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彼と彼女のデザイア。  作者: さんまぐ
シェルガイ-ジヤーの地から始まる戦い。

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第20話 何を異世界に夢なんて見てるんだ。

雲平はセムラを抱えながらも軽々と動き、次々に剣を振るう。

セムラが心配そうに「雲平さん!」と呼びかけても、雲平は反応せずに「名前…、連れて行かないと」、「俺が殺してあげないと」、「こんな世界で、知らない人間に殺されるなんてダメだ」と言い続けている。


アチャンメは雲平を見て嬉しそうに、「わぁ!クモヒラは身体強化系の能力か!?」と言い、キャメラルが「私とアチャンメと一緒!」と喜びながら、未だ仮面を取らない連中を斬り殺していく。


30人居た地球人は残り12人になっていた。

雲平はボウガンを回避しながら戦うが、どうしても経験がないことから位置取りが甘く、足元に転がる死体の山が邪魔になって攻めかねていた。


一方のチュイールは、剣と魔法と魔物が当たり前のシェルガイ人らしく場慣れしていて、雲平が素人と気づくと「魔法戦に切り替えろ!魔法で逃げきれなくなるまで攻め立てろ!」と指示を出すと、数人の地球人は手を前に出して雲平に向けて火の玉や氷の玉を放ってくる。


雲平は無表情で足元の死体を蹴り上げて、足元を片付けるついでに盾にしたりしていて、かえって地球人達の方が、死体とはいえ同胞に魔法を当てる事を躊躇し始めている。


とは言え多勢に無勢。

何回かはかわしきれずにセムラがウォールの魔法を使い雲平を守る。


「アチャンメ!キャメラル!手が足りません!雲平さんをお守りしなさい!」

「わかってる!」

「待ってろクモヒラ!」


キャメラルの声に無反応の雲平は、回避を続けながらブツブツと「魔法…どう撃つんだ?奴らの手を見るんだ」と呟いていた。



・・・



チュイールといえば引き際を気にしていた。

足止めとしてはもういいくらいだった。

普通の足ならば、もう葬儀会場には間に合わない。


空はいつの間にか夜明け空になり、この森の奥にも朝日が差してきている。


そもそもこんなに苦戦する事は無いと思っていた。

運は自分に向いている。

勝利は確実だと信じていた。


僥倖だったのは、セムラ探索のついでに偶然立ち寄った武器屋で雲平を見かけて、荒熊騎士団の少女を見かけた事で戦力把握は済んでいた。

しかも剛剣と名高いカヌレは別行動をし、各個撃破も出来た。


後は数で攻め入って押し切ろうとしたのだが、雲平が躊躇なく地球人を殺し、身体強化の能力に目覚めてしまい苦戦を強いられる。


これ以上は足止めの意味もないので、引き下がる事を考えながらも欲は出ていた。


このまま雲平とセムラを亡き者にして、アチャンメ達から逃げ果せれば大金星で、これからのレーゼで発言権を得られるのではないか?


この考えが良くなかった。

チュイールはさっさと引き下がるべきだった。


雲平は地球人達の手とウォールを使うセムラの手を見ながら、「掌に力?何かがある」と呟くと、自身の手を見て「撃てる気がする」と確信する。


「何でもいい!出ろ!」


雲平の声とともに、雲平の目の前が真っ白に光り輝くと、稲光が地球人に向けて走った。


反撃を予想していなかった地球人が、3人ほど黒焦げになって死に、残りの地球人は「雷?」「初めて見た」等と言って驚いている。


セムラは驚いた顔で、「サンダーウェイブ…雲平さんは魔法も放てるのですか?」と聞くと、ここで雲平はセムラを見て「なんか出ました」と言った。

そのまま雲平は「ごめんなさい。身を守っていてください。地球人は殺して名前を日本に連れ帰ります」と続けて、セムラを下ろして前に出る。



この先は一方的だった。

躊躇なく地球人を殺す雲平と、逃げ出したい地球人。


雲平は「名前を教えてください。日本に連れ帰ります」と言いながら剣を振るい、覚えたばかりの魔法、サンダーウェイブを放つ。


あっという間に地球人が全滅すると、チュイールは「化け物が」と舌打ちをしながら言い、雲平を睨み、睨まれた雲平はチュイールを睨み返して、「あなたは許せません」と言った。


「何を言う?」

「あなたが地球人を差し向けなければ、俺は人殺しにならずに済んだんだ」

「嬉々と殺しておいて何を言う」

「嬉々となんて殺してません。訂正してください」


雲平は訂正を求めながら斬りかかると、チュイールは剣で雲平の剣を防ぐ。

チュイールの剣は銀と黒を合わせたような色をしていた。


「カオスチタン…」

「よく知ってるな!ヘブンチタニウムでいつまでも防げると思うな!」


チュイールはここぞとばかりに雲平を攻め立てる。


「距離は取らせぬぞ!雷使い!私も長く戦いに身を置くが、サンダーウェイブを放つ地球人なんて初めてだ!城の魔道士達も雷を宿す者は貴重!何者だ!」

「何を言いますか!」


雲平は「ごめんなさいセムラさん。俺はシェルガイの人も殺します」と言うと加速をする。


加速した雲平は、チュイールには追いきれずに刀傷だけが増えていく。

勝負あったと思ったところで、チュイールは「私を殺すとどうなるか考えろ雲平!」と声を荒げた。


その顔に余裕はない。


雲平は訝しみながら足を止めると、ニヤリと笑ったチュイールは声を張った。


「先日の奴隷は足手まといでジヤーに置いてきた!私が戻らなければ奴はどうなる?そう!死だ!哀れで惨めな孤独死!餓死だ!」


雲平の脳裏には、口や鼻から血を流しながら必死に名を伝えて生きていると言い、家族に助けてくれと、日本に帰りたいと言った国府台帝王の姿があった。


雲平が止まるのを見逃さないチュイールは、そのまま続ける。


「私の屋敷にはまだ20人の地球人奴隷が居る!私が戻らなければその者達はどうなる?そうだ!死だ!」


雲平の脳内には国府台帝王が居た。あの自ら剣に飛び込んできて血生臭さと、生暖かさを出しながら死んだ勝田台風香が居た。

名を名乗る前に死んでいた、それ以外の地球人達。


皆の顔が思い浮かび、まだ顔も知らない20人の人質を考えた時、雲平はその中に父母がいる事まで考えてしまった。


そして肩を落として俯いてしまう。


「雲平さん!」

「クモヒラ!?」

「アチャンメ!こっちはいい!あっちだ!」


セムラ達の声が聞こえ、チュイールが「わかっているではないか。皆の者、引くぞ」と言った時、雲平はキレていた。


「勝手にシェルガイに来て破滅して死にたくない?」

「帰りたい?」

「想像力が足りないんだ」

「何を異世界に夢なんて見てるんだ」

「バカも大概にしろ」


雲平は一気に距離を詰めてチュイールの腹に剣を突き立てる。


愕然とするチュイールに、雲平は冷酷に言い放った。


「地球人に負ける事も想像してください。シェルガイに来て滅ぶ地球人?勝手に死ねばいいんです。俺たちを捨ててシェルガイに来て、何年経っても帰ってこないんだ。地球に未練なんてないんだ」


そう言うと、すがすがしい顔をチュイールに向ける。


「ありがとうございます。なんかスッキリしました。とりあえずあなたは敵です。殺します」


雲平は震えるチュイールの手からカオスチタンの剣を手に取ってみると、想像以上の重さで、貰う気にはなれず、「重いな、ショートソードなら貰ったけどいらないや」と言ってチュイールの肩に剣を突き立てて離れた。


チュイールが崩れ落ちて震える中、雲平は「避雷針、知ってますか?」と言うと、さらに冷たい目でチュイールを見る。


「落ちてこい!サンダーウェイブ!」


そう言うと、チュイールの剣に向かってコレでもかと落雷を発生させる。

目が眩む程の落雷の後で、チュイールは黒焦げの死体になっていた。

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