第38話 この世界にもワイバーンって居るのな。
異変の兆候はあった。
訓練中に雲平は剣が軽くなってきた気がすると言い、キャメラルは「んな訳ねえだろ?でもクモヒラは強いからなぁ」と言って喜んでいた。
バニエは氷能力者で身体強化は持ち合わせて居ないので、雲平の感覚は分かりかねていた。
シアトル行きの飛行機の中でキャメラルは腰を抜かしていた。
「鉄の鳥で空を飛ぶのカヨ!?」
「ヤダよ!飛ばないヨ!」
「怖いってクモヒラ!!」
そう叫んでいたが、気付けば「うわー、高ーい!」と喜んでいて、窓の外を見ている。
流石に飛行機は貸切ではなく、普通の旅客機で他の乗客も居る。
見送りのバニエは「私もシェルガイに行きたいが、日本のゲートを守るのが仕事なので我慢します」と言っていた。
「キャメラル、向こうに着くと夜だけど、朝だから眠かったら言ってね」
「何だそれ?まあわかった」
雲平とキャメラルは、シェルガイの服ではなくバニエが用意したスーツ姿で、成田に到着するなり着替えさせられた。
困惑の雲平にバニエが、「日本代表、レーゼ代表だからです」と説明をしてきて納得をした。
・・・
海の上を飛んでいる時、窓の外を見ているキャメラルがとんでもないことを言い出した。
「なあクモヒラ」
「どうしたの?トイレ?喉乾いた?」
「違うよー。この世界にもワイバーンって居るのな」
「ワイバーン?」
「翼竜だ。しかも大型のワイバーンなんてレアだな。あれ一つで街が大打撃を喰らうし、騎士達もかなりヤられる。この飛行機って魔法使いとか乗ってるノカ?」
雲平は嫌な汗が噴き出してきた。
ワイバーンなんて目撃例はない。
「キャメラル!外見せて!」
慌てて雲平が窓の外を見ると、茶色い体表の翼竜が飛行機のそばを飛んでいて、大きな口を開けて威嚇してきた。
飛行機はすぐにパニックになる。
雲平は客室乗務員を呼ぶと、「機長さんと話をさせてください。日本政府のシェルガイ担当のバニエと、アメリカのシェルガイ担当に至急連絡を、後は万一に備えて俺とキャメラルの剣を持ってきてください」と伝える。
雲平は一般客と同じ飛行機だったが、客室乗務員達は説明を受けていたのでその部分はスムーズに動く。
「キャメラル、ワイバーンの攻撃は?体当たりとか噛み付きとか?」
「後は火を吹くぞ」
「火?何か火を吹く為の器官を持ってるの?」
「いや、魔法だ。火の魔法を放つ能力を持った翼竜だ」
「ならこっちなら魔法は無いから体当たりとかか…、自衛隊とか飛んできてくれるかな…」
雲平が納得をしている時、ワイバーンは口から火を吹いた。
「キャメラル?」
「何で魔法が使えんだよ?」
そこに重そうにカオスチタンの剣を持ってくる5人の客室乗務員。
「あ、重いの忘れてた」
雲平は謝りながら聞くと、どちらの国も至急対応するが、とても間に合わないと言う。
「あれ?持てるゾ?」
カオスチタンの剣を軽々と持つキャメラル。
そのキャメラルを見て目を丸くする客室乗務員達。
理由はわからないが、ワイバーンが地球に降り立ち、魔法である火を放つ。
そして身体強化が無ければ重くて、とても片手で持てないカオスチタンの剣を持つキャメラル。
この世界にも魔法がある。
それに気付いた雲平は「キャメラル!持たせて!」と言ってカオスチタンの剣を手に取って、「持てる…。あるんだ」と言うと、「俺がなんとかします。機長さんと話させてください」と言った。
・・・
雲平が機長に聞いたのは、飛行機の雷への耐性についてだった。
雲平は知らなかったが、飛行機は常に静電気が帯電しているようなものなので雷への耐性はあった。
「君?何を?」
機長の言葉に雲平は「倒します。すみませんが前か真横、視認できる場所に飛行機を動かしてください」と言った。
横で見てたキャメラルは、「クモヒラ、顔がやべーよ。アンコも姫様もいねーんだからナ」と言うと、雲平は「あはは、気をつけるよ。とりあえずキャメラルを抱っこして頭撫でるかな」と言うと、キャメラルは「遂に私の出番か!任せとケ!」と喜んだ。
その間も飛行機は微調整をするが、ワイバーンは決して背後を渡そうとしない。
「ニャロ…、この飛行機は小回り聞かねーな」
「本当、横付けしかないな」
「クモヒラ、横について体当たりがあぶねーから、助走のタイミングで倒セ」
「…了解だよキャメラル」
雲平は機長に「横付けで、奴が体当たりのために、助走を付けるのでそこで倒します。逆方向に逃げつつ視界からは外さないでください」と頼むと、客室乗務員と一緒に客席に戻る。
乗客達はスマホを取り出してワイバーンを撮るもの、家族にメッセージを残すもの、泣く子供をあやすものと沢山いたが、雲平はその全てを無視して客室乗務員とキャメラルに、「タイミングは伝えます」「キャメラル、指示出しして」と言う。
「任せろ!奴が苛立ってやがる。離れすぎると火が来る!煽れ!」
キャメラルの言葉に飛行機が従うと、ワイバーンは一気に体当たりの姿勢になる。
「クモヒラ!撃て!」
「サンダーフォール!サンダーボルト!サンダーデストラクション!」
雲平は癖なのか、剣をワイバーンに向けて魔法を放つ。
雷の雨はコレでもかとワイバーンに直撃して海に向かって落ちていった。
雲平とキャメラルがハイタッチで、「やりぃ!お疲れクモヒラー!」、「ありがとうキャメラル」とやりながら、客室乗務員に「倒しました。安全です」と伝えると、機内は湧き上がって雲平に「Thank You!HERO!」と話しかける外人まで出てくる。
謙遜しながら座席に戻った雲平達。キャメラルが「クソー、ワイバーンは金になるのに勿体ナイ」と漏らし、「あはは、下は海だから仕方ないよ」と返した。
「んでも、なんでフォールに、ボルトに、デストラクションなんて撃ったんだよ?」
「本当はサンダーデストラクションだけを撃ちたかったんだけど、出ないと恥ずかしいし、この際だから順番に撃ったんだ」
「ヤベェな。でもやっぱりクモヒラはサイコーだな!後は顔が怖いから、私を心ゆくまで抱っこしてイイぞ!」
雲平はその言葉に従って、小さい子を抱くようにキャメラルを抱いて頭を撫でる。
「んー…いいね。シェルガイに行ったらアチャンメも抱こうかな」
抱きしめ合いながら頭を撫でる雲平に、キャメラルは初めは「お兄ちゃん」、「にーちゃん」とニコニコしていたのだが、徐々に身体を震わせる。
そして耳まで真っ赤にして、「んぁっ!?ひゃっ?ひゃうっ?クモヒラ、なんか変だ!?うまいから照れるし身体がアツイぞ!?」と言い出す。
「そう?でも落ち着く。キャメラルは寝てていいよ」
「寝れ…ねー……よ!?んっ!?」
そのうち満足した雲平が先に寝て、キャメラルはふーふー言いながら、「アンコは腹でこれとかやべーよ…、姫様は耐えるんだよな。すげーな」と言っていた。




