第28話 ちょっと刺激の強いコトをするカラナ。
クラフティは城に向かっていた。
それは横にいた女、オシコの助言によるものだった。
「向こうにはミスティラがいたわ。ミスティラはもう300年以上生きている女よ。きっとここの誰よりも城を熟知している。奴なら城のゲートから安全圏に避難するわ」
「賢者ミスティラか…。一つどころに居ないで諸国を漫遊して、トラブルを片付ける不死の賢者」
クラフティの言葉に「不死の賢者?」と聞き返したオシコは、鼻で笑いながら「死ねずの罪人。罪の連帯責任者よ」と言うと、城に向かって歩き始めて口笛のように構えて息を吐くと、魔物達の一部が城に向かって進み出したが何も出来ずにいた。
「クラフティ、墓所の結界を解きなさい」
「断る。魔物達はお前の言う事を聞くと言われても、民達を襲わないという保障にはならない」
睨むように言い放つクラフティに、「酷い言われようね。まあいいわ。それなら兵士達に頑張らせなさい。くれぐれも姫のペンダントだけは持ってこさせなさいね」とオシコは言って城に向かって歩いていた。
城の周りを固める兵士達は困惑していた。
言われるがままに動いていたが、死んだとされるセムラは生きていて、シュートレンはクラフティに殺される。
そして祭壇に生まれたゲートとクラフティの横にいた、闇夜のような黒いロングヘアで、深いスリットのスカートを履いた美女。
美女なのだが、何処か人と違う気配と目で恐怖しかなかった。
そして下された命令は、手足の欠損は致し方ない…不問に処すからセムラを確保して、ペンダントを確保する事で、邪魔だてするのであれば賢者ミスティラであろうが、カヌレであろうが容赦をするなと言うものだった。
だが異を唱える兵士は少なかった。
「ここで立ち止まれば魔物達をどうする?戦争の用意をしているジヤーにどう対処をする?」
この問いを前にしては、クラフティに従ってレーゼを守るしかなかった。
・・・
兵士達は姫から城を守る為に陣を敷く。
異常事態だが、兵士達は思考を止めて任務に忠実になることにしていた。
「なあ」
「言うな!」
「違うって」
「言うなって」
「だから違うから聞いてくれよ」
「なんだよ」
「姫様遅くないか?先程賢者の雷魔法を見てから陣を敷いたのにまだ来ないぞ」
「来ないなら来ない方がいいだろ?俺は出来るなら他の所で捕まって欲しいよ」
「そうだな」
この会話が特別珍しいものでは無かった。
随所から聞こえてきていた。
だが何処にもセムラは現れない。
外で魔物との戦闘音すら聞こえてこなかった。
・・・
一部隊がクラフティを裏切り、セムラを保護していた。
セムラは放心状態のまま話にならず、面識のあったミスティラとカヌレが、部隊長を勤めた老兵ブランモンの手引きで空き家の中に匿われていた。
「姫様…、おいたわしや。眼前でシュートレン様を失い、それも手を下したのがクラフティ様だなんて」
そういうブランモンは雲平を見て、「地球の方、姫様をお守りくださりありがとうございます。カヌレから聞いた通りであれば、地球での出会いから今日まで姫様を守り支えていただけて感謝いたします」と言って頭を下げた。
雲平は謙遜しながら「この先はどうしますか?城のゲートを抜けてジヤーまで行かないと」と言う。
「クモヒラは地球に帰らなくて平気カ?」
「先に地球にして貰ウカ?」
「ううん。ダメだよ。俺の事は後の話だよ」
バット姉妹はニタァと笑うと「流石クモヒラ!」、「ありがとナ!」と言って喜ぶ。
「だが問題がある」
ここでミスティラがセムラを見て表情を曇らせると、「単純に入るのは誰にでもできるが、出口の変更などゲートの操作には宝玉の力が必要だ。だが使い手たるセムラがこれでは、ジヤーに飛ぶ事もかなわないぞ」と言う。
今もセムラは、雲平の腕の中で小さく何かを呟いて泣いている。
周りを見る。会話をする。その事すら無理で、ゲートの操作なんて夢のまた夢だった。
下手をするとブランモンにすら気付いていない。
「んー…、アレかなキャメラル?」
「ダロ?クモヒラと一緒だ」
2人で納得をしたバット姉妹は、カヌレとブランモンにひと言先に言う。
「ちょっと刺激の強いコトをするカラナ」
「騒ぐなヨ」
そう言って黙らせると、アチャンメがセムラの耳元で「姫様、ヤバい。クモヒラが限界だ、腕を出してクレ」と言った。
泣いていてブツブツ言っているだけのセムラだが、雲平の名には反応を示して、おもむろに雲平を見て袖をまくって二の腕を出してくる。
「クモヒラ!揉め!」
「キャメラル!?カヌレさん達見てるよ!?」
真っ赤になった雲平だったが、キャメラルは睨みを効かせる。
「クモヒラぁぁ…、姫様は恥ずかしくても、クモヒラの為に風呂に入ってくれたんダゾ。クモヒラが今度は恩返しダヨ」
雲平はひと通り周りを見てから諸々を諦め、「うぅ」と言ってから、「セムラさん。失礼します」と言ってセムラの二の腕を揉み始めた。
表情は無いのに、徐々に紅潮してきたセムラは段々と小さくはしたない声を上げる。
「あぁ……雲平さん…、今日はいつもより刺激が強いです」
無表情だったセムラは照れた顔と潤んだ瞳で雲平を見てくる。
そして愕然と「姫様…そんな」と言うカヌレとブランモンに気付いたセムラは、「きゃっ!?」と声を上げて、「ブランモン!?どうして?」と驚きの声を上げた。
「にひひ。効果絶大だな姫様!」
「クモヒラも姫様の腕で元気になれたし、姫様もクモヒラに揉まれて元気出たしバッチリだな!」
喜ぶバット姉妹に顔を赤くする雲平とセムラを見て、パウンドが「ミスティラ様、なんか照れますし、こう…胸の奥が震えます」と言って、ミスティラから「性の目覚めか?良かったな。カヌレに頼むと良いぞ」と言われている。
パウンドは「うっす!ハニー!よろしくお願いします!」とカヌレに言っていた。




