第29話 これより我らは消耗品。決して立ち止まるな。
ブランモンの部隊は、セムラ捜索の名目で待ち伏せを放棄していた。
セムラ達はその場を抜けたことにして城を目指す。
「ブランモン、あなたもあなたの部隊もジヤーに着いてきてください!ジヤーと力を合わせてレーゼを救います!」
目に力の戻ったセムラを見て、ブランモンは「わかりました!」と返事をすると、「恐らくクラフティ様はあの女に惑わされています!倒すべきはあの女です!」と言う。
この言葉にセムラとカヌレは「違いない」と盛り上がるが、雲平はクラフティを知らない事からそこには賛同せずにいた。
それはアチャンメもキャメラルも変わらずに居た。
「アチャンメ、最悪は戦争を止める為に…」
そう雲平が言うと、アチャンメとキャメラルは返す。
「クモヒラは姫様係だから私がヤル」
「アチャンメは姫様係してナヨ、私がヤル」
そこにミスティラが口を挟んできた。
「それが最良だな。恐らく奴の意志でオシコは関係ない。やつを仕留めた時に、必ずサモナブレイドを奪い取れ。クラフティが死んだ直後ならサモナブレイドは起動する。その間にセムラに渡して完全体にしたサモナブレイドの力で、魔物を全てコジナーの土地に押し戻してやる」
セムラはカヌレとブランモンの会話に雲平が参加してこない事を気にして声をかける。
「雲平さん?何のお話ですか?」
「はい。この先の話です」
「それでしたら、シェイク王子の力を借りて神獣武器を回収して、魔物を狩り尽くします」
「ええ、そうらしいですが…」
場当たり的な返答でボロが出そうな雲平がミスティラを見ると、ミスティラは先程まで話していた内容を語るように説明をした。
「それは話していたが楽観すぎる。一度話す必要があるが、使い手が居ない恐れもある。だからまずはジヤーまで撤退をして国境を守る必要がある」
「…神獣武器の担い手が選ばれない可能性は失念していました。わかりました。ひとまずはジヤーに参りましょう」
セムラが扉に向かうとブランモンが先に出て周りを見る。
そして兵達を集めると「我々ブランモン隊はこれから姫様直下の兵として、姫様をお守りしてゲートに向かいジヤーに行く。それは決して楽な道ではない。隊を離れ、私が謀反を起こしたとクラフティ殿下に報告することも間違いではない。選んでくれ」と言った。
兵達は一瞬の迷いの後で、家族や妻子のいない者達だけが名乗り上げた。
ブランモンは家族や妻子のいる者達に「間違っていない」と言った。
「お前達には別の命令を与える。痕跡を見つけたと言って他の隊まで援軍を呼びに行け。お前達は正しい。お互い無事に生き延びたらまた会おう」
そう言うと、セムラを見て「姫様」と声をかけた。
セムラは頷くと前に出て、ブランモン隊の兵士たちに声をかける。
「皆さん、道を共にする皆さんはこの先もよろしくお願いします。誰一人欠ける事なくジヤーへと参りましょう。レーゼを選んでくださった皆さん、ありがとうございます。皆さんが居てくれればレーゼを離れる私は安心してジヤーを目指せます。再会を願っています」
ブランモン隊の兵士たちは整列して敬礼をし、中には泣いている者もいた。
・・・
「ブランモン隊!前進!姫様の道を切り開く!」
ブランモンの号令で、15人の兵達が抜刀をして前進を始める。
「カヌレ、これより我らは消耗品。決して立ち止まるな。姫様が戸惑われる時こそ、お前がしっかりしろ」
「わかりました。ですが私よりも…」
カヌレは横を見ると、雲平が「セムラさん、こっちへ」と声をかけて、セムラも当たり前の顔で「はい。よろしくお願いします。雲平さん」と言いながら雲平の首に腕を回す。
ブランモンは「そうだな」と言って笑うと、雲平に「雲平殿、姫様の護衛をお任せします」と声をかける。
雲平は「頑張ります。俺達には皆さんが居て、アチャンメとキャメラルも居るから大丈夫です」と返すと、アチャンメとキャメラルはニタァと笑って「余裕ダゼ」、「任せてトケ」と言った。
隠密行動に出ると思ったクラフティはセムラの行動に目を丸くする。
「ゲート付近に陣を敷く。捕獲は最低限の兵で迎え、カヌレが馬車の時と同じく影武者を用意する可能性があるから探索にも兵を割け。私もゲートに向かう」
クラフティの指示に兵達は動く。
そこに疑問はなく、クラフティ付きのレーゼ兵がいかに優れているかが伺えた。
・・・
「次を左だ!」
「そっちは壁です!入口は反対方向です!」
ミスティラの言葉に異論を唱えるカヌレに、「お前が知らないだけだ」と返すミスティラ。
だがカヌレの言葉通り城壁にはたどり着くが一面壁しかない。
カヌレがほら見たことかと言おうとすると、ミスティラは「安普請だな」と笑ってカヌレに剣で壁を殴れを言う。
怪しんで殴り付けた壁は容易く割れると、出入り口が生まれてしまう。
「んな!?」
「おお、クソ硬い城壁を破壊するとは、ハニーは力持ちだな!」
驚くカヌレに喜ぶパウンドを見てミスティラは笑うと説明した。
「違う。ここは昔私がイライラして魔法を放ったら壊れたんだ。穴を開けてしまった以上、致し方なく自費で修繕した壁だ。当然金を惜しんで安く仕上げたから脆いままだ」
そんな事があった事も知らないセムラだが、これはブランモンですら知らない事だった。
「この城は掌握済みだ。行くぞ」
ミスティラの声で祭壇が置かれた裏庭を目指す雲平達。
15人の兵達の前に100を超える兵達が立ち塞がる。
乱戦と共に戦力差で次々と兵達が討たれて行くと、セムラは顔を顰めたが必死に全てを見ようとしていた。
セムラの顔を見たアチャンメとキャメラルは2人で頷き合う。
「任せロ」
「一人でも多くジヤーに連れてイク」
「クモヒラ、一瞬離れるから姫様を頼ムナ」
「尻でも揉んで待っテロ」
アチャンメは「右!」と言って右に向かうと、「ゴチャゴチャクソうゼェ!」と言いながら剣を持つ腕か、片足を狙って切りつけ、キャメラルは身を低くして左側を駆け抜けると足ばかりを狙っていく。
「まともに相手スンナ!」
「私たちが追いつけなくするから駆け抜ケロ!」
この言葉にカヌレはパウンドに、「私にダーリンと呼ばせたくば力を示せパウンド!」と声をかけて、10人近い兵士を一撃で斬り飛ばす。
パウンドは「おお!任せろハニー!」と言うと、槍の大振りで同じく10人近い兵士が薙ぎ倒される。
「こう乱戦では魔法が使いにくい」
そうボヤくミスティラを無視して、雲平は「アチャンメ!キャメラル!カヌレさん!パウンドさん!10秒後!撃ちます離れて!」と指示を出して走り出す。
雲平はサンダーウェイブを放ち、そのまま兵の壁を突破して「このまま向かいます!着いてきてください!セムラさん!道案内!」と言った。
「ほほぅ、中々やりおる」
そう言って喜ぶブランモンに、アチャンメは「あれ危ないんダヨ」と説明を始める。
雲平はすぐに無理をして暴走する事を聞いて、納得をするブランモンの目の前ではキャメラルが「姫様腕!雲平!手が塞がってるから舐め回せ!シャブレ!」と指示を出して、2人は真っ赤になりながら100歩譲って頬擦りに落ち着く。
「照れますぅぅっ」
「俺もです」
雲平はそう言いながらもセムラの腕に頬を擦り付けて、セムラも逃げる事なく恍惚の表情で腕を差し出した。
「あれは何とかならないか?」
「ならねえって。姫様もアレしてるから耐えられてんダゼ?」
ブランモンは少しだけ肩を落として、「陛下、申し訳ございません」と呟いていた。




