第32話 逃す訳ないわ、殺してあげる!
雲平とキャメラルの攻撃で傷を負ったオシコは、「あはは、やってくれたわね」と言うと、オシコの血溜まりはどんどん濁った色になり、魔物の放つ青黒い血に変わっていく。
そして立ち上がったオシコの肌は青い魔物のものに変わっていた。
「魔物化!?それで生き延びたのか!?人の身で結界を抜けてここにきた!?」
慌てるミスティラは、「傍目に勝てる能力値ではない!セムラ!発動だ!雲平とキャメラルを迎え入れろ!」と言った。
セムラは頷いてゲートを発動させる。
赤黒い光がセムラ達を覆い、雲平に向かったが、オシコは「逃さない」と言って光を引き裂いた。
「逃す訳ないわ、殺してあげる!」
オシコの圧に雲平とキャメラルは死を覚悟したが、クラフティは変わらずにオシコに向けて剣を振るう。
「クラフティ!?」
「約束を違えた奴を俺は許さない」
サモナブレイドの一撃はオシコに傷をつける。
オシコは苦痛に顔を歪めながら、「謝る!謝るわよ!ごめんなさい!」と言うと、クラフティは剣を下ろして「次はない」と言って狙いを雲平に変える。
剣を受け止めた雲平に、クラフティは「君にならセムラを任せられる。奴は神獣武器で傷つけられる」と言うと、斬り飛ばしてアースランスを向ける。
キャメラルが割り込んで必死に雲平を助け起こすと、もう一度斬り込んできたクラフティは「なんとかこの場から逃げおおすんだ」と言って、殺意全開でアースボールを放ってくる。
容赦のない攻めに雲平とキャメラルはゲートに近付けずにいる。
準備を終えたセムラは、「雲平さん!戻って!」と声を張るが動くことは叶わない。
見かねたアチャンメが「ちっ、私が行く!」と言うが、ミスティラから「ダメだ!あの場に割り込めるのは私だけだが、私が動けばオシコが動く。ウォールが破壊されれば全滅だ」と言われてしまう。
「じゃあどうすんだよ!クモヒラとキャメラルを見捨てるなんて言わせネーゾ!」
ミスティラはどう動くべきか思案していた。
大魔法で時間を稼ぐと同時に、ゲートを発動させてアチャンメに2人の回収をさせる事も勿論考えたが、リスクが大きすぎる。
何をやっても犠牲が出る。
だがセムラの精神的支柱になっている雲平と、ジヤーとの架け橋であるキャメラルを失う事は避けたかった。
一瞬の間に何遍も思案しては廃案にする。
声にならない声で唸るミスティラの前では、アースランスが肘をかすめて雲平は流血していた。
「カヌレ」
そう呼んだのはブランモンだった。
「ブランモン様?」
「一つ聞くがジヤーの酒は甘いと言ったな」
「は?」
「それに腸詰は脂こいそうだったな」
「何を?」
「うぅーむ、ダメだ」
棒読みのブランモンはセムラの方を見て、「姫様、やはり魚は水が変わると生きてはいけませぬ。私は好物の酒と腸詰が変わっては生きていけませぬ。わが隊員をよろしくお願いします」と言った。
セムラが「ブランモン?何を?」と聞き返すと、ブランモンは「私はやはりレーゼ人。散る時はレーゼで散りとう御座います」と笑顔で言うと、ミスティラを見て「作戦はいりますかな?私が時間を稼ぎます。2人を逃しますので退避ですぞ」と言った。
「良いのか?」
「構いませぬ。腸詰と酒の合わない土地など行きとうないのですよ。我が身はレーゼに散って花となり草となり、皆を守りましょう」
この言葉にブランモン隊全員が立候補をした。
「じゃあ俺も!」
「ジヤー行っていじめられたくねーし」
「隊長は爺さんで心配だから俺も!」
「確かに!隊長は腰が悪いしな」
「ここ1番でミスると困るしな」
そう言って、セムラに「姫様ごめん」と謝ると、「ほら行きますよ!」と言って駆け出した。
・・・
クラフティの剣を受け止めたブランモンは、雲平とキャメラルに「退け!姫様を頼む!」と言い、ブランモン隊もクラフティに抱きついて、「早く逃げろ!」と言う。
躊躇する雲平に対して冷静なキャメラルは、「感謝スル!私の半分はレーゼだから自慢ダ!」と言って雲平を連れて下がった。
ブランモンはサモナブレイドの一撃で吐血して、顔を苦痛に歪めていた。
クラフティが「ブランモン…」と声をかけると、ブランモンは「殿下、殿下のお考えこそわかりませんが、私は姫様を支持します」と言う。
クラフティは悲しげな顔をしてから小さく「感謝する」と言って「ならば死ね!アースランス!!」と言い、自身に抱きついていたブランモン達を蹴散らしていた。
「ブランモン!!皆さん!!」
「泣くなセムラ!ゲートを発動させるのだ!ブランモン隊の命を無駄にするな!」
セムラは泣きながらペンダントに力を込める。
赤黒く光るゲートが肥大化した時に、オシコが「やらせない」と言って前に出るが、雲平は「お前は来るな。お前は倒す」と言った。
その顔はチュイールを倒した時の顔で、キャメラルが「クモヒラ!?落ち着け!」と言ったが、雲平は止まらずに「サンダーデストラクション!」と叫び、オシコに雷の雨を浴びせた。
「ガァァァッ!?なんなのこの地球人!?ボルトまではまだしもデストラクション!?シェルガイの適性がありすぎる!?」
オシコはウォールで雷の全てを受け止める間に、ゲートの光がキャメラルと雲平を包んだ。
「逃すか!!」
そう言ったオシコの一撃はゲートの光に当たったが、雲平達は無事にレーゼから撤退をした。




