いて行くとか、それ気のせいの勘違いですよ。俺の両親はウルトラダメ人間なんです。日本になんて帰るわけがありませんよ。アグリは大人になる前に日本に行きます」
「ほう。ではどうする?試してみるか?我がビャルゴゥリングを装備して外せなかったらどうする?この世界で生きるしかないぞ?」
「それ、地球のゲートに入った人って居るんですか?居ませんよね?入れなかった時に方法考えました?しませんよね?そもそも日本人が装備しました?シェルガイ人だけですよね?」
雲平の表情に不安になったセムラは「雲平さん…ビャルゴゥ様ですよ?」と言ったが、雲平は「じゃあセムラさんはこの戦争に絶対負ける。クラフティの虐殺が止められない、オシコがレーゼを滅ぼすってビャルゴゥが言ったら受け入れて何もしませんか?」と返す。
セムラはキョトンとした顔で「え?嫌です。ダメです。認めません」と言うと、笑った雲平は「だから俺はビャルゴゥリングを装備しても日本に帰ります」と言い切った。




