第27話 レーゼから逃すな。
雲平はクラフティが生み出した赤い渦を見て、「あれは…、ゲート?」と呟く。
雲平の呟きに反応するように、「まだ未完成だ!距離を取れ!」とミスティラが声を出す。
「クモヒラ!周りが動かない今がチャンスだ!」
「退くぞ!」
アチャンメとキャメラルの声で後退を始める雲平は周りを見てみると、民達は呆然としていて、カヌレは「そんな、クラフティ殿下……シュートレン陛下」と放心のまま呟いていて、パウンドが抱えて走っていた。
「何がどうなっているんです!?」
雲平の言葉にミスティラが説明をしながら走る。
「杞憂なら良かったのだ。カヌレの言葉を聞いて嫌な予感があった。無理のある話の流れ、姫殿下の捜索もロクにせず、死を早々に受け入れて、戦争を始める為に葬儀を執り行うなんて普通じゃない。そうなれば目的は地下墓所のサモナブレイドだとすぐに気付く。そしてサモナブレイドを持ち出す理由など一つしかない」
ミスティラが説明をしている時、壇上のクラフティの横では1人の女がゲートを見て、不満げに「小さい」と呟き、「サモナブレイドが本来の力を示してない?」と疑問を口にした。
「シュートレンが生きている?死んだからこそゲートが開いたのよね?シュートレンが偽物?そもそもゲートが開かないわよね」
そう呟いた女は、クラフティのサモナブレイドを見て、「足りない!?クラフティ!サモナブレイドに宝玉が無いわ!」と言った。
話が聞こえていた雲平を見て、ミスティラが「お前は優秀だな」と言った。
「身体強化の恩恵であの会話が聞こえていたな。そう、万一に備えてサモナブレイドから宝玉を抜き取ったのは私だ。それは一子相伝も許さずにいたので、今や私しか知らない事だ」
では宝玉は何処にある?
雲平はすぐに理解をした。
セムラを見ると、涙を流して放心しているセムラは、死体のように雲平に抱かされていた。
雲平の視線を見たミスティラは「正解だ。姫が奪われたらおしまいだ。逃げるぞ」と指示を出した。
「逃げる?」
「姫は宝玉の力を収納魔法かなにかが入ったペンダントと誤認している。先程、草案の書面を出してしまっていた、あやつにはすぐにバレる」
その言葉通り、クラフティの横にいた女は「ふふふふ、分けたわね?片割れはお姫様のペンダント!」と気付き、クラフティにセムラの捕獲を命じた。
クラフティは苦々しい表情でセムラを見ると、兵士達に「レーゼから逃すな、ジヤー側を塞がせろ」と指示を出していた。
中途半端に足止めに出る兵士を見て、ミスティラはすぐにジヤー側の出口が塞がれた事を理解した。
ジヤー側に逃げなければ早晩捕まってしまう。
「ちっ、逃げ切れるか?合法殺人はまだしも大量殺戮は趣味ではないが致し方ない!通り道を塞ぐ魔物と兵士を殺す!」
ミスティラは「パウンド!私も抱えろ!」と指示を出しながらパウンドに飛び付くと、パウンドは「了解です!ハニーがいるから槍は我慢してくださいよ!」と言って槍を持つ手でミスティラを抱きかかえた。
ミスティラは「ゴツゴツ痛い」と文句を言いながらも攻撃を開始する。
「見てろ雲平!これが賢者の雷魔法だ!」
そう言い集中をすると、「サンダーデストラクション!」と言って雷をコレでもかと降らせて足止めの兵士達を黒焦げにしてしまう。
目の前がチカチカする中、雲平は為になると思案しながら高台に出ると、眼下に広がるレーゼの街とその先を見て愕然とした。
街にはレーゼ兵がこれでもかと待ち構えていて。その先、レーゼの出口から先には見たこともない量の魔物達が待ち構えている。
「チッ、んだあの量!?」
「マジかよ…どうすんだ?クモヒラ!」
眼下の景色を見て「なんで…魔物が?」と呟く雲平に、ミスティラが「あの女だ、クラフティと共にいた女が、サモナブレイドに惹かれてきた魔物を支配して集めている」と言った。
「それって?どう言う事ですか?」
「…奴はコジナーの人間だ。名はオシコと言う。どうやってサモナブレイドの結界を抜けたかわからぬが、奴はクラフティと手を結んだのだろうな」
この言葉に雲平達は愕然とし、カヌレは「まさかそんな!?」と声を荒げた。
「今はんな事より脱出ダロ?」
「あの大群はさっきの雷で蹴散らせるノカ?」
アチャンメとキャメラルの言葉にミスティラは首を横に振ると、「あれだけで済めばいいが、それで済まないだろう。乱戦になれば追いつかれる。私は生き延びられてもお前達は無傷では済むまい」と返す。
「ならどうします?」
パウンドの言葉にミスティラは「城に向かう」と言った。
「お城ですか?」
「ああ、ゲートの出口を地球ではなくジヤーにして転移してしまう。その後はレーゼのゲートを狂わせてでも追撃が出来なくすればまだ立て直せる。
この提案しかないと言う事で皆が頷き、パウンドが「ハニー、辛いと思うが道案内は頼める?」とカヌレに聞くと、カヌレは「…任せてくれ」と弱々しく言ってパウンドの腕から降りた。
カヌレは未だ放心のセムラを見て「雲平殿、姫様をお願いします」と声をかけると、雲平は「わかりました」と返す。
ミスティラは「あの城は一時期住んでいた。お前よりも詳しい」と言って前に出ると、アチャンメが「おお、頼もしいナ」と言ってミスティラの頭を撫でる。
「なんで360歳の私が頭を撫でられる!?」
「見た目重視ダヨ」
キャメラルのコメントにミスティラは「そんな事を言われるのなら、早く大人になりたい」と漏らしていた。




