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彼と彼女のデザイア。  作者: さんまぐ
シェルガイ-神獣武器を求めて。

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第40話 特殊な親のせいで不便をかけたね。

「姫様、大丈夫カ?」

「アチャンメこそ大丈夫ですか?」


セムラは必死にビャルゴゥの神殿に向けて歩いていて、服装は寒村で着替えた質素なものに変わっていた。


「私は余裕だっての。キャメラルも雲平と居たなら怪我一つしてねーって。でもなんで雲平とキャメラルだけ地球なんだろな?」


アチャンメの質問にセムラが答える前に、ミスティラが「セムラ、お前はあの時雲平の行き先だけ、地球にしたいと願ったな?」と言う。


「姫様?ナンデダ?」

「…グラニューの剣で傷付いた雲平さんを…、お兄様の剣を受け止める雲平さんを…、そしてオシコの本気を見た時に、心のどこかで雲平さんには傷付いてほしくない、地球で待つかのこさんとあんこさんの所に帰さなければと思いました」


セムラが表情を暗くして、想いを口にするとミスティラは厳しい意見をした。


「セムラ、確かに雲平は地球人だが戦士だ。お前は姫として決断すら必要となる。覚悟を持て。戦いから離しても雲平はシェルガイに戻ってきた」


ミスティラの言葉に暗く俯くセムラだが、アチャンメは「なんで帰ってきたんだろ?シェルガイが良くなったカナ?」と言いながらも、「でもクモヒラ居ると楽しいから嬉しいヤ」と言う。


嬉しい。

そう。


セムラにもアチャンメのような素直さが有れば、どれだけ良かったか。

アチャンメの言葉にも反応しないセムラに、アチャンメが「まあ姫様の腕が忘れられねーのかもな」と言うと、セムラは真っ赤になって「ええぇぇぇ?アチャンメ!?」と慌てる。


「にひひ。嬉しいカ?」

「冗談はやめてください」

「えぇ?マジ話だっての。姫様こそ一人で腕揉んでみたか?気持ちよかったか?」

「ふぇっ?」

「きっと雲平に揉まれる方が、気持ちよくて物足りねーぞ?帰ってきたクモヒラに感謝だナ!」


アチャンメのニヤリとした笑いに、ミスティラが「言い過ぎ行き過ぎだ。変なことを教えるな」とツッコミ、セムラには「お前は姫なのだからな、くれぐれも忘れるなよ」と釘を刺した。


「なあ、ビャルゴゥの神殿まで後何日だ?」

「まあ、思いの外セムラが歩けているから、悪くない進み具合だ。このペースなら2日で神殿の麓、翌日の午後には神殿に行けるな。何でか神とか偉い奴らは上に上に住みたがる。山登りなんかしたくないのだがな」

「ふーん、あの名前のねー村からもう6日だから、予定ならキャメラルとクモヒラは、ジヤーの城を出て向かってるな」


アチャンメの思わぬ言葉に、ミスティラが聞き返す。


「向かう?」

「賢者ってもバカだなー。レーゼの城でクモヒラは最後にブチギレたんだぞ?ブチギレたクモヒラは、姫様の腕がないと落ち着かねーからキャメラルなら出発させるよ」


「…そんなになるまで依存してるのか?」

「んー、メシ食う前に手を洗う感覚?朝起きたらおはようって言う感覚?」

「…シュートレンの奴とブランモンになんと詫びれば良いやら…」


ミスティラはセムラを見てため息をつくが、セムラは心ここに在らずで「雲平さん…」と呟いていた。



・・・



ミスティラの視線の先に見えるのはセムラだけではない。

カヌレとパウンドも居る。

パウンドはニコニコと「ハニー」と何度も呼んだり話しかけて、カヌレは顔を真っ赤にして必死に「だ…だだだだ…ダーリン」と練習している。


カヌレは惚れるかどうかは定かではないが、レーゼの城でオシコの放った特大の氷を打ち砕く時に、惚れると約束したことでムキになって練習している。


そしてミスティラは若干後悔していた。

恋愛経験がなく、古い盟約に誓ってパウンドを差し出してきたパウンドの両親。

そもそもは、ミスティラのお供として生きてきたパウンドの両親、その両親もパウンドからすれば祖父母が世話をしていて、代替わりを行ってきていた。


始まりは、ある村に突如群生した毒カズラの毒から家族を救われた村一番の腕自慢が、ミスティラの従者になりたいと言い出した時、ミスティラは三度目の人生を終えようとしていて心身共に疲れ果てていた。


夫と子供を見送り、また1人だけ子供に戻る。

そしてまた大人になる。

親しい友を何人も亡くしてきた。

不死を妬まれ羨ましがられる生。

だがこれは罰で呪い。


コジナーが、自身の土地に生まれたゲートから現れた魔物を、討伐するでもなく土地を捨てるのではなく、制御をしようとあの手この手を尽くしてしまったことに神々が怒り、ミスティラに責任と罰として不死の呪いを授けた。


身体の欠損は次の生で蘇る。

三度目は死んでも構わないとしてかなり無茶をした。

毒物を飲んでみて、左脚に不自由を被った。

魔物に肉弾戦を挑んでみて、左の指を一つ失った。


即時再生ではなく、次の生で五体満足な赤子の姿に戻るのは四度目の時に知った。

下の世話は、老人の時と赤ん坊の時が連続しているので、恥はすぐに捨てられた。


一度目は独りで生きた。

心細さなんて無かった。

コジナーの始末に明け暮れ、レーゼの力でコジナーをゲートの力で封印して、溢れた魔物をジヤーの神獣武器で狩り尽くしたら、適齢期なんてものはとうに過ぎていた。


二度目の時に初めて結婚をした。

子も産んだ。

だが先に死んだ自分は赤子の姿に戻り、老齢の夫と子供に世話をされ、五歳の時に夫が死に、二十歳のときに子供が死んだ。

孫達には自身が賢者ミスティラである事を告げて縁を切った。


三度目の夫は、足が不自由で指のない自分を気にせずに結婚を迫った。

ミスティラだと打ち明けたが、「じゃあ物知りなんだね」、「凄いね」としか言わないし、敬意も何もない自然体できて、なし崩しに結婚していた。

もう結婚をしないと誓ったのに結婚をしていた。

初夜を迎えた日、生まれ変わっていたのに身体は生娘では無かった。

夫に謝ったが「僕は自身が初めてで、ミスティラを困らせないか心配だったから良かったよ」と言われてしまった。


敵わないと思って愛に最大限応えた。


そしてまた終わりが近付く。

ミスティラは決して孫とは繋がりを持たない事にしていた。


終わりが近づき、不自由な左脚のせいで、二度目以上に子供の世話になった時、家族で暮らした土地を捨てて、レーゼとジヤーの真ん中で命を終えたいというワガママを、息子が叶えてくれる時に立ち寄った村でパウンドの先祖を助けた。


そこで息子からパウンドの先祖に世話が代わった。


「特殊な親のせいで不便をかけたね」

「母さんのお陰で僕は知識自慢になれたよ。ありがとう」

「私は過去を捨てて四度目の生を生きる。サヨナラだ」

「うん。賢者ミスティラの活躍を聞くたびに、心の中で僕の母さんはなんて凄いんだろうと思うようにするよ」


別れはそれだけだった。

抱きしめあってサヨナラを言い合って終わる。

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