第43話 話がデキル?気持ち悪ぃ!
ビャルゴゥの神殿から出てきた三つの人影。
「お父さん!陣地が!」
「やれやれ、酷えから行けって無茶苦茶だな」
「急ぎましょう!」
1人は少女で1人は中年男性。そして最後は中年女性だった。
「慌てんなって、ビャルゴゥの予言なら、この戦いを切り抜けると、ビャルゴゥの元に向かうべき人間、新たな担い手がわかるっていうんだから、焦らなくてもなんとかなるって」
男の言葉に中年女性が「私達の頑張りまでビャルゴゥの予言だったらどうするのよ!」と怒鳴り、少女が「お母さん!お父さんは無視して行こうよ!」と言って走り出した。
「おい!危ないから待てって!よもぎ!!」
「待てない!」
よもぎと呼ばれた少女は、「身体強化!」と言うと一気に下山していく。
「あなた、よもぎ呼びも良いけど、あの子はシェルガイ人になりたいのだから、アグリと呼んであげて。後は急ぐわよ?嫁入り前の娘に怪我なんてダメよ」
「うぇい…。メロンさんはキツいねぇ。身体強化!」
中年男性はメロンと呼んだ女性を抱き抱えると、加速をして一気にアグリに追い付いた。
「アグリ、急ぎすぎだ。余力を残せ」
「残してる!皆を守るの!」
「おうおう、大人しくしてりゃあ、絹のような黒いロングヘアの美人さんなのになぁ」
「なに?文句ある?お母さんつねって」
「隊長様だから終わってからね〜」
「メロン、視野を広げて状況把握をしてくれ」
「ええ、身体強化」
メロンの身体強化により、アチャンメ達の活躍が見えてくると、「あら、援軍だわ。3人のベテランさんが立て直してくれてるけど、手が足りないわね」と言う。
「お母さん?手?」
「前衛で隊を引いてくれる子が軽量騎士で、ゴブリンは良くてもオークと人喰い鬼には耐えきれてないわ。あの動き…普段はパートナーが居る感じね。1人だと息継ぎなんかが苦手なのね」
「残りの2人は?」
「不思議よ、1人はアグリより幼い女の子だけど、かなりの魔法の使い手よ。もう1人は中衛の槍使い。攻め込みたいけど、魔法使いの子が心配で前に出られないのね」
「じゃあお母さん!手が足りないのは?」
「前衛よ…あら?」
「どうしたメロン?」
「魔物の動きが魔物らしくないのよ、前衛の子を執拗に狙ってる。魔法使いの子や槍の子が手を出すと、代わりに手薄な所ばかり狙ってる」
「厄介だな。アグリ、前衛に入って前衛の言う通りに動け。突出するな、俺は母さんに負傷兵を任せたら追いつく」
「了解だよ。お父さん、お母さん、行ってくるね」
よもぎ…アグリは加速を始め、中年男性は「娘ってのはいいな」と言いながら後を追った。
・・・
「ダリィ!クソウゼェ!!」
アチャンメは熱くなっていた。
キャメラルは足手まといではなく、暴走しやすいアチャンメをうまく転がしていた。
だが今キャメラルは居ない。
姑息にもミスティラの魔法範囲の外からこちらを伺う人喰い鬼、アイツさえ倒せば敵は総崩れになると思っていた。
・・・
どんどん怒りの募るアチャンメは、「パウンドぉぉっ!頭キタ!一気に勝負に出んぞ!」と声を荒げたが、パウンドからは奴は囮だと言われる。
「魔物のくせにクソウゼェ。だが長期戦がキツいぞ、一気に勝負に出ないとジリ貧になる!」
アチャンメの言葉に、横を駆け抜けた緑色の皮ジャケット装備の少女…アグリが「賛成!前衛ってお姉さんだったんだね!行こうよ!指示して!」と言った。
「はぁ!?」と聞き返しても、「早く!」しか言わないし止まらない。
ニヤリと笑ったアチャンメが、「クソっ、キャメラルがいねーでセーセーしてたってのにまた妹か?パウンド!この兵達は任せるから壁作って伏兵に備えとけ!」と言って前に出た。
アグリに追いついたアチャンメは、「おう!嬢ちゃんはやれんのか?」と聞く。
「アグリ!私の名前!お姉さんは!」
「アチャンメだ!覚えとけ!」
アチャンメはひと目見てわかる地球人の少女を見て、「また地球人カヨ」と言いながらも「着いてこれたら褒めてやる!行くぞぉぉっ!」と言ってさらに加速をする。
アチャンメが向かってくるゴブリンを蹴散らして背後を見ると、アグリはそれとなく及第点の動きで、次のゴブリンを蹴散らして、「お姉さん!オークの足止めをするからトドメを刺して!」と言う。
アグリが「アイスナイフ!」と言って氷のナイフを生み出してオークの目に向かって投げつける容赦ない攻撃に、オークが後ずさるのをアチャンメは見逃さない。
もう一度加速して心臓に向けて剣を突き立てると、「デカブツ倒すと気分いいぜぇ!」と言って笑う。
「お姉さん!次私!」
そうアグリは言って、手に持ったダガーナイフでゴブリン共を蹴散らしていると、アグリを狙うオークの腕をアチャンメが斬り飛ばす。
そこに飛んでくるアイスナイフは胸に当たるが致命傷ではない。
「お姉さんゴメン!」
「しゃーねぇー……な!」
アチャンメの蹴りでナイフが心臓に届き、オークは息絶える。
「わ!わ!嬉しいよお姉さん!」と言って敵から目を逸らさずにハイタッチを求めるアグリ。
アチャンメは可愛がるようにハイタッチを返して、「親玉だ、人喰い鬼だから捕まんなよな」と言って、アグリも「うん!」と返したところで動きは止まった。
人喰い鬼はアチャンメとアグリを見てニヤリと笑うと、「シェルガイ人と日本人……。お前らのせいで俺はこんなになった」と言い出した。
動きを止めて「話がデキル?気持ち悪ぃ!」と悪態をつくアチャンメに対して、アグリは真っ青になって「日本人?」と言っている。
人喰い鬼は顔だけ人間の顔になる。
その顔は、かつて雲平に助けを求めた国府台帝王の顔だった。




