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彼と彼女のデザイア。  作者: さんまぐ
シェルガイ-ジヤーの地から始まる戦い。

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第19話 雲平は強いし怖いんだよ。

かのこの安倍川家に顔を出すあんこは、「春休みでよかったよね」とかのこに話しかける。


あんこの言葉にかのこは頷くが元気はない。

グラニューとバニエが飛鳥山公園での出来事を伝えた時、かのこは激高して怒鳴り散らした。

そもそもバニエもグラニューも文句の一つを言いたかったのだが、それを許さないかのこの剣幕に謝ることしか出来ずに居た。


そしてその後には、アメリカの日本大使館から電話があり、ゲートに飲まれた雲平は無事で、レーゼではなくジヤーにいる事と、ジヤーのゲートはアメリカに繋がっている事から、日本に帰る為にレーゼを目指すという話だった。


グラニューの話でゲートに飲まれたとあったが、ひとまず無事で良かったと安心した。

だが多くを語らないグラニューとバニエには不信感しかないし、セムラを妨害した連中の国に行かなければ帰って来られない雲平の現状には心配になる。


そして口には出さないが、息子の金太郎と妻の瓜子同様に、シェルガイを気に入り帰ってこなかったらと思うと、気が気ではなかった。


「お婆ちゃん。お茶にしようよぉ〜。おみやげは甘味天国のぼた餅だよー。お茶はお婆ちゃんのが美味しいから淹れてよぉ」


甘えるあんこに「うふふ。あんこちゃんは可愛いわね」と言って、かのこは嬉しそうにお茶を淹れると「ありがとうね」と言う。


驚くあんこに、かのこは「若い身空で、こんなおばあちゃんとこに毎日来てくれるなんて、感謝しかないわ」と言って誤魔化すようにお茶を啜る。


「何言ってんの!?チームだよチーム!セムラちゃんを守る会だよ!雲平が居ないだけでチーム!」

「うふふ。チームね。雲ちゃんは大丈夫かしら?」


かのこの言葉にあんこは凄い表情で、「お婆ちゃん…、それはどっちの意味?」と聞いた。


「え?」

「雲平は強いし怖いんだよ」

「あら?そうなの?」

「そうだよ!おじさんとおばさんがシェルガイに行ってからは、お婆ちゃんが心配するからって大人しいけど、雲平は強いし怖いの!」


この言葉にかのこは驚いた顔をした後で、「お爺さんや金太郎に似たのね。てっきり瓜子さんに似たと思っていたわ」と言うと、嬉しそうに「それでどう怖いの?」と聞いた。


あんこは怖いものを思い出すように説明を始めた。


「子供の頃に私があんこの名前で揶揄われた時に、『あんこはあんこでも美味しくないし違うよね』って話にしても、それで揶揄う連中を止めたけど、ソイツらが雲平に私の事を好きなのかとか揶揄ったら、『あんこに謝れ』ってブツブツ言い出して、躊躇なく相手をボコボコにするんだよぉ。あの顔と声は怖かったよ。それなのに相手が謝ると、コロッといつもの顔になって『あんこはあんこでも美味しくない』って言って、また笑うんだよ」


かのこは知らない孫の一面が知れて喜ぶが、「でも金太郎が居なくなってからは出てこないのよね?」とあんこに聞く。


「んー…。高校が違うからわかんないけど、怖い雲平が出てくるまで時間がかかるだけで、きっと出てくるよ」


そう言って身震いすると、「セムラちゃんを襲ったゴブリンだっけ?スマホ見てるとあの魔物もシェルガイだと弱いけど、日本だとそこそこ強いんだってよ。雲平は怖かったみたいに言ってたけど、シレッと倒したんだよ?」と続けた。


「あらあら。じゃあお婆ちゃんの心配し過ぎだったわね」


かのこは途端に穏やかな空気を出すと、ぼた餅を食べて「美味し」と喜ぶ。


かのこの変化に、あんこが「お婆ちゃん?」と聞くと、かのこは雲平の祖父の遺影を眺めた。


「死んだお爺さんも怖い怖いと言いながらも、戦争で海外に行って帰ってきたのよ。怖い怖いと言ってたから、どれだけ意気地なしなのかと心配したけど、戦後に会った戦友の人から『安倍川は怖い。口では怖がるくせに、誰よりも敵を退けてくれた。それも我々のように怯えてではない。目は座り無表情で淡々と仕方ないと言いながらだ』と聞いた話を思い出したのよ」


夫の血が息子に宿り、孫に宿っていた。

かのこは自慢気にそれを話し、亡き夫に感謝をする。


「えぇ?じゃあ雲平も淡々と敵を倒してくるの?」

「ふふ。戦争はやらなければやられるわよ。お婆ちゃんは雲ちゃんが帰ってきてくれたらそれでいいのよ」


あんこは独特な考え方だと思ったが、かのこが元気になってくれたのなら、それでいいと思いながらぼた餅を口に運ぶ。


「あんこはあんこでも美味しくないし違うよね」


その言葉を思い出しながら、雲平とセムラの旅の無事を願っていた。

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