第51話 止めてやったけどお前らおかしいぞ!?
オークの後始末は終わったが、雲平の顔はまだ怖い。
だがこの顔しか知らないアグリは、ごく普通に「お兄ちゃんすごいね」と声をかけ、雲平は「そんな事ないよ。凄いのはアグリだよ。ありがとう」と返した。
雲平は国府台帝王が逃げた方角を見て、「次こそ殺さなきゃ」と言ってから、アチャンメとキャメラルを見る。
「逃しちゃった」
そう言って肩を落とす。
「いや、マジ強えッテ」
「本当ダヨ」
キャメラルは雲平に「姫様がテントでお待ちかねだ。顔が怖いから早く腕揉め。じゃなきゃアチャンメを揉め」と言うと、アチャンメは「だから何だそれ?私?」と返す。
キャメラルは真っ赤になって身震いすると、「アチャンメは知らないから余裕なんだよ!ビシャビシャなんだ!」と言ったが、アチャンメは何を言われたかわからない。
「とりあえず休憩しようぜ。この隊の隊長とか戻ってきたなら、挨拶してビャルゴゥの所に行かねーと」
そうアチャンメが言うと、アグリが「アチャンメお姉さん。隊長は私のお父さんだよ。もうビャルゴゥ様の神殿から帰ってきてるよ」と言った。
「マジか、アグリの父ちゃんなら隊長って地球人なの?」
「私達知らないから驚きダナ」
そんな話をしてると、前から男と女が歩いてくる。それは隊長とメロンだった。
・・・
アグリは「お父さん!お母さん!」と言って手を振って先に両親の元に行く。
「私!お兄ちゃんに教わってアイスウェイブと氷結結界が撃てたのよ!」
「見てたよ。凄かったぜ」
「本当、凄かったわよ。でも先に挨拶をさせてね」
男は前に出て、アチャンメとキャメラルに敬礼をして名乗る。
「荒熊騎士団アチャンメとキャメラルとお聞きした。俺はビャルゴゥ護衛隊の隊長アゴールで、こっちは副隊長でカミさんのメロンだ」
「ああ、私がアチャンメ、こっちがキャメラル。そして後ろにいるのが…」
その瞬間、恐ろしいまでの殺気が辺りを覆った。
アチャンメとキャメラルすら息苦しさを覚える殺気に慌てて振り返ると、「なんで…」と言った雲平がアゴール達を睨みつけている。
アゴールは雲平を見て「久しぶりだな雲平」と言い、メロンは「雲ちゃん、大きくなったわね」と言う。
「父さん…、母さん…、何やってんの?」
この言葉にアチャンメとキャメラルが、「クモヒラ!?」、「2人がクモヒラの両親 !?」と慌てたが、その間に雲平は剣を抜くと、父安倍川金太郎に斬りかかった。
金太郎は慌てて剣を抜くとそれを受け止めて、「やめろ雲平!」と言ったが、雲平は「ばあちゃんは今も2人を心配してる!」と言いながら、国府台帝王を圧倒した時以上の動きで剣を返して更に斬りかかる。
「なんだその実力!?シェルガイ適性の塊かよ!」
必死に剣を弾く金太郎。
「お父さん!やめてよお兄ちゃん!!」
アグリは止めようとするが雲平は止まらない。
「7年も何してた!ばあちゃんはこの前なんて風邪引いて死にかけた!その間も全部俺が世話をした!お医者さんにも何やってんだって怒られた!その間、父さんと母さんはシェルガイで何してたんだ!なんで娘がいる!なんでアグリがいる!なんで教えなかったんだ!!」
キレた雲平の攻撃力は果てしなく、今も「帰れよ!日本に帰れよ!ばあちゃんに謝れよ!声を聞かせろよ!姿を見せてやれよ!」と言いながら斬りかかると、金太郎は防ぎきれなくなり細かな切り傷が増えてくる。
「キャメラル!止めるぞ!」
「アチャンメ!右だ!」
アチャンメとキャメラルが雲平に飛びついて、「やめろクモヒラ!落ち着け!ひとまず姫様の腕を揉めって!」、「腹減ったから飯食おうゼ!話はそれからだ!あの人喰い鬼がまた来る前に体制を整えんぞ!」と言う。
だが、キレた雲平は止まらずに「離してアチャンメ!キャメラル!」と言って、なんとか2人を振り解こうとする。
それでも必死にしがみつく2人にキレた雲平は、「サンダーデストラクション!!」と言って魔法を放ったが、サンダーデストラクションは発動せずに雲平は気絶をした。
金太郎は冷や汗をかきながら「危ねえ、雲平の奴魔法切れだな」というと、横に来た母瓜子が「本当、あれだけ魔法を放って、アグリにアイスウェイブと氷結結界まで使わせたのだから倒れるわ」と返す。
「てか俺の息子凄過ぎねえ?」
「凄いけど、やっぱり連絡はするべきだったのよ」
「でもよぉ。それにしてもなんで俺だけなの?」
「私、雲ちゃんとは仲良しだもの」
会話のラリーに苛立ったキャメラルが、「おい!止めてやったけどお前らおかしいぞ!?クモヒラと婆ちゃんは、ずっと地球でお前達を待ってたんだぞ!」と怒鳴った。
そこにアグリが出てきて「お父さん…私のせい?」と聞く。
金太郎はアグリの頭を撫でて、「違うさ、俺たちがシェルガイを好きなんだよ」と笑い、キャメラルに「怒ってくれてありがとう。後で説明するよ」と言った。
倒れた雲平の頬には涙が伝っていた。




